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最後の1年
歌舞伎
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専門教科における選択授業があったのは工業高校ならではと言える。
電気科だったボクは電気についてはろくに勉強していなかったので、ここにきて専門的な選択授業といわれても……さほど乗り気ではなかったのだ。
どれも専門的すぎて、そもそも基礎ができていない自分には合わないような気がしたからだ。
とは言うものの……
やらないわけにはいかない。
いろいろあったけど、ボクはビデオ製作を選んだ。
ビデオ製作を選んだのはボクと保田くん、神園くん、茨木くん……あと数人いたようないなかったような……。
その辺の記憶は定かではないが、このビデオ製作は意外に奥が深かかった。
テレビを見るたびにボクはこのビデオ製作の授業を思い出す。
記憶に残っているということは実に良い授業だったのだろうと思う。
この授業ではまずVTRというものがどのような形で作成されているかを学んだ。
絵コンテ作って、脚本を作り、多くの映像の中から必要な絵を編集していくということを、時間をかけて学び、最終的には自分たちでビデオ制作をしてみるというものだった。
『絵コンテを作るにしても、脚本が必要だね』
授業の流れからボクらは先生のこの言葉の意味は理解した。
問題はどんな脚本を書くか……ということだ。
『どうするよ……』
『オレ、書くよ』
ボクはすぐに言ったが、友人たちは良い顔をしなかった。
『阪上。一応言っておくが、アニメ製作するわけじゃないからな』
友人たちの言いたいことはよく分かる。
当時のボクはアニメオタクで、以前にも話したが『ヤダモン』という魔法少女にはまっていたからだ。
何がどうはまっていたのか……それに関しては『文化祭で描いた看板』という話を読んでいただけるとありがたい。
結局……
脚本はボクが書くことになった。
出来上がった脚本は野球のドラマだった。
なぜ野球というテーマにしたのか……
それは自分が出演しなければいけなかったからだ。
ボク自身は目立ちたがりというわけではないのだが、ただ演者を友人にすると思い切った脚本が書けなくなってしまうので、自分が主演してもできるものにしようと思ったのだ。
『お。阪上の脚本にしてはなかなかまとも……』
『にしては……って。いつもまともだぞ』
『自覚ないのか?』
こんな会話があったかなかったか……
記憶は定かではない。
てゆうか、脚本を書くにしても演者が男しかいないのだ。
間違えても魔法少女が活躍する脚本など書けやしないのだ。
脚本の内容は……。
9回の裏、2アウトランナーなし。
ピッチャー、阪上。
最後のバッターは、本日ノーヒットの保田。
カウント3ボール2ストライク。
最後の1球を阪上が投じて、保田が空振り三振。
試合終了。
という単純なものだった。
一本の映像を作るにはたくさんの短いカットが必要であり、こんな単純な話でも何時間もかけながらいけないということをボクらは制作を通して学んだ。
昨今ではテレビ離れで、番組の内容が少しつまらないとすぐにネットなどでたたかれるような世の中になったが、そういう人たちはテレビの制作がどれだけ大変かを体験してみるといいかもしれない。
実際、ボクはこの映像を作るために100球以上は投げたと思う。
『上から投げると見栄えが悪いな』
VTRを確認しながら神園くんは言った。
確かにその通りだった。
自分が投げているところを客観的に見ると言う経験は今までなかったので、これはなかなか新鮮な経験だった。
『横から投げてみようか?』
『ああ。頼む』
ボクはアンダースローで投げたり、サイドスローで投げたりして試行錯誤しながら、脚本どおりにビデオを作って行った。
投げる時のフォームをいろんな角度から撮ったり、保田くんの表情をアップにしたりなど、カメラワークにも工夫をしたり……様々な苦労を経て……。
脚本ができてから1週間後。
ようやく、最後のシーンを撮ることになった。
最後のシーンは保田くんが空振りするところだ。
ここに至るまで、ボクが100球近く投げなければいけなかった理由の一つとして、ひとえにボクのコントロールが悪いせいであったということがある。
