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修学旅行
ななちゃん
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修学旅行は確か一週間ぐらいの日程だったと記憶している。
最初の一日は往路で使い、最後の一日は復路で使う。
間の日程は基本的には朝から晩までスキーをやっている。
スキーを体験するにあたって、クラスで事前に班が分けられていたのだが、ボクはどうしても仲の良い保田くんや多田くんたちとスキーがしたかったので、経験者だったにもかかわらず、初心者の班に行くことにした。
だからボクと同じ班の連中は、スキーなどおそらく人生初で、面白いぐらいに転んでいた。
最初はみんなそんなもんである。
ボクは一応、経験者だったから転ぶことは皆無だったけど、最初は転んで雪まみれになっていたわけだから、そんなにみんなのことは笑えないのではあるが、雪まみれになっている友人を見る度に大笑いしていたような気がする。
『ゲラ』という言葉があるのをご存知だろうか。
実はこれはたいしたことでもないのに大笑いしてしまう笑い上戸の人を指して言う言葉であって、実はボクはこのゲラなのである。ちょっとしたことで大笑いしてしまう傾向は今になっても変わらない。
とにかくくだらないことで大笑いする。
まして当時は『箸が転んでもおかしい年頃』だったわけで、友人が転んで雪まみれで真っ白になっている姿というのは最高におもしろかったわけである。これに関してはボクだけでなく他のみんなも、そして転んでいる当人も笑っていた。
実に楽しい思い出である。
スキーで転ぶという話には続きがある。
ボクらが行ったスキー場は実に雪質が良かったからコブなどはなかった。
実はボクは修学旅行で行ったスキー場よりも滑りやすいスキー場には未だに行ったことがない。このスキー場ではボクがコブに足をとられて転ぶこともなかったし、がちがちに凍ったアイスバーンになっているような地面にエッジを効かせてもまったくスキーが止まらず、足の変なところに力が入って筋肉痛になることもなかった。
そんな感じのスキー場だったからおもしろいぐらいうまくターンができた。
それでみんなで滑る時にボクは意地悪ないたずらを考えた。
多田くんや保田くんが滑る進路の前をぶつかるか否かのギリギリのところでターンをするといういたずらである。
慣れない足取りで滑っている彼らの目の前を、す――っとボクが通る。
すると後ろから『うわ――――っ!』という叫び声が聞こえる。
ボクは逆にターンをしてそちらを見やる。見事に転んでいる友人たちがしっかりと視界に入るというわけだ。
この手でボクは同じ班の友人を何人か転倒させた。
スキー自体に慣れてしまうとこのようなことはなんてことはないのだが、初心者には前を横切られるのは怖いことこの上ないらしい。それで今までうまく滑っていてもバランスを崩して物の見事に転んでしまうのである。
ただこれをやったからと言って怒る友人はいなかった。
というのも前述したように転んでもまた楽しかったのがスキーだからである。
班ごとに教わっていた修学旅行のスキーだが、基本的にはインストラクターに教えてもらっていたので、みんなゼッケンをつけていた。ボクらが所属していた班のゼッケンは70番台で保田くんのゼッケンは『77番』だった。
保田くんと言う男は実に面白い男で、なぜか人に好かれるところがある。
人嫌いな当人にとっては甚だ迷惑な話なのだろうけど、実に温厚な彼の人徳なのかもしれない。当時はそうやって人から好かれ、黙っていても多くの人が彼に声をかけてくれていた。
現在はどうか……。
人嫌いな彼は必要以上の人間関係を構築することを好まない。
ボクや多田くんなどの古くからの友人とは会って酒を飲んだりもするが、おそらくそれ以外の付き合いはない。もしかしたらボクの知らないところでそういう付き合いがあるのかもしれないが、とりあえずボクの知っている限りの話をさせてもらえるのなら、基本的には彼は新しい人との出会いを楽しむことのできない人間である。
