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元気のない主将
食せよ、乙女
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学校が終わったら、とにかくお腹が空く。
空腹に耐えられないことは少なくない。
何故だろうか?
身体が成長し続けているからなのだろうか?
純はそんなことを考えながら学校を出て、駅への向かう商店街が立ち並ぶ一本道を歩いた。
隣には明日香がいる。新聞部の活動は忙しく『こんな忙しいのに帰れるわけないじゃない』とか文句を言いながら、商店街にある安くて美味しいと有名な『わとん』というお店のコロッケがいつもより安い特売日であることを聞くと、急に文句を言う口を閉じて純についてきたのだった。
本当に食いしん坊だ。
純も人のことは言えないが……。
『そういえば、渡辺は誘わなくて良かったの?』
明日香はもう一人のミステリー研究部員の渡辺昭義のことを言いだした。
『渡辺くんには『stery』の記事をお願いしてるの』
『へええ。それで今日はいなかったのね』
『うん。ミステリー本読むだけなら部室にいなくてもできるでしょ。記事仕上げるのだって家にパソコンがあればできるわけだし。自宅が遠いって聞いたから家でやってもらってる』
『そうなんだ。あいつも理想のところに落ち着いたってわけね』
『理想?』
純は明日香の言葉がなんとなく引っ掛かった。
そういえば昭義がどうして新聞部を辞めることになったのか……特に今まで気にもしていなかったから事実は分からないままだ。
『うん……あいつ本当は野球部に入りたかったらしいんだよね』
『そうなんだ。でもなんとなく分かる。この間の記事を書いた時も詳しかったし』
『中学でもそこそこ活躍してたらしいよ』
『へええ』
『でも、うちの学校みたいなところは中学で活躍してたぐらいじゃレギュラーになれないじゃん』
『だろうね』
『だからあきらめた……って本人は言ってた』
『そんなに簡単に?』
『う――ん。それが本人にとっては簡単だったのかどうかは本人しか分からないんだけどね』
確かに明日香の言う通りだ。
中学で活躍して、野球で有名なT高校に進学して、本来ならどうあれ野球部に入部するはずなところなのに、入部さえしなかった。はたからみると『簡単に』あきらめたように見える。
しかし、どんな事情があって彼が野球をあきらめたのかは今のところ本人しか分からないのだ。
憶測で『簡単に』などと言うものではない。
純は自分の言ってしまった言葉を少し後悔した。
学校の校門を出て、駅までの一本道の下り坂をしばらく下ると肉屋の『わとん』がある。
このお店の路地裏には小さな公園がある。遊具はそんなにはないが、いくつかの花が彩り豊かに咲いておりベンチも汚れておらずゴミもない。小さいが綺麗な公園だ。これはT高校の生徒が自主的の掃除をしているからだ。純も何度か掃除で訪れたことがある。
学校帰りにこの公園で『わとん』のコロッケを食べながら、時に明日香や他の友達とくだらない話をしたり、時にはベンチで一人、本を読みふけったりする時間は純にとっては貴重な時間だ。
公園が綺麗なのは本当に助かる。
『わとん』では特売のコロッケが売っていた。
少し早めに学校を出たので揚げたてのコロッケがまだたくさんある。
純はきっと早くコロッケを食べたかったのだろう。
まったくもって食いしん坊だ。
明日香は財布を出してコロッケ以外のお惣菜も物色している純の横顔を見てそう思った。
考えてみれば食べる量こそ男子には勝てないものの、本来食いしん坊なのは男子より女子なのかもしれない。
特売日はいつも1個70円のところ、50円まで安くなる。
あんなに美味しいコロッケが1個50円。
素晴らしいお店である。
『ねえ、明日香。から揚げ一緒に食べない?』
『え? いいの??』
『いや、割り勘だからね』
『え――。その流れだとおごってくれる感じじゃん』
『でもさ、今日はこんなに入って200円なんだよ』
純がショーウインドウに並んでいるから揚げの山を指さして言った。
『うわ。美味しそう……』
『でしょ、一緒に食べようよ』
空腹に耐えられないことは少なくない。
何故だろうか?
