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しおりを挟む次期・騎士団長? それとやっぱり聖女の騎士。
「聖女の騎士は君も知っての通り、未来の聖女の夫だ。これは世界の均衡を守るために必要なことだ。個人の感情が関与する処ではない」
均衡とか言われても、私には分からない。フィリップが妹の婚約者であることは分かってる。それを嫌がってこんなことをしてるわけじゃない。
彼は、私のものにはならない。ちゃんと分かってる。
「正式な任命前の火遊びも、分からないこともない。だが、奴は次期団長だ。火急に引き継ぐべき業務がある。このような場所で遊んでいる暇は、彼にはない」
『引き継ぐべき業務』……『遊び』。確かに、私のことなんかに時間を割いている場合じゃないのかもしれない。彼は騎士。私なんかより、遥かに価値ある人々を守るべき騎士。分かってる。 お願い、あと少し……あと少しだけだから!
彼を手に入れられるなんて、思ってないから――――!
「――だが、奴もバカじゃない。余程の事情がなければ、このような無謀な行いはしない男だ。奴に引き継ぎ事項を奴に伝えるため、ファイネン卿を訪ねたのだが……君の家は……いや――」
言い淀んでいる。
これはもしかしたら、ちゃんと話をすれば分かってくれるかも――
「ああーっ! お嬢様見つけたーっ!」
この場に能天気なロッテの声が響く。
ん? ロッテ? 申し訳ないけど撒いてきたと思ったんだけど??? 彼女はあの時と同じような格好で現れた! 細かく見れば中のシャツなんかは違うみたいだ。あれが冒険者スタイル? 楽しそうだな。私もあんな風になりたいな。
「えっと、あの、ロッテ? 今は取り込み中で」
そもそも何故彼女は私がここにいると分かったのだろう? ここ、人の気配がないし普通は人が来ないような場所なのかな?
「取り込み中? あああ! 暁ドロボーっ!」
「貴様! 毎度毎度、不名誉な二つ名を私につけないでもらおう!」
二人は顔見知り? 仲が悪いような、いいような。
フィリップたちとも彼女はこんな距離感だった。羨ましい。なんだかいろんな人に怒られてるけど、私はこんな子になりたいな。
「お嬢様、アーヘル領行くって言ってたよね?」
「え? あ、は、はい」
い、いきなり迫ってきた! この子はいつでも元気いっぱいだ。
「ってことは、こんなところで騎士と取り込み中になってるのは、フソクノジタイだね!!」
「う……ん?」
確かにそうなんだけど、その通りではあるんだけどこのままこの子に流されて大丈夫?
「待て、貴様! 話に割り込むんじゃない!」
ラウドミアが冷静な口調でロッテを諌めようとしてる。
「いやいや! これは黙ってられない! ケンリョクのオーボーは許さない! 正義は我に有り!」
ロッテは何か、明後日の方向に盛り上がっているらしい。こんな彼女を制御できるだけのスキルも、今の私にはない。
「あたしの正義の情熱は誰にも止められないっ!」
ロッテは高らかに宣言すると、上着の下から銀色の棒のようなものを取り出し、片手剣のように構える。鉤状になっている柄のついた、棒のようなあれは、ステッキ? 持ち手部分には紫色の紐が巻きつけられていて、柄の先には同色の房が付いてる。
「待てと言っているだろう! それを構えるなバカ! 杖と同じ作用を齎すと言ってるだろう!」
ラウドミアが慌てたように叫ぶ。ただ叫ぶだけじゃない。防御体勢を取ってる。
杖……魔法! ロッテは魔法使いなのかな? セルジも彼女の魔力は特徴的だと言っていた。それにしては、ラウドミアの反応が微妙におかしい気もするけど。
「ふっ! おかしなことを! この正義の代弁者を謀ろうとは洒落臭い!」
ロッテが意気揚々と叫ぶと同時に、ステッキ(仮)の先で爆発が起きた!
今の呪文……だったの???
「あ、あれ~???」
ロッテの表情が怪しい。自分でやっておいて、なんで不思議そうな顔をしているの?
「言わぬことか! 早くその得物を下げぬか!」
ラウドミアが焦りながら怒鳴る。セルジは、彼女はよく暴発させると言っていた。魔法関係のことは全然わからないんだけど今のこの状況はあんまりよろしくないのでは?
ロッテもラウドミアも、二人とも退かない。どちらが正しいのか分からないけど、二人の言い合いを放置しているのはまずい気がする。
『なんだ? こっちで決闘か?』
『煙じゃね? あれ』
『音はこっちからだ』
――人の声?! 誰かこっちに来る! ――逃げないと。
あの人は妹の追っ手じゃなかったけど、妹の追っ手がいないとは限らない。こんな騒ぎは見つけて下さいと言ってるようなもの。あの二人が言っていた隠密行動の妨げというのはこういうことか。
「貴様は本当にいつもいつもいつもいつも!」
あ、なんかラウドミアの様子に変化が見える。これはもしや、ご立腹なのでは? お怒りの度合いは高いのか低いのか。
「逃げるよお嬢様!」「えっ?!」
ロッテが私の手を引っ張って、あらぬ方向へ走り出す! え、ちょっと待って? 多分そっちは危ない。ロッテが向かっているのはトゥルゲを止めた場所じゃなくて――森! なんで???
「待て! 不用意に森に入るな!」
ラウドミアが追ってくる。彼女は純粋に私達を心配しているのだと分かってる。だからこそ、巻き込みたくないとも思ってしまう。
「待って、ロッテ! あなた道分かってるの?」
「森なんてどこも大体同じようなもんだから大丈夫!! 安心して私に任せて!」
安心できない!!! どんどん暗くなっていくよ?! 幼い見た目に反して、この子の力強い! この幼さで冒険者をやっているだけのことはある。こんな小さな少女の手を振り解けずに森を突っ走っている自分は、かなり情けない。
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