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しおりを挟む「赤の騎士団?」
聞いたことのない名前だ。この人は、敵? 味方? 通りすがりの第三者? 目の前の彼女から逃げることを第一に考えるべき? 周囲に人の気配はない。
あっ! さっきの子供はどこ――
「君が探しているのはこの子か?」
――さっき荷台に乗り込んできた小さな女の子! 先ほどラウドミア・ベルッティと名乗った女性は、あの小さな女の子をまるで物のように片手で掴みあげている!
「そんな小さな子供を――!」
「――勘違いするな!」
有りながら手の中の彼女から手を放した! 子供が落ちてしまう!
「危な――ッ」
落ち――――……な、い?
幼い少女の体は、重力に反してその場に留まったまま。自分の体を掴んでいた彼女の手が離れて尚、幼子の体はそこにある。何が起こってるか分からないけど、宙に浮いている今のうちにあの子を助けなきゃ。
一歩前に出かけた私の目の前で、少女の体が光に包まれ形を変える。何が起こっているのか分からない。不用意に女性に近づいてしまったと気づいた時には、少女の姿は完全に別の生き物に変わっていた。犬のような、猫のような、鳥のような、不思議な生き物に。
何が起こっているのかは分からないけど、これで納得した。
なぜ、周囲の人々がこんな小さな子供が迷子になっているのに、誰も手を貸そうとしなかったのか。一瞬だけ振り返って、すぐに忘れてしまったような反応をしていたのか。
私だけを的確にこの場に連れてくるための魔法か何かがかかっていたんだ。
「これは私の使役精霊だ。見たことはないか?」
「ない、です」
「そうなのか?」女性は、不思議そうな顔で私を見る。「フィリップは精霊使いだ。聖女の護衛を放棄して君と共にあるくらいだから、当然、話をしていると思っていたが」
あの人、動揺してる? 私の反応が予想外だったのか戸惑っているみたい。『精霊』? この人は最初から、私があの荷台にいるのを分かっていて、誘い出すためにあんな子供の振りを『精霊』にさせていたの?
だとしたら完敗だ。持っている知識も技術も違いすぎる。こんな追っ手から逃げるなんて不可能だ。冒険者組合へ向かったところで、本当に逃げられるの?!
「君は何も知らないらしいな」
彼女の口調から、敵意に満たない悪感情を感じる。
今まで、向けられてきた視線は無関心に近いものばかり。だから、目の前の彼女の感情を的確に読み取ることができない。
「貴女は……ファイネンの家とは……無関係……ですか?」
それだけを聞くのにも異様に緊張した。心臓が跳ねすぎて吐き気がする。目の前も赤くチカチカしてきた。土を踏みしめていた足の感覚がなくなりそう。速くなる呼吸や、自然と強ばる身体を制御できない。
「……君の反応は解せないな。言っておくが、私は君を追ってきたわけではない」
「じゃあ、貴女は――」
「教会騎士団の一員だ。『色つき』は他に、青、白、黒と3つある。特異ということもあるまい」
彼女の自信に満ち溢れた様子に、『騎士である』という以上の自負があるように思える。
精鋭部隊とかかな?
彼女の着ている制服や帯刀している武器を見ると、ファイネン家の私設兵より上質な物を使っているように見える。フィリップはどうだったかな? あの時は夜だったし、私も自分のことで一杯一杯だった。
こんなことならセルジにもっと詳しい話を聞いておけばよかった。
「私は赤の騎士団長を務めている。フィリップは次期・白の騎士団長であり、聖女の騎士だ」
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