身体が成長し続けているからなのだろうか?
純はそんなことを考えながら学校を出て、駅への向かう商店街が立ち並ぶ一本道を歩いた。
隣には明日香がいる。新聞部の活動は忙しく『こんな忙しいのに帰れるわけないじゃない』とか文句を言いながら、商店街にある安くて美味しいと有名な『わとん』というお店のコロッケがいつもより安い特売日であることを聞くと、急に文句を言う口を閉じて純についてきたのだった。
本当に食いしん坊だ。
純も人のことは言えないが……。
『そういえば、渡辺は誘わなくて良かったの?』
明日香はもう一人のミステリー研究部員の渡辺昭義のことを言いだした。
『渡辺くんには『stery』の記事をお願いしてるの』
『へええ。それで今日はいなかったのね』
『うん。ミステリー本読むだけなら部室にいなくてもできるでしょ。記事仕上げるのだって家にパソコンがあればできるわけだし。自宅が遠いって聞いたから家でやってもらってる』
『そうなんだ。あいつも理想のところに落ち着いたってわけね』
『理想?』
純は明日香の言葉がなんとなく引っ掛かった。
そういえば昭義がどうして新聞部を辞めることになったのか……特に今まで気にもしていなかったから事実は分からないままだ。
『うん……あいつ本当は野球部に入りたかったらしいんだよね』
『そうなんだ。でもなんとなく分かる。この間の記事を書いた時も詳しかったし』
『中学でもそこそこ活躍してたらしいよ』
『へええ』
『でも、うちの学校みたいなところは中学で活躍してたぐらいじゃレギュラーになれないじゃん』
『だろうね』
『だからあきらめた……って本人は言ってた』
『そんなに簡単に?』
『う――ん。それが本人にとっては簡単だったのかどうかは本人しか分からないんだけどね』
確かに明日香の言う通りだ。
中学で活躍して、野球で有名なT高校に進学して、本来ならどうあれ野球部に入部するはずなところなのに、入部さえしなかった。はたからみると『簡単に』あきらめたように見える。
しかし、どんな事情があって彼が野球をあきらめたのかは今のところ本人しか分からないのだ。
憶測で『簡単に』などと言うものではない。
純は自分の言ってしまった言葉を少し後悔した。
学校の校門を出て、駅までの一本道の下り坂をしばらく下ると肉屋の『わとん』がある。
このお店の路地裏には小さな公園がある。遊具はそんなにはないが、いくつかの花が彩り豊かに咲いておりベンチも汚れておらずゴミもない。小さいが綺麗な公園だ。これはT高校の生徒が自主的の掃除をしているからだ。純も何度か掃除で訪れたことがある。
学校帰りにこの公園で『わとん』のコロッケを食べながら、時に明日香や他の友達とくだらない話をしたり、時にはベンチで一人、本を読みふけったりする時間は純にとっては貴重な時間だ。
公園が綺麗なのは本当に助かる。
『わとん』では特売のコロッケが売っていた。
少し早めに学校を出たので揚げたてのコロッケがまだたくさんある。
純はきっと早くコロッケを食べたかったのだろう。
まったくもって食いしん坊だ。
明日香は財布を出してコロッケ以外のお惣菜も物色している純の横顔を見てそう思った。
考えてみれば食べる量こそ男子には勝てないものの、本来食いしん坊なのは男子より女子なのかもしれない。
特売日はいつも1個70円のところ、50円まで安くなる。
あんなに美味しいコロッケが1個50円。
素晴らしいお店である。
『ねえ、明日香。から揚げ一緒に食べない?』
『え? いいの??』
『いや、割り勘だからね』
『え――。その流れだとおごってくれる感じじゃん』
『でもさ、今日はこんなに入って200円なんだよ』
純がショーウインドウに並んでいるから揚げの山を指さして言った。
『うわ。美味しそう……』
『でしょ、一緒に食べようよ』
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