化け猫の憂鬱

阪上克利

文字の大きさ
上 下
11 / 12
化け猫と月の兎

マサキ

しおりを挟む
 あまりの見舞客の多さにあたしは驚いた。
 一日に何人来るのだろうか。
 しかも大勢が一気に来るのではない。
 間を開けずに何人かが来る。
 しかも女の子が多い……。

 マサキという少年は野球をやっていたらしい。
 ポジションはピッチャーだそうだ。

 この少年。
 実にかっこいい。
 切れ長の目に、まっすぐで形のいい鼻筋。
 あごはシャープで顔の形も小さい。
 身長も15歳という年齢にしては高い。175㎝はあるだろうか。何といっても足が長いのが彼のカッコよさを、盤石のものにしているのではないだろうか。
 野球をやっていたら坊主頭を連想しがちだが、マサキが所属するシニアリトルのチームではそういう規則はないらしく、サラサラの髪の毛を少し長めに伸ばしてきれいに分け目をつけている。
 誰が見てもモテる男の子とは彼のことを言うのかもしれない。

 マサキが入院してきたのは肘の手術をするためだった。
 あたしは野球のことはよく分からないのだけど、登板過多とうばんかたというやつらしい。
 簡単に言うと投げすぎ。
 関節に強い負荷をかける同一の運動を繰り返し行うことによって、関節そのものが痛んでしまうということだ。野球に限らず、スポーツにはケガがつきもので、マサキのような子供たちはけっこう入院してくる。彼らは患部以外は元気だ。死ぬわけでもないから入院してきても緩和病棟に比べたら空気は重くない。

『元通り投げられるかどうかは分からない……』
 あたしはレントゲン写真を読影していた医師がマサキにそう言っているのを横で聞いていた。
 マサキと一緒に話を聞いているのは彼の両親だ。
『なんとか……なりませんか』
『今の段階ではなんとも言えませんね……。まずはこの軟骨を除去しないとね』
 医師はレントゲンに写っている肘関節にある軟骨を指してマサキに言った。
 通称「ネズミ」という遊離軟骨ゆうりなんこつが邪魔をしてマサキの肘はうまく曲がらない。
 曲がらないのを無理して投げるから痛みが生じる。
 痛みが生じると言うことはどこかに無理をさせているということだ。関節そのものがおかしくなってしまい、最終的には野球はおろか日常生活にさえ支障をきたすケースもある。

 もしかしたら投げられないかもしれない。
 野球はもうできないかもしれない。
 今まで野球ばかりやっていた少年には死刑宣告みたいなものだろう。

『元通り投げられないかもしれない』
 医師の言葉に空気が重くなるのをあたしは感じた。
『分かりました。とにかくよろしくお願いします』
 マサキは言った。年齢の割にしっかりした子である。
 化け猫は思考と感情が読めるのだが、彼はしっかり切り替えができている。

 できれば……
 この子がまた野球ができるようになってほしい。
 あたしはなぜかカンナのことを思い出しながらそう感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【5分で読める!】短編集

こよみ
キャラ文芸
タイトル通り、各話だいたい5分以内で読める1話完結の短編集。 世界線は繋がっていたりいなかったり、基本的に「日常」の切り抜きです。 ■手元にある分を投稿した後は不定期更新になります ※こちらの作品は他サイトでも投稿しています

エロゲソムリエの女子高生~私がエロゲ批評宇宙だ~

新浜 星路
キャラ文芸
エロゲ大好き少女佐倉かなたの学園生活と日常。 佐倉 かなた 長女の影響でエロゲを始める。 エロゲ好き、欝げー、ナキゲーが好き。エロゲ通。年間60本を超えるエロゲーをプレイする。 口癖は三次元は惨事。エロゲスレにもいる、ドM 美少女大好き、メガネは地雷といつも口にする、緑髪もやばい、マブラヴ、天いな 橋本 紗耶香 ツンデレ。サヤボウという相性がつく、すぐ手がでてくる。 橋本 遥 ど天然。シャイ ピュアピュア 高円寺希望 お嬢様 クール 桑畑 英梨 好奇心旺盛、快活、すっとんきょう。口癖は「それ興味あるなぁー」フランク 高校生の小説家、素っ頓狂でたまにかなたからエロゲを借りてそれをもとに作品をかいてしまう、天才 佐倉 ひより かなたの妹。しっかりもの。彼氏ができそうになるもお姉ちゃんが心配だからできないと断る。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

哀愁漂う居酒屋

Rina
キャラ文芸
ある哀愁漂う居酒屋がある。 中に入ると1人で切り盛りしてるマスター そこは人それぞれの物語がある。 俺もその1人だ

jumbl 'ズ

井ノ上
キャラ文芸
青年、大吉は、平凡な日々を望む。 しかし妖や霊を視る力を持つ世話焼きの幼馴染、宮森春香が、そんな彼を放っておかない。 春香に振り回されることが、大吉の日常となっていた。 その日常が、緩やかにうねりはじめる。 美しい吸血鬼、大財閥の令嬢、漢気溢れる喧嘩師、闇医者とキョンシー、悲しき天狗の魂。 ひと癖もふた癖もある連中との出会い。 そして、降りかかる許し難い理不尽。 果たして、大吉が平穏を掴む日は来るのか。

処理中です...