若い、高校生ぐらいの時は不器用ながらも一生懸命やっていた保田くんを周りの大人は気遣い、友人たちは声をかけたりもしていたが、30代も後半にもなると誰も声をかけてくれなくなる。それは年齢からして自分が周りに声をかけていく年齢になっているからである。
若いうちが花……なんて言葉がある。
無知で、不完全で……それでもがむしゃらで自分なりに努力をしている若い人間というのは年上の人間からすれば非常に眩しい存在なのだ。
だから保田くんに限らず、あの時のボクらは多くの大人から助けを得ながら年を重ね、大きくなっていったのだろうと今になって思うことがある。
学生時代は、周りから声をかけてもらい好かれていた人のよい保田くんだが、現在ではそうではない。温厚ではあるものの、それだけでは人から相手にされない。温厚で人が寄ってくる紅顔の青年も人間関係の構築に対する努力をしなければ、ただの人嫌いのおっさんになってしまうのである。
問題は当人がそういう問題にまったく気づいていないことではあるが、どんな人生を歩もうとそれは人それぞれであり、『普通』なんて言葉でひとくくりにはできない。
友人として今の保田くんの人嫌いは何とかした方がいいと思うのだけど、まあ、現在の彼がそれで幸せなら友人とは言えボクに何かを言う権利などないので、そのままにしている。
何が幸せなのかは当人が決めることだからだ。
高校生の頃の保田くんは現在とは違ってもう少し純粋で今ほど人嫌いでもなかった。
彼がどう思っていたかは知らないが、何かと周りから声をかけてもらえる存在だった。
そんな保田くんだったのでスキーのインストラクターにも好かれていた。
インストラクターは保田くんのことを77番のゼッケンにちなんで『ななちゃん』と呼んでいた。本人は嫌がっていたがインストラクターの先生だけでなくボクらもその呼び名は気に入っており本人の意思とは真逆に一気に定着していった。
ちなみに今に至るまで多田くんは保田くんのことを『ななちゃん』と呼んでいる。
最初の一日は往路で使い、最後の一日は復路で使う。
間の日程は基本的には朝から晩までスキーをやっている。
スキーを体験するにあたって、クラスで事前に班が分けられていたのだが、ボクはどうしても仲の良い保田くんや多田くんたちとスキーがしたかったので、経験者だったにもかかわらず、初心者の班に行くことにした。
だからボクと同じ班の連中は、スキーなどおそらく人生初で、面白いぐらいに転んでいた。
最初はみんなそんなもんである。
ボクは一応、経験者だったから転ぶことは皆無だったけど、最初は転んで雪まみれになっていたわけだから、そんなにみんなのことは笑えないのではあるが、雪まみれになっている友人を見る度に大笑いしていたような気がする。
『ゲラ』という言葉があるのをご存知だろうか。
実はこれはたいしたことでもないのに大笑いしてしまう笑い上戸の人を指して言う言葉であって、実はボクはこのゲラなのである。ちょっとしたことで大笑いしてしまう傾向は今になっても変わらない。
とにかくくだらないことで大笑いする。
まして当時は『箸が転んでもおかしい年頃』だったわけで、友人が転んで雪まみれで真っ白になっている姿というのは最高におもしろかったわけである。これに関してはボクだけでなく他のみんなも、そして転んでいる当人も笑っていた。
実に楽しい思い出である。
スキーで転ぶという話には続きがある。
ボクらが行ったスキー場は実に雪質が良かったからコブなどはなかった。
実はボクは修学旅行で行ったスキー場よりも滑りやすいスキー場には未だに行ったことがない。このスキー場ではボクがコブに足をとられて転ぶこともなかったし、がちがちに凍ったアイスバーンになっているような地面にエッジを効かせてもまったくスキーが止まらず、足の変なところに力が入って筋肉痛になることもなかった。
そんな感じのスキー場だったからおもしろいぐらいうまくターンができた。
