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しおりを挟む課題が終わったのは、例によって夕方だった。とっくに四時を過ぎていた。さすがに今日は疲れたので、とっとと帰りたかったのだが、夏実はなぜか名残惜しそうだった。
「ねえ、あたしもやっぱり気になるんだ」
「ん?なに?なにが気になる」
「例のあの青崎の件がさあ、なに企んでるのかなあ、と思うとね」
「ああ、こないだの話か。安心しろ、見合いならもうすでに断った。どういう意図だろうが、こっちが乗らなきゃいいだけだろ」
「それよりも、なんでこんなにあんたにコナかけてくるのかが、考えても分からない。私たちの仲間を分断する意図があるのは、間違いないんだろうけど。それだけじゃない気がするんだよね・・・」
夏実はなにかを考え、言い淀んでいたが、顔を上げて訊いてきた。
「ねえ、あんたのお師匠さんて、姪御さんとかいるの?」
「いや?たしか、兄弟姉妹はいないはずだから、甥姪のたぐいもいないと思う」
それがどうした、と返した。
「なんか、青崎ってあんたのお師匠さんに似てない?化粧すると青崎に似てると思う」
「はあ?何言ってる、師匠が青崎なんかと繋がりがあるはずないじゃないか。他人の空似だろ」
さすがに、オレも夏実の言うことに呆れた。
「うん、そうだよね・・・」
「やつら、どうせ前世はナチの連中だろ。オレを取り込もうって魂胆だよ。それだけのことだ」
「・・・あんたが標的なのは間違いない。だから、青崎には気を付けて。決してふたりきりで会ったりしないように。もしかしたら、あんたを嵌めようとするかもしれない。なにかあったら、すぐあたしに連絡して」
「分かった、なにかあったら、すぐ夏実に連絡する」
オレは、夏実のカンの鋭さはよく分かっていたので、気を付けることとした。とにかく、やつの誘いには徹頭徹尾乗らないことだ。
結局そんな話をしだしたら、腹の虫が暴れだしたので、仕方なく、いつものマギーで夕飯を食うことにした。オレは、先日食べたものの味が、しっかり分からなかったので、もう一度同じものを注文した。注文を取りに来たマスターは苦笑していた。
オレたちの注文に合わせるように、新美が楓と共に店に入って来た。オレは手を振って、ふたりを同じテーブルに呼んだ。
「新美君、とうとう楓さんとうまくいったのかな?」
「はあ?そんなんじゃねえよ」
うんうん、テンプレどおりの、セリフも分かる。これからが本番だよな。
「実は、奴らの活動が怪しい。ターゲットは遼介だと思う。相手は組織立っていて、その点ではこちらは遅れている」
新美が、真面目な顔をして口を開いた。
「こちらも、仲間を集めて、対応を考えた方が良いと思うんだ」
なんだ?急になにを言いだすんだ、このふたりは。
「なにか、掴んだの?」
夏実が、楓に訊いた。新美も楓の方を向いている。
「この間の連中に、妙な動きがあるんだ」
「城南予備校の前で、あんたたちに絡んできた奴らね?」
さすがに、夏実のカンは鋭かった。
「うん、新しいリーダーとかいう奴が出て来て、近隣のヤンキーどもを束ねているらしいの。わたしがいた、カイザリンにも話があったそうだ」
「それだけじゃねえ、中央の首都では、ヤンキーやらDQNやらの連中を束ねる大きな組織ができつつあるらしい。連中は、どうもそこと繋がりがあるようだ」