脚本では空振り三振なので、ある程度どんな球でも空振りしてくれればおしまいなのだが、どうせならちゃんとしたストライクで空振り三振にしたいという気持ちがボクだけでなく、ビデオ制作にかかわった友人すべての思いでもあった。
だからボール球を投げたらNG。
ところが……だ。
10球に1球、奇跡的にいい球がキャッチャー役の茨木くんのかまえたミットに行ってもNGになることがある。
『お――い! なんで振らね――んだよ――!!』
『やすだ――!』
来た球がストライクであっても打つ必要はない。
空振りでいいのだ。
なのに保田くんは振らないときがあった。
他のボール球はすべて振るのに、絶好球は振らないのだ。
『そんなこと言われても……』
保田くんは何かあると口癖のようにそう言う。
そんなこと言われても……と言うが、脚本に書かれてあることをやらないということに対してなにもしないんだからそりゃだれだってそう言うだろう。
まして来た球を打たなきゃならないとかだったら『そんなこと言われても……』という言い分も分かるが、空振りで良いわけだから意味が分からない。
そんなこと言われても……
それはこちらのセリフである。
友人ながらまったくもって分からないやつである。
なんだかんだ大変な思いをして、ボクはいい球を投げ、保田くんはいい形でスイングをして、球は茨木くんのミットに収まった。
やっと終わった……とみんなが思った。
ここで保田くんは脅威のアドリブを見せた。
空振りした形で『しまった……』と言うセリフを口にする保田くん。
脚本ではそのままうなだれている保田くんの周りをボクと茨木くんが踊りながら回るという実にバカバカしいものだった。
『あ! しまった! しまった! しまった! しまった! しまった!!』
保田くんは歌舞伎の勧進帳のように手を前につきだし、首をぐるぐる回しながら言った。
このシーンは満場一致でOKシーンとなった。
それにしても今考えると恥ずかしいことこの上ないビデオである。
ボクが通っていた学校は統廃合でもう何年も前になくなった。
だからこのビデオは一応お蔵入りになっているはずなのだが……
なんと言っても昨今はネット社会であり簡単に動画を世間の公開することができる。
万が一にも後輩の誰かが、これを手に入れてYouTubeにアップとかしてたら最悪だなあ、と思う今日この頃である。
電気科だったボクは電気についてはろくに勉強していなかったので、ここにきて専門的な選択授業といわれても……さほど乗り気ではなかったのだ。
どれも専門的すぎて、そもそも基礎ができていない自分には合わないような気がしたからだ。
とは言うものの……
やらないわけにはいかない。
いろいろあったけど、ボクはビデオ製作を選んだ。
ビデオ製作を選んだのはボクと保田くん、神園くん、茨木くん……あと数人いたようないなかったような……。
その辺の記憶は定かではないが、このビデオ製作は意外に奥が深かかった。
テレビを見るたびにボクはこのビデオ製作の授業を思い出す。
記憶に残っているということは実に良い授業だったのだろうと思う。
この授業ではまずVTRというものがどのような形で作成されているかを学んだ。
絵コンテ作って、脚本を作り、多くの映像の中から必要な絵を編集していくということを、時間をかけて学び、最終的には自分たちでビデオ制作をしてみるというものだった。
『絵コンテを作るにしても、脚本が必要だね』
授業の流れからボクらは先生のこの言葉の意味は理解した。
問題はどんな脚本を書くか……ということだ。
『どうするよ……』
『オレ、書くよ』
ボクはすぐに言ったが、友人たちは良い顔をしなかった。
『阪上。一応言っておくが、アニメ製作するわけじゃないからな』
友人たちの言いたいことはよく分かる。
当時のボクはアニメオタクで、以前にも話したが『ヤダモン』という魔法少女にはまっていたからだ。
何がどうはまっていたのか……それに関しては『文化祭で描いた看板』という話を読んでいただけるとありがたい。
結局……
脚本はボクが書くことになった。
出来上がった脚本は野球のドラマだった。
なぜ野球というテーマにしたのか……
それは自分が出演しなければいけなかったからだ。
ボク自身は目立ちたがりというわけではないのだが、ただ演者を友人にすると思い切った脚本が書けなくなってしまうので、自分が主演してもできるものにしようと思ったのだ。
『お。阪上の脚本にしてはなかなかまとも……』
