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営業部
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営業の山本という人は面接のときに義弘に『スポーツは何かやっていないのか?』と聞いた人だ。
『よろしくお願いします』
『よろしく。今から部署の連中にも紹介するから』
何か……こう……つっけんどんな感じがするのは気のせいだろうか。
山本は何も話さなかった。話すのが苦手な義弘には助かるが、むしろ今まではみんなが話しかけてくれたからこの無言の時間が怖い。
何も失敗などしていないのに失敗したかのような気分にさせられてしまう。
営業部は相談室の上の階の3階にあった。
営業は外回りもあるし、1階の方がいいのではないか……などと余計なことを考えながら、義弘は山本の後をついて階段を昇った。
通勤するときは話さなければならないプレッシャーで短い時間が長く感じたが、今は無言の時間がプレッシャーでほんの数分が何時間にも感じられる。
おかしなものだ。
話をしなければいけないプレッシャーと、何も話題がないプレッシャーは同じようなもののように感じる。そもそも義弘は話したいとは思っていないのだが、何か話さなければ……無言になってしまい空気が悪くなるのではないかとか思ってしまうのだ。
その思いがプレッシャーになる。
困ったものだ。
『あんたは社交性がないから社会にでたら苦労するかもよ』
また姉の言葉が頭に浮かぶ。
確かに姉が言っていたことは正解だったのかもしれない。
階段を上がってすぐのところに営業部の入口があった。
山本は無言で扉を開いた。
『お疲れさん』
『お疲れ様です』
4月1日ということもあり、年度初めであるからだろうか。
営業部は全員いるようだった。
全員で5人。若い女性も1人いる。事務員だろうか。義弘を入れて6人になる……。
『じゃあ朝礼を始めようか』
山本が言うと主任らしき男が挨拶をした。
『おはようございます』
主任らしき男が挨拶すると全員が続いて『おはようございます』と言った。
なんだか軍隊みたいだ。
『本日の予定をお願いします。』
主任らしき男が言うと、他の営業部員がそれぞれに予定を話していく。
なにやらどこそこに行ってだれかと会ってどうのこうの……という話だ。
当り前の話だが義弘にはよく分からない。
『最後に課長からどうぞ』
すべての予定の報告が終わった後、山本に話が振られた。
『今日は年度のはじめということもあって朝礼にはなるべく全員参加でお願いしていましたが、忙しい中ですが、スケジュールを調整し、このようにそろっていただいて助かりました。まずはお礼を言いたいと思います』
少し話は長くなるのかな?
そんなことを義弘は山本の隣で思った。
全員の視線がこちらに向けられる。思わず視線をそらしたくなるのをぐっとこらえて視線を外さないようにする。
『本日はまずわが営業部に配属された新入社員の植竹さんを紹介したいと思います』
いきなり話をふられて義弘はびっくりした。
『じゃあ……植竹くん』
『あ……はい。えーと。植竹義弘と申します。高校卒業して今日からこちらでお世話になることになりました。よろしくお願いします』
『はい。というわけで今日から植竹くんにもうちの戦力になってもらうわけだけど、うちは基本的に二人一組で営業をすることにしているんだ。君はそこの石岡くんと一緒にやってくれるかな』
『はい』
石岡とは確か……相談室で室長が言っていたあの石岡という人のことか。
『よろしくお願いします。石岡です』
『あ……こちらこそよろしくお願いします。植竹です』
『よろしくお願いします』
『よろしく。今から部署の連中にも紹介するから』
何か……こう……つっけんどんな感じがするのは気のせいだろうか。
山本は何も話さなかった。話すのが苦手な義弘には助かるが、むしろ今まではみんなが話しかけてくれたからこの無言の時間が怖い。
何も失敗などしていないのに失敗したかのような気分にさせられてしまう。
営業部は相談室の上の階の3階にあった。
営業は外回りもあるし、1階の方がいいのではないか……などと余計なことを考えながら、義弘は山本の後をついて階段を昇った。
通勤するときは話さなければならないプレッシャーで短い時間が長く感じたが、今は無言の時間がプレッシャーでほんの数分が何時間にも感じられる。
おかしなものだ。
話をしなければいけないプレッシャーと、何も話題がないプレッシャーは同じようなもののように感じる。そもそも義弘は話したいとは思っていないのだが、何か話さなければ……無言になってしまい空気が悪くなるのではないかとか思ってしまうのだ。
その思いがプレッシャーになる。
困ったものだ。
『あんたは社交性がないから社会にでたら苦労するかもよ』
また姉の言葉が頭に浮かぶ。
確かに姉が言っていたことは正解だったのかもしれない。
階段を上がってすぐのところに営業部の入口があった。
山本は無言で扉を開いた。
『お疲れさん』
『お疲れ様です』
4月1日ということもあり、年度初めであるからだろうか。
営業部は全員いるようだった。
全員で5人。若い女性も1人いる。事務員だろうか。義弘を入れて6人になる……。
『じゃあ朝礼を始めようか』
山本が言うと主任らしき男が挨拶をした。
『おはようございます』
主任らしき男が挨拶すると全員が続いて『おはようございます』と言った。
なんだか軍隊みたいだ。
『本日の予定をお願いします。』
主任らしき男が言うと、他の営業部員がそれぞれに予定を話していく。
なにやらどこそこに行ってだれかと会ってどうのこうの……という話だ。
当り前の話だが義弘にはよく分からない。
『最後に課長からどうぞ』
すべての予定の報告が終わった後、山本に話が振られた。
『今日は年度のはじめということもあって朝礼にはなるべく全員参加でお願いしていましたが、忙しい中ですが、スケジュールを調整し、このようにそろっていただいて助かりました。まずはお礼を言いたいと思います』
少し話は長くなるのかな?
そんなことを義弘は山本の隣で思った。
全員の視線がこちらに向けられる。思わず視線をそらしたくなるのをぐっとこらえて視線を外さないようにする。
『本日はまずわが営業部に配属された新入社員の植竹さんを紹介したいと思います』
いきなり話をふられて義弘はびっくりした。
『じゃあ……植竹くん』
『あ……はい。えーと。植竹義弘と申します。高校卒業して今日からこちらでお世話になることになりました。よろしくお願いします』
『はい。というわけで今日から植竹くんにもうちの戦力になってもらうわけだけど、うちは基本的に二人一組で営業をすることにしているんだ。君はそこの石岡くんと一緒にやってくれるかな』
『はい』
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『よろしくお願いします。石岡です』
『あ……こちらこそよろしくお願いします。植竹です』
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