「カイザリンの娘が聞いてきたんだ。逆に、それに反発するグループも、できつつあるとのことだよ」
オレは、三人の言っていることが、よく分からなかった。
「ヤクザみたく、組を作って、抗争でもおっ始めようってのか?やめやめ、警察沙汰になるぞ」
「そんな単純な話じゃないと思う」
夏実が真面目な顔でこっちを向いた。
「多分、あんたがここらへんのリーダーと見て、仕掛けて来てるんじゃないかな」
「リーダー?なんのリーダーだ。そんなものになった覚えはないぞ」
「青崎千華が、あんたを取り込もうとしてきたでしょ。つまり、敵にとって、あんたが一番の重要人物と見られているってことよ」
ますますわけが分からなくなった。
「待てまて、話を整理しよう。敵というのは、例のSSの生まれ変わりの集団のことか?って、楓はこの話知っているのか」
楓は、頷いて見せた。
「こないだ、夏実から詳しく話を聞いた。それで納得いったんだ。あたしも遼介に逢った時から、前世の記憶が蘇りつつあった。最初はどういうことか、混乱してたんだけど、夏実に教わって理解できた」
「楓は、昔からの親友だって言ってたでしょ」
オレは頭を抱えた。段々と話が大げさになってきてる。なんでこんなに前世の記憶を持った人間が増えて来たんだ?何か意味があるのかも知れないが、オレにはさっぱり見当もつかなかった。
「で、そのSSどもに対抗するために、かつてのUSアーミーも関係者が集まるのか?」
「・・・うん、そういうことだけど、なんかもうひとつピンとこないんだよね」
「なにがだ?SSの連中は、なにをやろうとしているんだ?まさか、ナチスを現代に蘇らそうとしてるじゃあるまいな」
「可能性は、あるかもしれない。そうじゃないかも知れない。相手の意図がいまいち分からないのよ」
夏実が何を言いたいのかが、オレにはよく分からなかった。
「過去世の記憶ってさ、結構あいまいなところあるじゃない。いつかの話じゃないけど、味方と思ってた人が、敵になったり、その逆もあったり。その時代によって、ひとの関係は変わるんだって、あんたも言ってたじゃない。あたし、最近よく分からなくなってきた。なんか肝心なところが思い出せないの」
夏実は、じっとなにかを考えながらしゃべった。オレたちはその発言に戸惑った。
「少なくとも、時代が動いているのは間違いない。あんまり良くない方にね。だから、遼介も慎重に行動した方が良いよ。相手はまず遼介を標的としてくると思う。特に青崎には要注意ね」
困った、ハニートラップとか自信ねえよ。
「うん・・・。まあ、向こうがどう出るかね。できるだけあたしと、一緒にいること」
「なら、マギーに嫁さんに来てもらうのが一番じゃね?」
ネルソン!オレたちはまだ十六才だ。法律的にも物理的にも生物学的にも社会的にも、結婚は無理だ、ってか当人のオレに、まだその気はねえよ!そう言ってやると、夏実はなぜか不機嫌な顔になった。
「じゃあ、代わりに、あたしなら良いかな」
頼むから、楓も余計なことを言わんでくれ。話がややこしくなる。
「とにかく、それでどうすりゃいいんだ?」
「まあ昔の仲間に、できるだけ声をかけることかな。組織つったって、表立って行動するわけにはいかねえだろうから、同志を募るところから始めるべきじゃね」
「多分だけど、こっちの仲間も、既に動いてるひとたちはいると思う。推測だけどね」
ネルソンも、マギーも頼りになる。リーダーはお前らがやるべきだろ?
