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満月の夜には魚は釣れない
キラキラ光る
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堤防を行ったり来たり……
ランアンドガンしながら釣り歩くが、魚信は全く来ない。
中層から表層を狙うメバル釣りだけど、もしかしたらと思い、海底近くまでルアーを落とし込んでもみても何も反応がない。魚がいないのだろうか。それとも潮が悪く、魚がエサを追いかけない状態……いわゆる活性していない状態なのだろうか。
『釣れないね……』
『そうですね』
『メバルって年中釣れる魚なんだけどね……おかしいなあ』
『まあ、そんな日もありますよ』
『満月がいけないのかな??』
『満月?月となんか関係があるんですか?』
『あたしが実家にいた頃に地元の釣り人に聞いた話なんだけど……満月の夜は月の光に魚が警戒して何も釣れないという話があるのよ』
『へええ』
『メバルは警戒心が強いからなあ』
里奈は暗い海面に映る月の光を眺めた。
都会の海は決して真っ暗ではない。
街の明かりと満月の明かりで、足場のいい堤防なら歩くのにも苦労しない。
伊豆の田舎とは大違いだ。夜になったら街灯すらない伊豆では、ライトを持っていないと普通に散歩もできない。夜の闇に包まれるというのはああいう感じのことを言うのだろう。
生まれて大人になるまで伊豆で生活していた里奈は大学に通うようになって横浜に出てきた時、都会の夜の明るさにビックリした。
夜でもこんなにも明るいんだ……と感動した。
でも今では実家の夜の闇に包まれるような暗さが懐かしい。
『月……綺麗ですね』
靖男は竿を持って何もせず夜空を見上げて言った。
『そうだね……てゆうか保高くん、案外ロマンチストなところあるんだね』
『いや……まあ……なんというか……』
まだ……打ち解けていないのは里奈も同じなのかもしれない。
そんなことが頭をよぎったのは里奈が靖男のことを『保高くん』と呼んでいることに気づいたからだ。
でも今更『靖男くん』とは呼べない。それはなんとなく不自然だし、それにどう呼ぼうと自分たちの関係が大きく変わることもないからだ。
『ねえ』不意に里奈は言った。
自分でも言おうと思って口についた言葉ではないので驚いている。
『これからどうしようか?』
『これから……ですか?明日も仕事ですし、そろそろ帰りますか?』
『いや、そういうことじゃなくて……』
『そういうことじゃないんですか?じゃあどういうことですか?』
鈍いなあ……
里奈は思った。もちろん口には出さない。
『保高くんって結婚したいと思うことってある?』
自分でもストレートすぎるな、と思う。何も考えずにまっすぐに話をしてしまう癖は性格だから直しようがないのだ。
『結婚ですか?う――ん……特に考えたこともないですねえ』
『え?考えたことないの??』
『はい。いや……なんでですか?』
『いや……だって……』
『今は毎日の生活で精一杯ですからね』
『そ……そうなの?』
『仕事も忙しいですしね』
毎日の生活が忙しいのは分かる。
それは里奈だって同じだ。
でもそんなことを言ったらいつになったら結婚のことを考えればいいのだ。
『あの……あたしと……』
付き合っているのはなんで?
と言いたかったのだけど途中で言葉が途切れてしまった。
気が付いたら涙が止まらない。
悲しくて悲しくて言葉が出てこない。
『だ……大丈夫ですか??』
靖男は心底、何が何だか分からないような顔をして呑気な事を言ってきている。
あんたが原因だよ。
結婚する気がないならなんで付き合ってるの?
あたしのことは恋人とは思っていないわけ??