それでみんなで滑る時にボクは意地悪ないたずらを考えた。
多田くんや保田くんが滑る進路の前をぶつかるか否かのギリギリのところでターンをするといういたずらである。
慣れない足取りで滑っている彼らの目の前を、す――っとボクが通る。
すると後ろから『うわ――――っ!』という叫び声が聞こえる。
ボクは逆にターンをしてそちらを見やる。見事に転んでいる友人たちがしっかりと視界に入るというわけだ。
この手でボクは同じ班の友人を何人か転倒させた。
スキー自体に慣れてしまうとこのようなことはなんてことはないのだが、初心者には前を横切られるのは怖いことこの上ないらしい。それで今までうまく滑っていてもバランスを崩して物の見事に転んでしまうのである。
ただこれをやったからと言って怒る友人はいなかった。
というのも前述したように転んでもまた楽しかったのがスキーだからである。
班ごとに教わっていた修学旅行のスキーだが、基本的にはインストラクターに教えてもらっていたので、みんなゼッケンをつけていた。ボクらが所属していた班のゼッケンは70番台で保田くんのゼッケンは『77番』だった。
保田くんと言う男は実に面白い男で、なぜか人に好かれるところがある。
人嫌いな当人にとっては甚だ迷惑な話なのだろうけど、実に温厚な彼の人徳なのかもしれない。当時はそうやって人から好かれ、黙っていても多くの人が彼に声をかけてくれていた。
現在はどうか……。
人嫌いな彼は必要以上の人間関係を構築することを好まない。
ボクや多田くんなどの古くからの友人とは会って酒を飲んだりもするが、おそらくそれ以外の付き合いはない。もしかしたらボクの知らないところでそういう付き合いがあるのかもしれないが、とりあえずボクの知っている限りの話をさせてもらえるのなら、基本的には彼は新しい人との出会いを楽しむことのできない人間である。
若い、高校生ぐらいの時は不器用ながらも一生懸命やっていた保田くんを周りの大人は気遣い、友人たちは声をかけたりもしていたが、30代も後半にもなると誰も声をかけてくれなくなる。それは年齢からして自分が周りに声をかけていく年齢になっているからである。
若いうちが花……なんて言葉がある。
無知で、不完全で……それでもがむしゃらで自分なりに努力をしている若い人間というのは年上の人間からすれば非常に眩しい存在なのだ。
だから保田くんに限らず、あの時のボクらは多くの大人から助けを得ながら年を重ね、大きくなっていったのだろうと今になって思うことがある。
学生時代は、周りから声をかけてもらい好かれていた人のよい保田くんだが、現在ではそうではない。温厚ではあるものの、それだけでは人から相手にされない。温厚で人が寄ってくる紅顔の青年も人間関係の構築に対する努力をしなければ、ただの人嫌いのおっさんになってしまうのである。
問題は当人がそういう問題にまったく気づいていないことではあるが、どんな人生を歩もうとそれは人それぞれであり、『普通』なんて言葉でひとくくりにはできない。
友人として今の保田くんの人嫌いは何とかした方がいいと思うのだけど、まあ、現在の彼がそれで幸せなら友人とは言えボクに何かを言う権利などないので、そのままにしている。
何が幸せなのかは当人が決めることだからだ。
高校生の頃の保田くんは現在とは違ってもう少し純粋で今ほど人嫌いでもなかった。
彼がどう思っていたかは知らないが、何かと周りから声をかけてもらえる存在だった。
そんな保田くんだったのでスキーのインストラクターにも好かれていた。
インストラクターは保田くんのことを77番のゼッケンにちなんで『ななちゃん』と呼んでいた。本人は嫌がっていたがインストラクターの先生だけでなくボクらもその呼び名は気に入っており本人の意思とは真逆に一気に定着していった。
ちなみに今に至るまで多田くんは保田くんのことを『ななちゃん』と呼んでいる。
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