隣の二階堂さん

阪上克利

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洗濯物は朝にやればいいのか否か

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 隣の二階堂さんには変な癖がある。
 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
 最近では彼女が何かに煮詰まってきている時にお茶に誘って話を聞くことをあたしも夕凪ゆうなも楽しみにしている。

 今週は実家の両親が旅行に行くとかでアパートにいる。
『じいじとばあばに会いたいの――』
『今日はじいじもばあばもいないの』
 夕凪ゆうながあまりにもぐずるのであたしは壁を指差して夕凪に言った。
『じゃあかわりに壁の音がしたらお姉ちゃん呼ぶ?』
 涙にぬれた顔で夕凪ゆうなは黙って頷いた。

 土曜日はいつもいないので分からないのだけど、実際、壁の音はしているのだろうか……

 どんどんどんどん……

 あたしと夕凪ゆうなは顔を見合わせる。
 やっぱり壁を叩く音がする。
 『お姉ちゃん呼んでくる――』
 夕凪は嬉しそうに玄関を飛び出していった。


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 土曜日。
 ここのところ休みの日に遊びに行ってばかりいたので、今日は一日家にいて部屋の掃除やら洗濯物やらおかずの作り置きやらをやった。

 案外、休みの日にやらなければいけないことは多い。
 洗濯物などはちょっと油断するとあっという間にたまってしまうから、毎日やらないと追いつかない。
 と言いつつも、つい忘れたりもするからたまった洗濯物はすべて休みの日に片付けることになる。

 普段、洗濯機を回すのはどうしても夜になる。

 仕事終わってから洗濯機を回して、部屋干ししている。
 洗濯物を外に干すのはまずい。
 下着泥棒などに狙われてしまうし、女性の一人暮らしとバレてしまうのは防犯上、少々都合が悪い。

 アパートの隣のむねには大きな家が建っているのだが、そこに大家さんが住んでいる。
 年齢は分からないのだけど70歳ぐらいのおじいさんで彼は剣道の有段者らしいのだが、アパートの住民に女性の一人暮らしとシングルマザーがいるということもあり、ちょくちょく防犯のために見回ってくれている。

 ありがたい話なのだが、やっぱり洗濯物を干すのはそれでも防犯上まずいし、ちょっと恥ずかしいので、部屋干しをうまく利用しながらも乾燥機を使っている。

 土曜日の夕方に……たまりにたまった洗濯物を乾燥機から出して、畳みながらあたしが思った事は、やっぱり洗濯物は朝にやるに限るなと言うことだ。
 今は、夜に洗濯して部屋干しして、翌朝に乾燥機に入れて……とやっているのだが、このやり方だと洗濯物を畳んでタンスに入れるまでに二日かかる。逆に、朝ちゃんと洗濯機を回して部屋干しまで済ませておけば、夕方には乾燥機に入れられるし、下手をすれば乾いているかもしれない。そうすれば1日で洗濯物を畳んでタンスに入れることができる。

 おお!
 1日で終わるじゃん!
 速いじゃないか。
 これしかない!
 てゆうかなんでこんなに単純な方法に今まで気づかなかったのだろう。

 ん?
 いや……
 朝、洗濯機を回して干すことまで考えたら……今より1時間は早く起きないといけないのでは?

 無理じゃん。
 低血圧だし。

 う――ん……。
 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。

 どうやらあたしはまたやってしまったらしい。

 そういやお隣は実家に帰ってないのかな?
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