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無死満塁

図書室の窓から

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『時は金なり……よ』
 明日香は少し急いでいる様子だった、
 新聞部の活動は確かにそんなに暇ではない。
 先日はすみと一緒に16時頃に『わとん』のコロッケを食べに行ったがそんなことが毎日できるわけではないのだ。新聞は月1回刊行される。刊行日は毎月10日。月末が近くなればなるほど忙しい。そして月初の1日から10日までの間は19時頃まで学校にいることも珍しくはない。

 今日は28日。
 明日香は忙しくて仕方ないはずだ。
『明日香、どうしたの?』
 すみはのんびりした声で言った。この間延びしたようなのんびりした話し方も純が人気のある要因の一つなのかもしれない。ただ彼女自身に人気があるという自覚はまったくない。
『どうしたもこうしたもないわよ。あれどうなったの?』
『あれ??』
『そう! あれよ!!』
『なんだっけ? あれって……』
 すんでの所で明日香はこけそうになってしまった。
 すみの向こうにいる昭義はこけている。
 いや、そういうのいいから……と明日香は昭義を見て思ったが口には出さない。
『あれよ! 『謎が謎のままのミステリー』』
『ああ、あれね』
 すみは思い出したようだ。
『やってあるのね』
『ごめん……やってないや。何も思いつかなかったし』
『いや、そんな満面の笑みで言われても困るわよ! 締め切りせまってるんだからさ』
『あ……そうなの』
『そうなの! 早くなんか考えておいてね』
 それだけ言うと明日香は忙しそうに図書準備室から出て行った。

『どうするよ……』
 昭義は心の底からめんどくさそうな顔ですみに言った。早く帰れるからという理由で新聞部を辞めてきた昭義にはこんな仕事は面倒で仕方ないだろう。
『どうするって……やらなきゃね……』
『謎なんかないよ』
『う――ん……』
 純は図書準備室を出た。
 準備室をでると図書室につながっている。
 先程、図書室は掃除したからそれなりに綺麗だ。

 司書は放課後にはいないことも多い。
 噂によれば主婦のパートであまり遅くまではいられないらしい。それが本当か嘘かは知らない。でもそんなこと謎でもなんでもない。パートであれば噂通りだし、噂があくまで根も葉もない噂なら司書はいないように見えるだけで広い校内のどこかにいるだけだろう。いずれにしてもこんなものは何も謎でもなんでもない。

 すみは窓から外を見た。丸い眼鏡の奥で彼女は何を考えているのだろうと昭義は純の横顔を見てふとそんなことを思ってしまった。変にじっと横顔を見るのもおかしな話なので昭義はすぐに窓の外に視線をうつす。
 図書室の窓から野球部員が走っているところが見える。
『ダラダラ走ってるなあ……』
 昭義はつぶやくように言った。
 何かを吐き出すような言い方には少しとげを感じたのですみはつい『どうしたの?』と言った。
『ああ……いや、なんでもない』
『そう……』
 すみはまた窓の外の目を向ける。
 野球部員……。
 そういえば……。
『あのさ……いいアイデアが浮かんだんだけど』
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