隣の二階堂さん

阪上克利

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コーヒーに砂糖とミルクを入れるのか否か

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 隣の二階堂さんには変な癖がある。
 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
 最近では彼女が何かに煮詰まってきている時にはお茶に誘って話を聞くことをあたしも夕凪ゆうなも楽しみにしている。

 どんどんどんどん…

 今夜も壁を叩く音がする。
 4歳になった夕凪ゆうなはあたしを見る。
 あたしは夕凪ゆうなに言った。
『お姉ちゃん、呼んできてくれる?お部屋でコーヒーでも飲みましょうって』


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 今日は寒かった。
 いや寒いと言っても所詮夏だし、そこまで寒いと言うほどではないのだけど、夏にしては少し肌寒かった。
 雨が降っていたということもあるかもしれない。
 湿度が高くて空気がまとわりつきそうなそんな感じだったけど、気温自体が夏にしては低かったのだろうと思う。
 仕事を終えて家に帰ってきたあたしは暖かいコーヒーを飲むことにした。
 お湯を沸かしてコーヒーを入れる。
 コーヒー豆のいい匂いが部屋中に充満する。

 そういえば…
 コーヒーには常に砂糖とミルクがついてくる。
 当り前のように砂糖とミルクを入れる人が少なくないけど……あれはなぜなんだろう。
 というのも砂糖など入れてしまったらコーヒーの味がおかしくなるし、ミルクを入れたらそれはカフェオレであるからしてすでにコーヒーではない。

 でも……邪道が嫌いではないあたしはカフェオレも好きだ。
 ただ、そもそもカフェオレはコーヒーとは別物だと思う。
 コーヒーとミルクを1:1で入れて、砂糖もたくさん入れる。
 優しくて甘い味がするのがカフェオレだ。
 コーヒーを入れるのは少しコーヒーの香りを足すことによって風味がついて、ホットミルクよりは刺激的な味になる。
 コーヒーが大人の味なら、カフェオレは思春期の味。ホットミルクは子供の味……のような感じがする。

 そうやって考えるとコーヒーに砂糖とミルクを入れるというのは大人としてあるまじき行為なのではないかと思う。ブラックのコーヒーが飲めないのなら、紅茶を頼めばいいのだ。

 コーヒーだけ飲むのは苦くてちょっと……という人もいるかもしれない。
 確かにそれは分かる。
 口寂しい時は暖かいコーヒーが美味しくも感じるけど、2杯目からは正直、あの苦みがきつい。
 それでもあたしは砂糖とミルクを入れることはしない。
 口を甘くしたければ、甘いものを少し食べればいいのだ。
 何もコーヒーの味を台無しにしてまで砂糖を入れる必要はない。
 2杯目はブラックがきついと思うならば、しつこいようだが2杯目は紅茶にすればいい。

 なんでコーヒーに砂糖とミルクを入れるのだろう……。
 見栄なのか?
 大人としての……。

 大人の飲み物を飲んでいますよ……という世間に対するアピールをしたいのだろうか。
 わざわざせっかくのコーヒーを不味くまでして……。
 いや……でも好みの問題もあるしなあ……。
 う――ん。

 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。

 どうやらあたしはまたやってしまったらしい。
 そういえばお隣に呼ばれるときは紅茶が多い……。今日はコーヒー豆でも持っていこうかな。
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