満月の夜には魚は釣れない

阪上克利

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満月の夜には魚は釣れない

同級生

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 1か月後。
 里奈は伊東の実家にいた。
 お見合いの日である。そういえば相手の写真も確認していないが……まあ、この際どうでもいい。
 どうあれ断るのだから。

 それにしても……こういう話はできればこちらの意図がはっきりわかった後に受けるかどうかを決めてくれないと困る。
 里奈は貸衣装屋に頼んでおいた赤い振袖の着付けをしてもらいながら思った。
 こういう服を借りたりすることもお金の無駄だし、こういう服を着ると疲れるので体力の無駄でもある。

 準備になんだかんだ時間をかけて、ホテルに着いたのは昼頃だった。
 時間は13時からだからそう遅くはなかった。

『失礼します』
 神妙な声がすると思って振り返ると、そこにはお見合い相手の男と何人かの取り巻きがいた。
 どこかで見たことがあるな……と里奈はお見合い相手を見て思った。気のせいかもしれないのでとにかく案内の後をついていき会食の場にいくことにした。
 正直……お腹は空いているものの、緊張で物が喉を通る気がしない。
 席に座ると正面に相手の男が座った。
 やはりどこかで会った気がする。
 相手もそう思っているようだ。
 おそらく気のせいではないだろう。

『こちら……土屋良平さん。地元の信用金庫に勤めておられます』
『土屋です。本日はよろしくお願いします』
 伊豆半島には土屋姓が多い。地元の人間のほとんどの名前が土屋か鈴木、もしくは稲葉なのである。苗字を聞けば地元かそうでないかが分かる。ちなみにだが……里奈の両親は、母親の旧姓が鈴木で、母方の親戚が伊豆の土地の人なのである。橘という苗字はこのあたりではあまり見かけない。
 里奈は相手の男の名前を聞いて、思い出した。
 土屋良平。
 中学の時の同級生だ。
 確かサーフィンが好きでよく一緒に浜に行った記憶がある。
 中学卒業以来会っていなかったので、ピンとこなかったのだ。彼は中学の時に比べると背も高くなっているし、少しあどけなさが残る顔つきは精悍な大人のものとなり、端正な顔立ちは中学時代と変わらずアイドルの一人にいてもおかしくない風貌である。
 後ろで里奈の母親が色めいているのが分かる。
 あんたのお見合いじゃないんだよ……と言いたい。
『こちらは……橘里奈さん。横浜の会社で勤めておられます』
『橘です。良平くん、覚えてる?』
『あ!!橘か!!!』
『そう!元気だった?!』

 里奈と良平の態度に周りはびっくりするばかりだった。
『あ、すみません。いやーびっくりしました。彼女、中学の同級生です』
 里奈が何か言う前に良平がすべて周りに説明してくれた。こういう気遣いができるところは当時と変わっていない。さぞ仕事もできるのだろう。
 それにしてもなぜ良平はお見合いなんかに来たのだろうか……
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