隣の二階堂さん

阪上克利

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映画を見に行くことには意味があるのか否か

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 隣の二階堂さんには変な癖がある。
 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
 最近では彼女が何かに煮詰まってきている時にお茶に誘って話を聞くことをあたしも夕凪ゆうなも楽しみにしている。

 どんどんどんどん……

 でも残念なことにあたしたちは今日、実家に帰る予定なのでアパートにはいない。
 毎週土曜日は実家に帰っているのだ。
 夕凪ゆうなもおじいちゃんおばあちゃんに会えて楽しいし、あたしも普段の忙しさから少し解放される日なので助かっている。
 それはそうと…あの壁の音は今日もしているのだろうか……。


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 なかなかいい映画だった。
 アクション映画だったのだが、大音量の迫力と、大きなスクリーンを堪能してしまうと同じ映画でも『どうせしばらく待てばテレビやるんだからそれを見ればいい』などと言う愚かなことは間違えても言えなくなる。
 お隣のように子供がいる場合などはなかなか映画館に行くこともままならないだろうから、テレビでみるということも仕方ないことなのかもしれないけど、そういう事情がない限りは出来る限り映画は映画館スクリーンで見る方がいい。

『え?映画??誰と行くの??』
 製造課の松沢さんというあたしの2つ上の先輩に会社帰りにそう聞かれた。
 更衣室のロッカーが近いというのと、飲み会で隣の席だったということもあって仲良くなった先輩だ。
『一人ですよ』
『え??』
『いや……だから、一人ですよ』
『なんで?』
『なんでって、一緒に行く人もいないし』
『え――』
 松沢さんは『え――』と言ったけど、別に映画なんてものは一人で行くものではないだろうか。
 誰かと行けば好みの違う映画を見なければならないかもしれないし、いろいろ気を使うような気がする。
 やっぱり映画は一人に限る。

『一人で行くぐらいなら家でDVD借りてみるな――』
 松沢さんは頬を膨らませてあたしに言った。

 いや……
 なぜすねる。
 別にいいではないか。
 一人で映画。

『楽しいですよ』
『そうなの? 一人で??』
『はい』
『どの辺が?』
 どの辺が……と言われても困る。
 一応『一緒に行く人に気を使わなくていい』と答えておいたが松沢さんは納得しなかった様子だった。ただ、何と言われようとあたしは映画は一人で行くし、映画館で見られる機会があるのにDVDになるのを待ったりはしない。

 映画は映画館で観ることに意味があるのだ。
 あの迫力はスクリーンでしか味わえない。
 後でテレビで見てもあの迫力はよみがえってこない。
 こういうことを分かっていない人が多すぎるのだ。

 何故なんだろう……。
 うーん。

 まあ……いいか。
 お風呂に入って温まったら、観てきた映画のパンフレットでも見ながらウイスキーでも飲もう。楽しみだ。

 そういや……今日はやらかさなかったみたいだ。
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