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しおりを挟む「やはり来たな」
――ラウドミア?!
慌てて振り返った先に、彼女はいた。フィリップ、セルジ、ロッテの反応は早かった。私が驚いて茫然としている間にフィリップとロッテは私を守るように彼女の前に立ち、その更に後ろにセルジが立つ。気づけば私は一番後ろで皆に守られる格好になっていた。立ち上がろうとして、疲労から膝が震える!
「大丈夫です! 落ち着いて」
ラウドミアに意識を向けながら、セルジがこちらを気遣う。彼も騎士団の馭者をする者。非戦闘員であろうとも、私なんかとは鍛え方が違う!
ラウドミアの存在に、全然気づかなかった。暗い森の中だからというのも理由の一つかもしれないけど、足音の一つもしなかった。そう言えばフィリップの時もそうだった。地面に大量の枯れ葉が転がっている森の中を足音を殺して移動するのは、騎士にとっては普通なの???
森の中を私たちを探して走り回っていたとは思えない彼女の出で立ち。汚れ一つ付いていない制服に、息切れしている様子もない。流石と言うべき? そんな彼女の視線の先には――フィリップ。さっき、私と対峙していた時に言っていた通り、彼女が探しているのは彼だけって本当なのかな?
「貴殿にも果たさねばならぬ責務があろう!」
「そうだな。君に不義理な真似はしたくなかった。それについては謝罪するよ」
「ならばなぜ――!」
ラウドミアはフィリップに厳しく当たっているように聞こえるけど、それに向き合う彼からも強い気迫を感じるからか、叱責しているようには見えない。お互いの強い意志がぶつかり合っている。
その意識から微妙に外れながら、ロッテがじりじりと後退してくる。どうしたんだろう? 嫌な予感がしないでもないけど。
「フィリップさんがあの女を引き付けているうちにずらかるよ!!!」
内緒話ポーズをとっているということは、本人にとっては内緒話のつもりらしい、うん。リラックスしているように見えて、彼女もそれなりに緊張していたんだ。私と同じだ、うん。だから気分が高揚しすぎて叫ぶように内緒話をしてしまったとしても、仕方ないよね、うん。
彼女の叫びでラウドミアの意識がこちらへ戻ったけどね、うん、こうなるの分かってた。
ラウドミアの意識がこちらに向くのに気づき、フィリップが帯刀していた剣の柄に手をかける。同時に彼女から私たちを守るように立ち位置を変えた。足の裏はなるべく地面から離さないように、大きく動き相手を刺激しないようにして――。
プロの戦闘というものを私は見たことがない。砂塵一つが命取りになりそうな緊張感。お互いがお互いしか見ていないように見えるのに、この場にいるだけでこちらにも寒気が伝わってくる。
「行くよ!」
この場から逃げると言っていたロッテの決意は、まだ変わっていないらしい。ラウドミアにちょっと意識を残したまま――
「お嬢様ごめん!」「え? ――わぁっ?!!」
ロッテは私を振り返り、そのまま肩に担ぎ上げた??! 私と彼女は結構身長差があったと思うんだけど、今どういう体勢になってる――わっ! 彼女は私を担いだまま走り出した!
彼女の方が体が小さいから、暴れると転ぶ可能性がある。それに今の私に自力で全力疾走できるだけの体力はない。
「すみませんっ!」
「いえいえ~? あたしって、役立つでしょ~」
足取りも軽やかにロッテは答える。私を担いでいるというのに息も切らさない。冒険者なら、この程度は普通なのかな? 小さい彼女に負担を強いているようで申し訳ない。早い。自分で走るより何倍も早い。息が切れないわけだ。はじめに森の中を走っていた時、彼女は本気じゃなかった。まさか準備運動と同じ、なんてことはないよね、たぶん。
先頭を趨るのはセルジ。商人と言っていたけど、彼も冒険者なみの実力がある? それとも、私が人一倍足りていない? 彼は、私たちが来た道を戻っているわけではなさそう。直接、トゥルゲに向かっているのかな? でも、関所を超えるには事務手続きが必要なじゃなかった? フィリップはそれをするために一旦場所から離れた。ラウドミアと衝突する前に必要な手続きを終えていたのかな?
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