『大丈夫なわけないじゃん!』
竿を堤防において、里奈はその場にぺたんと座り込んだ。
『いや……あの……』
この後に及んでも、何も分かっていない靖男に、里奈は腹を立てている。……と同時に悲しい気持ちが押し寄せてくる。涙が止まらない。
『結婚する気がないならどうしてあたしたち付き合ってるの?』
絞り出すような声で里奈は言った。
月の光が海面に反射してキラキラと輝いている。
ランアンドガンしながら釣り歩くが、魚信は全く来ない。
中層から表層を狙うメバル釣りだけど、もしかしたらと思い、海底近くまでルアーを落とし込んでもみても何も反応がない。魚がいないのだろうか。それとも潮が悪く、魚がエサを追いかけない状態……いわゆる活性していない状態なのだろうか。
『釣れないね……』
『そうですね』
『メバルって年中釣れる魚なんだけどね……おかしいなあ』
『まあ、そんな日もありますよ』
『満月がいけないのかな??』
『満月?月となんか関係があるんですか?』
『あたしが実家にいた頃に地元の釣り人に聞いた話なんだけど……満月の夜は月の光に魚が警戒して何も釣れないという話があるのよ』
『へええ』
『メバルは警戒心が強いからなあ』
里奈は暗い海面に映る月の光を眺めた。
都会の海は決して真っ暗ではない。
街の明かりと満月の明かりで、足場のいい堤防なら歩くのにも苦労しない。
伊豆の田舎とは大違いだ。夜になったら街灯すらない伊豆では、ライトを持っていないと普通に散歩もできない。夜の闇に包まれるというのはああいう感じのことを言うのだろう。
生まれて大人になるまで伊豆で生活していた里奈は大学に通うようになって横浜に出てきた時、都会の夜の明るさにビックリした。
夜でもこんなにも明るいんだ……と感動した。
でも今では実家の夜の闇に包まれるような暗さが懐かしい。
『月……綺麗ですね』
靖男は竿を持って何もせず夜空を見上げて言った。
『そうだね……てゆうか保高くん、案外ロマンチストなところあるんだね』
『いや……まあ……なんというか……』
まだ……打ち解けていないのは里奈も同じなのかもしれない。
そんなことが頭をよぎったのは里奈が靖男のことを『保高くん』と呼んでいることに気づいたからだ。
でも今更『靖男くん』とは呼べない。それはなんとなく不自然だし、それにどう呼ぼうと自分たちの関係が大きく変わることもないからだ。
『ねえ』不意に里奈は言った。
自分でも言おうと思って口についた言葉ではないので驚いている。
『これからどうしようか?』
『これから……ですか?明日も仕事ですし、そろそろ帰りますか?』
『いや、そういうことじゃなくて……』
『そういうことじゃないんですか?じゃあどういうことですか?』
鈍いなあ……
里奈は思った。もちろん口には出さない。
『保高くんって結婚したいと思うことってある?』
自分でもストレートすぎるな、と思う。何も考えずにまっすぐに話をしてしまう癖は性格だから直しようがないのだ。
『結婚ですか?う――ん……特に考えたこともないですねえ』
『え?考えたことないの??』
『はい。いや……なんでですか?』
『いや……だって……』
『今は毎日の生活で精一杯ですからね』
『そ……そうなの?』
『仕事も忙しいですしね』
毎日の生活が忙しいのは分かる。
それは里奈だって同じだ。
でもそんなことを言ったらいつになったら結婚のことを考えればいいのだ。
『あの……あたしと……』
付き合っているのはなんで?
と言いたかったのだけど途中で言葉が途切れてしまった。
気が付いたら涙が止まらない。
悲しくて悲しくて言葉が出てこない。
『だ……大丈夫ですか??』
靖男は心底、何が何だか分からないような顔をして呑気な事を言ってきている。
あんたが原因だよ。
結婚する気がないならなんで付き合ってるの?
あたしのことは恋人とは思っていないわけ??
『大丈夫なわけないじゃん!』
竿を堤防において、里奈はその場にぺたんと座り込んだ。
『いや……あの……』
この後に及んでも、何も分かっていない靖男に、里奈は腹を立てている。……と同時に悲しい気持ちが押し寄せてくる。涙が止まらない。
『結婚する気がないならどうしてあたしたち付き合ってるの?』
絞り出すような声で里奈は言った。
月の光が海面に反射してキラキラと輝いている。
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