『にしては……って。いつもまともだぞ』
『自覚ないのか?』
こんな会話があったかなかったか……
記憶は定かではない。
てゆうか、脚本を書くにしても演者が男しかいないのだ。
間違えても魔法少女が活躍する脚本など書けやしないのだ。
脚本の内容は……。
9回の裏、2アウトランナーなし。
ピッチャー、阪上。
最後のバッターは、本日ノーヒットの保田。
カウント3ボール2ストライク。
最後の1球を阪上が投じて、保田が空振り三振。
試合終了。
という単純なものだった。
一本の映像を作るにはたくさんの短いカットが必要であり、こんな単純な話でも何時間もかけながらいけないということをボクらは制作を通して学んだ。
昨今ではテレビ離れで、番組の内容が少しつまらないとすぐにネットなどでたたかれるような世の中になったが、そういう人たちはテレビの制作がどれだけ大変かを体験してみるといいかもしれない。
実際、ボクはこの映像を作るために100球以上は投げたと思う。
『上から投げると見栄えが悪いな』
VTRを確認しながら神園くんは言った。
確かにその通りだった。
自分が投げているところを客観的に見ると言う経験は今までなかったので、これはなかなか新鮮な経験だった。
『横から投げてみようか?』
『ああ。頼む』
ボクはアンダースローで投げたり、サイドスローで投げたりして試行錯誤しながら、脚本どおりにビデオを作って行った。
投げる時のフォームをいろんな角度から撮ったり、保田くんの表情をアップにしたりなど、カメラワークにも工夫をしたり……様々な苦労を経て……。
脚本ができてから1週間後。
ようやく、最後のシーンを撮ることになった。
最後のシーンは保田くんが空振りするところだ。
ここに至るまで、ボクが100球近く投げなければいけなかった理由の一つとして、ひとえにボクのコントロールが悪いせいであったということがある。
脚本では空振り三振なので、ある程度どんな球でも空振りしてくれればおしまいなのだが、どうせならちゃんとしたストライクで空振り三振にしたいという気持ちがボクだけでなく、ビデオ制作にかかわった友人すべての思いでもあった。
だからボール球を投げたらNG。
ところが……だ。
10球に1球、奇跡的にいい球がキャッチャー役の茨木くんのかまえたミットに行ってもNGになることがある。
『お――い! なんで振らね――んだよ――!!』
『やすだ――!』
来た球がストライクであっても打つ必要はない。
空振りでいいのだ。
なのに保田くんは振らないときがあった。
他のボール球はすべて振るのに、絶好球は振らないのだ。
『そんなこと言われても……』
保田くんは何かあると口癖のようにそう言う。
そんなこと言われても……と言うが、脚本に書かれてあることをやらないということに対してなにもしないんだからそりゃだれだってそう言うだろう。
まして来た球を打たなきゃならないとかだったら『そんなこと言われても……』という言い分も分かるが、空振りで良いわけだから意味が分からない。
そんなこと言われても……
それはこちらのセリフである。
友人ながらまったくもって分からないやつである。
なんだかんだ大変な思いをして、ボクはいい球を投げ、保田くんはいい形でスイングをして、球は茨木くんのミットに収まった。
やっと終わった……とみんなが思った。
ここで保田くんは脅威のアドリブを見せた。
空振りした形で『しまった……』と言うセリフを口にする保田くん。
脚本ではそのままうなだれている保田くんの周りをボクと茨木くんが踊りながら回るという実にバカバカしいものだった。
『あ! しまった! しまった! しまった! しまった! しまった!!』
保田くんは歌舞伎の勧進帳のように手を前につきだし、首をぐるぐる回しながら言った。
このシーンは満場一致でOKシーンとなった。
それにしても今考えると恥ずかしいことこの上ないビデオである。
ボクが通っていた学校は統廃合でもう何年も前になくなった。
だからこのビデオは一応お蔵入りになっているはずなのだが……
なんと言っても昨今はネット社会であり簡単に動画を世間の公開することができる。
万が一にも後輩の誰かが、これを手に入れてYouTubeにアップとかしてたら最悪だなあ、と思う今日この頃である。
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