「いやいや、性格は良くて、腕っぷしも強くって、名門校に在籍してて頭もよくて、女子にもモテモテの松澤が一番の適役だろ」
ネルソンの言ってることは、嫌味というソースで味付けた、皮肉にしか聞こえなかった。
その数日後、新年を迎えることとなった。さすがに、大晦日と三が日は図書館も休みだったので、オレは家にいた。やることと言えば、課題の処理、時折ゲームやマンガ、身体を動かすために少しの稽古だった。
初詣に行こうと、夏実が誘ってきたが、オレは課題が遅れ気味だったので断った。まだ、高校からの課題が終わっていなかったのだ。紅白も、天皇杯も、ライスボウルもすべて無視して、課題を解くことに集中していた。
四日になって、夏実がウチを訪れた。オレの家族は大歓迎だったが、夏実はオレの状況を視察に来たのだった。
「ええっ?あんた、まだ学校からの課題が終わってないの?」
「この顔を見ろ、これが他のことに入れ込んでた顔か?」
「目の下にクマができてる。ちょっと見せて、フンフン、ほう結構できてるじゃん。後は英語だけだね」
「オレは苦手だ」
「おかしいな、アンタは昔ちゃんと英語をしゃべってたよ」
「しゃべることはできたが、本はろくに読まなかったからな。英語の点は、前世でも悪かったんだよなあ」
「そう思って、良いものを手に入れてきてあげたよ」
夏美が取り出したのは、戦前のM四シャーマン戦車の、分厚い取り扱いマニュアルだった。もちろんすべて英語で書かれている。
「どうせ、あんたは英語のノベルには興味ないもんね。こういうものなら、むかし散々見てたんじゃないのかな」
なるほど、英語の勉強というから、副読本として、英文学作品なんぞばかり読んでたんだが、正直ちっとも興味が持てなかった。
技術書の英語本というのは気づかなかった。とりあえず、その日は夏実の助けを得て、英語の課題に目途をつけることができた。
「さすが、オレのカノジョ。困ったときの騎兵隊だな。今日は、このくらいにして、お礼にマギーでも行こうか」
それを聞きつけた、姉貴が横合いから余計な茶々を入れてきた。オヤジも酔っぱらってニコニコしていた。
「なに言ってるの、夏実ちゃんが来てるんでしょ、家でご飯食べてけばいいじゃん」
「で、オヤジが夏実を送って、向こうのお宅で新年会する算段かい」
「それもいいなあ、いや、今日はいっそのこと、夏実ちゃんのご家族に来て貰うってのはどうだ。婚約記念パーティーだな」
「良いね、オヤジそれで行こう」
姉貴の美咲が変なテンションだ。一杯きこし召していたオヤジは、能天気モードで武田家に電話を入れた。夏実の両親はこっちが良いなら、ということでOKされた。だが、ウチのお袋のOKは取ったのか?
「まあ、武田さんご家族がいらっしゃれば、どうしようもないな、ってことになる」
と言って、ガハハハと笑った。酔っ払ったオヤジはテキトーな人間になる。知らねえぞ、どんなことになっても。
オレは、あらかじめ、お袋に密告しておいた。もう暫くすると、武田家の美女軍団が来襲すること。今のうちから準備を始めないと困るんじゃないかと、こっそり耳打ちした。
お袋は、脳天気モードのオヤジをキッと睨みつけ、慌てて段取りに入った。ついでに姉貴がこの件に絡んでいることも、しっかり密告してやった。だから、有無を言わさず、姉も手伝わされ、夏実もなぜだか手伝いの仲間入りをしていた。
約一時間が過ぎたころ、家の前にタクシーが止まり、武田家四人が降り立った。
両家の両親は、新年の挨拶もそこそこに、ウチが早急に用意したオードブル(実は正月料理の残り物)を肴に酒盛りを始めた。
「これからは、親戚付き合いだなあ、ガッハハッハ!」
わけの分からんことを抜かしている。オレは、武田姉妹のオモチャになるのはご免だったので、そっちの扱いは姉貴の美咲に任せ、夏実と共にオレの部屋へ避難した。
「そう言えばさあ、正月初詣に集まった時、新美が変なこと言ってた」
「変なこと?」
「なんか遼介にも、空手の黒帯を取って貰うことになりそうだって」
「・・・メンドクセ。空手の初級って決まりきった動きの習得で、面白くもなんともないんだ。少林寺にもあるんだが、もっと実戦的で面白い、突き、蹴りくらいの練習ができると思って、空手部に入ったんだけど。空手を本当にマスターする気はないからなあ」
「なんかねえ、新美君の話だと、PTAからクレームが来たらしいの。実績をあげてない部活は、金の無駄だから廃止すべきだって」
