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ある教師の死
死人に口なし
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『調べると言ってもなあ……』
そんなことを言いながら純は明日香と視聴覚室に来た。
結局、明日香の熱量に負けて、門叶の死について調べることになってしまった。
調べると言っても、たかだか高校生にできることなどは限られている。
他の教師に聞くという手もあるのだが、なんといっても本人が亡くなっているのだから、口をそろえて大人たちは『不謹慎だ』というだろう。
その動機がどんなに崇高なものであっても、亡くなった人のことを聞いて回る行為はそうとられることが多い。
なんだかそれもおかしな話である。
まさに……死人に口なしだ……
そんなことが頭に浮かぶと、おかしくもないのになんだか笑えてくる純だった。
『門叶先生……SNSとかやってるといいんだけどねえ』
明日香はパソコンの画面を見つめながら言った。
パソコンを操作するのは純。
実は明日香はパソコンに疎い。
そんなんでよく新聞の編集なんかやれるなあ……と純は時々思うのだけど、たぶん新聞部の男子が代わりにやってくれるのだろう。
『ごめ――ん。これちょっとやってくれない??』
天真爛漫な明日香にこんな風に頼まれて断れる男子はいない……と純は思う。
同じ女子でも、明日香の頼みは断りづらい。
なんでだろ?
人徳というやつなのかな??
門叶義人……とインターネットの検索画面に入力するとあっという間にいろんな門叶さんの情報が出てくる。一番多いのはやはりSNSの情報だ。
本名でやっている人もいるが、匿名でやっている人もいるので、名前が同じでも何とも言えないが……。
『あ……』
『あ……』
純と明日香は同時に声を発する。
SNSのアカウントに門叶の写真をアイコンにしたものがあり……最新の書き込みがあったからだ。
門叶義人の家族のものです。
去る7月〇日(土)
門叶義人は自宅にて永眠しました。
突然のことで家族も心の整理がついておりませんが、ここでお世話になった方にはご報告をさせていただいた方が良いと思い、書き込みをさせていただきました。
皆様、今まで本当にお世話になりました。
『……死んじゃったんだね……』
純は画面を見ながらつぶやいた。
あらためて、身近な教師の死をまだ受け入れられていない自分がいたことに純は驚いている。
『……うん。あのさ、あたしあんまり好きじゃなかったんだよね。でもさ。やっぱり死んじゃうとなんかね。寂しいっていうか、そういうのじゃないんだけど……うまく言えないんだけど』
明日香は純の後ろに座ってパソコンの画面を見つめながら言った。
うまく言えないのは純も同じだ。
そもそも身近な人間の死に直面したのなんてこれが初めてだ。
涙などは出ない。
でも何かがなくなった感じがしてなんとなく寂しい気持ちがある。
人間いつか死ぬということは理屈で分っていても感情の部分では理解できていない。だから混乱するのだろう。
そんなことを言いながら純は明日香と視聴覚室に来た。
結局、明日香の熱量に負けて、門叶の死について調べることになってしまった。
調べると言っても、たかだか高校生にできることなどは限られている。
他の教師に聞くという手もあるのだが、なんといっても本人が亡くなっているのだから、口をそろえて大人たちは『不謹慎だ』というだろう。
その動機がどんなに崇高なものであっても、亡くなった人のことを聞いて回る行為はそうとられることが多い。
なんだかそれもおかしな話である。
まさに……死人に口なしだ……
そんなことが頭に浮かぶと、おかしくもないのになんだか笑えてくる純だった。
『門叶先生……SNSとかやってるといいんだけどねえ』
明日香はパソコンの画面を見つめながら言った。
パソコンを操作するのは純。
実は明日香はパソコンに疎い。
そんなんでよく新聞の編集なんかやれるなあ……と純は時々思うのだけど、たぶん新聞部の男子が代わりにやってくれるのだろう。
『ごめ――ん。これちょっとやってくれない??』
天真爛漫な明日香にこんな風に頼まれて断れる男子はいない……と純は思う。
同じ女子でも、明日香の頼みは断りづらい。
なんでだろ?
人徳というやつなのかな??
門叶義人……とインターネットの検索画面に入力するとあっという間にいろんな門叶さんの情報が出てくる。一番多いのはやはりSNSの情報だ。
本名でやっている人もいるが、匿名でやっている人もいるので、名前が同じでも何とも言えないが……。
『あ……』
『あ……』
純と明日香は同時に声を発する。
SNSのアカウントに門叶の写真をアイコンにしたものがあり……最新の書き込みがあったからだ。
門叶義人の家族のものです。
去る7月〇日(土)
門叶義人は自宅にて永眠しました。
突然のことで家族も心の整理がついておりませんが、ここでお世話になった方にはご報告をさせていただいた方が良いと思い、書き込みをさせていただきました。
皆様、今まで本当にお世話になりました。
『……死んじゃったんだね……』
純は画面を見ながらつぶやいた。
あらためて、身近な教師の死をまだ受け入れられていない自分がいたことに純は驚いている。
『……うん。あのさ、あたしあんまり好きじゃなかったんだよね。でもさ。やっぱり死んじゃうとなんかね。寂しいっていうか、そういうのじゃないんだけど……うまく言えないんだけど』
明日香は純の後ろに座ってパソコンの画面を見つめながら言った。
うまく言えないのは純も同じだ。
そもそも身近な人間の死に直面したのなんてこれが初めてだ。
涙などは出ない。
でも何かがなくなった感じがしてなんとなく寂しい気持ちがある。
人間いつか死ぬということは理屈で分っていても感情の部分では理解できていない。だから混乱するのだろう。
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