隣の二階堂さん

阪上克利

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カレーライスにソースを入れるか否か

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隣の二階堂さんには変な癖がある。
考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
最近では彼女が何かに煮詰まってきている時にはお茶に誘って話を聞くことをあたしも夕凪ゆうなも楽しみにしている。

どんどんどんどん…

今夜も壁を叩く音がする。
4歳になった夕凪ゆうなはあたしを見る。
あたしは夕凪ゆうなに言った。
『お姉ちゃん、呼んできてくれる?甘いものでも食べましょうって。』


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今夜の夕飯は何にしようか…。
隣の部屋の子供の声がしてあたしはそう思った。
夕凪ゆうなちゃんは随分と大きくなった。ここに来た時は赤ちゃんだったのに、気が付けば4歳になっている。
女の子だけあってしっかり者だ。
夕凪ゆうなちゃんのことを考えていると、子供のころから大好きなカレーライスが食べたくなった。

そうだ!
今夜はカレーライスにしよう!

そういえば…カレーライスというのはもう日本人の国民食と言っても過言ではない。なじみの強い食事だからこそこだわりも人それぞれだ。
スパイスを効かしたカレーが好きという人もいれば、辛い物が苦手なのであまり辛くはないものの野菜や肉のうまみがしっかりしたものが良いと言う人もいる。お隣さんなんかは子供もいるから刺激の少ない甘いカレーを親子で楽しんでいるのだろう。
本当にそれは人それぞれだ。
あたしは野菜を斬りながらなんとなくカレーライスのこだわりについて考え出した。

よく考えてみるとカレーライスにソースを入れる人がいるのはなぜだろう。
ふと頭の中にそんなことがよぎった。
ちょっと気になる話ではある。
まず…一言にソースと言ってもいろんなソースがある。
ウスターソースやトンカツソース、中濃ソースなど…。

それにしてもソースなど後から入れてしまっては、カレーライスの味が殺されてしまうではないか。
はっきり言って邪道である。

しかし…邪道と言うのはそんなに悪いことなのだろうか?
あたしはカツカレーが大好きだ。
カツカレーはとんかつの美味さとカレーの美味さをどっちも味わえる上に、双方を引き立てる素晴らしい料理だ。しかし…カレーライスの本分からは外れるし、とんかつの本分からも外れてしまう。

はっきり言って邪道である。

だけど美味しいのだからいいじゃないか。
邪道だからと言ってすべて悪いものというわけではないだろう。
だとしても、カレーライスにソースは何か違うような気がする。
お店でカレーライスを頼んでも絶対にソースなど出てこないではないか。

いや…ちょっと待て。
違った。

先日、カレーライスを外で食べたときにはソースが一緒についてきた。
あれは確か…。

『カツカレーの時だ。』
気が付けば切り分けた野菜はそっちのけにしてあたしは部屋をぐるぐる歩き回っていた。
物を考えているときの悪い癖だ。
そして誰もいないのに何かを思い出した時に独り言を言ってしまうのも悪い癖だ。
自分でやっているにもかかわらず、ちょっと気持ち悪い。

カツカレーにソースは必要か?
否である。
いらない。
間違いなくいらない。

だってカツカレーはカレーのルーにとんかつを合わせて食べるのが美味しいのだ。ソースなんか味の邪魔をするだけだ。カレーの美味さも消してしまう。とんかつにはソースでいいのかもしれないけど、でもソースをかけるなら何もカツカレーを頼む必要などないはずだ。
なんでこんな単純なことが分からない人が多いんだ?
カレーライスにはソースはいらないのだ。
にもかかわらずソースを入れる人が案外多い。
なぜだ…。

煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。

どうやらあたしはまたやってしまったらしい。
カレーライスを多めに作ってお隣におすそ分することにしよう。味は甘めにして。
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