「実績をあげてないから、部活廃止って、理屈はおかしいな。だいたい、うちは全国で優勝するために部活やってんじゃねえだろ?どこのバカが、そんなこと言ってるんだ?」
「PTAに金を持ち込んだ男らしいよ」
「それで分かった、青崎のオヤジだな」
オレはその場で、新美に電話を掛けた。
「ネルソン、話は聞いた。で、どうする?」
「こちらが取れる戦術は限られてる。目には目をだ。具体的には、四月の試合で、県大会への切符を取る必要がある」
「わが校には、空手部期待の三人衆がいるじゃあないか」
「ところが、相手が悪い。インターハイで去年準優勝した岳徳寺高校と当たる。キャプテンの大塚は高校日本代表だそうだ」
フーンとオレは相槌を打った。
「フーンじゃねえよ。お前出てくれよ、奴らに対抗できるのは、わが校ではお前だけだ」
「気持ちはわかるけどなあ、オレは対外試合禁止の身の上だ、これは絶対なんだ。破ったら破門される。試合には出られない。悪いがオレなしで勝つ方法を考えてくれ」
「そんな方法ないよ。どう転んでも今のメンバーでは絶対に勝てない。対外禁止というなら、お前のお師匠さんに掛け合って、許しを貰おう。オレが行くから、お前はオレを道場に連れってくれるだけでいい」
「そうは言ってもなあ・・・」
「お師匠さんに知恵を出して貰うだけでも良いじゃないか。ダメもとだよ。お前のお師匠さんが、どうしてもだめと言うなら諦める」
新美のネルソンがそこまで言うのなら、オレは仕方なく、お師匠さんに相談することとした。
なお、下の宴会は夜まで続き、勝手に武田さんご一家を招いたオヤジと姉貴は、後ほどウチの山の神にしっかり〆られていた。
次の稽古の日、オレと新美は連れ立って、道場に行った。
新美は恭子師範の指導を見て、感激していた。あんなに美人で、強い女性は見たことがない。空手道協会に、元日本代表の理事さんがいるが、実力はそのひとに匹敵する、と言った。
稽古の終わった後、俺と新美は、お師匠さんに事情を話した。てっきり叱られると覚悟して行ったのだが、意外に師匠はあっさりと許可してくれた。
「試合は、うちの拳法としてではなく,空手としてやるのだろう?だったら、私がとやかく言う筋合いはない」
オレと、新美は拍子抜けした。
「だが、遼介、問題はお前が試合に出れるかだぞ。あと二か月ほどで、初段が取れるのか」
「それは、問題ないんじゃない。初段の内容は十か月はやってるから、だいたいマスターしてるよ」
「だが、確か空手の昇段試験は、ひと月に一遍で、一回に受けられる試験の数に制限があるはずだぞ」
「マジか!?」
「ああ、空手関係者にも、知り合いはいるからな。多少は事情は承知している」
「そうだった、一度に受けられるのは、三つの級までだ。初段までは十級からあるから、最低四か月かかることになる。これじゃ間に合わない」
師匠は黙って聞いていたが、なぜそんなに昇段を急ぐのかを尋ねてきた。オレと新美は、その理由を話した。
師匠は、考えていたが、その場で電話を掛けた。何やら、師匠は相手のひとにオレたちの事情を話していた。
「一度、彼の実力を見て下さい。そのうえで、判断していただいて結構です」
師匠は、電話を終わると、今度の昇段試験を受けるように言った。
「話すべきところに、話は通してある。後はお前のパフォーマンス次第だ。いいか、特に空手の形を、しっかりマスターしとくんだぞ。それが合否に関わると思え」
それからのひと月は、いろいろと忙しい日々だった。まず、楓が編入試験に受かって、夏実と同じ陸上部に入部するという条件で、編入が認められた。また、入学試験も実施された。久住も受けてることだろう。
青崎千華との見合いは、オヤジにきっぱり断って貰った。取り引き相手ということで、仕事上のプレッシャーも掛かったそうだが、息子と嫁さん(だから気が早いっての)のことが大事だと言って、ガンとして相手の脅しに屈しなかったそうだ。オヤジの上司で、理解のある方がいて、そんな理不尽な相手なら取引停止としても良い、とまで言ってくださって、一件落着したそうだ。
オレと、新美は、初段までの課題を完璧にこなせるように、一日何時間も稽古をまじめにこなしていた。
約ひと月後、オレは昇段試験を十級から初段まで受けるように申請した。余白部分に、他の拳法では五段相当です、とホラ話を書いておいた。
案の定、受付の時点で揉めた。規約上認められない、という理由だった。十級から八級までなら受けられる、とのテンプレどおりの対応だった。
「受付の方、空手何段ですか」
「私は、四段だ」
「フーン、私が初心者かどうか、自由組手でやってみましょうか。身体で分かると思いますよ」
その時、
「そんな言い方は、好ましくないな」
と割り込んできた男性がいた。いかにもできそうなひとだった。オレは、その人物を見れば、どの程度の腕か見当が付く。このひとは、かなりヤバイひとだった。
「受付の方は、こと空手に関しては、君より経歴がある。それは尊重すべきだろう」
「徳永さんのおしゃるとおりだ、君には空手の礼が成っていない、という理由で、今回の試験は受けさせるわけにいかないな」
受付の男は、尻馬に乗って調子こきやがった。
何だと、自分勝手な屁理屈振り回しやがって、俺だって好きで受けに来てるわけじゃない。だが、ここまでコケにされて、黙っているわけにはいかない。オレが言い返そうとした時、徳永というひとが発言した。
「足立さん、私は、そんなことを言った覚えはありませんよ。単に、組手をすれば足立さんの立場がなくなるから、彼にあなたの立場もおもんばかって上げなさい、と言ったまでです。この子は見かけは白帯だが、相当な武術の経験者です。充分私の相手が務まるレベルだと思いますよ」
足立は、その意味するところを理解すると青くなった。
「彼が、それほどの腕があると言うのなら、望みどおり受けて貰えばいいじゃないですか。従来の規約は、初心者の安全のためでしょう、彼は初心者でもなんでもないですよ」
オレは、徳永さんに助け船を出していただいて、十級から初段までの課題をクリアしていった。しっかり稽古しただけあって、形には自信があった。
最後は初段の最終課程、自由組手だ。なんと、直々に徳永さんが相手をして下さった。オレは、生き生きとして彼に対した。こういう試合は楽しくて仕方がない。
当初は、お互いのジャブから始まった。拳を合わせた時点で、彼の実力が知れた。オレと同等以上だ。もしかしたら、師匠にも勝るかもしれない。
結局オレは、何発か貰ったが、キッチリお返しもした。引き分けというところだろう。だが、審判は、強引に徳永さんの勝ちとした。
オレには勝敗はどうでもよかった。気持ちのいい試合で嬉しかったのだ。試合後、徳永さんにお礼を述べに行った。
「君、上泉さんのところの子だろ。こないだ恭子さんから電話を貰ったよ」
師匠が話していた相手は、このひとだったのだ。それでわざわざ、便宜を図りに来て下さったのだろう。オレは感激して、徳永さんに頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました。徳永さんとの組手は、楽しかったです」
「だけど、君は強いね。高校生とは思えない実力だ。今後も精進すれば、すごい使い手になると思うよ」
徳永さんは、ニコニコしながら、言って下さった。後で聞くと、空手六段の技量だそうだ。道理で強いはずだ。さすが、元日本代表だけのことはある。
結果、審査は無事受かり、空手でも黒帯を身につけることができた。オレは、帰り際に再度徳永さんに挨拶に行った。
「お師匠さん、上泉さんにもよろしくね」
徳永さんは、ウインクをしてみせた。もしかして、昔、ウチの師匠と何らかの関係があったのだろうか。徳永さんはなかなかのイケメンだった。
オレは、帰りに道場に寄った。師匠は、稽古の最中だった。ウチの師匠も、拳法六段だが、いまだに自分の稽古も欠かさない。
オレは、審査の結果を師匠に報告した。
「それから、徳永さんから、恭子さんにもよろしくと、言われましたよ」
「徳永さんにも、きちんと礼は言っただろうな」
「勿論、とてもいいひとでした。師匠とは、どういった関係なんですか?恭子さんなんて、随分親しげでしたけど」
「お前の知ったこっちゃない。余計なことに首を突っ込むな」
「でも、徳永さんて、男のオレから見てもイケメンで、とっても優しくて、しかも気骨のあるひとでしたよ。師匠とはお似合いだと思うけど」
「それ以上、無駄口をきくなら、ため池に叩き込むぞ」
師匠は、顔を赤らめながら、脅し文句を並べた。師匠のことが可愛いと思えたのは、これが初めてだった。
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