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そこは出口か入口か
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ひたひたと僅かな足音を鳴らし、狭くカビ臭い階段を登りました。
苔むした壁は時々結露が流れて、雫がぴちょんと跳ねました。
“大丈夫だよ”
澄んだ水の音は蓮の声を孕ませて、竦む凛の鼓膜をじんわりと響かせます。
不気味に反響する風鳴りに震える凛の背中を、そっと押してくれるようにも思いました。
何度も立ち止まりそうになり、何度も後ろを振り返りそうになりますが、その度にひとしずくは凛を励まし、上を向かせました。
もうあの不気味な声はありませんが、今度は闇が支配します。
随分登ったようにも思いますが、出口は一向に見えてきません。窓も通気口のようなものもなく、カビ臭さは増すばかりで、じっとりした嫌な重さを含む空気が纏わりつきました。
随分息が上がり、足も重たくなってきます。しかし、凛は黙ってただひたすら闇の階段を登り続けました。
出口は、まだ…?
喉がカラカラに乾く凛を嘲笑うかのように、やっぱり出口らしきものは見えません。時々足を滑らせたり、茂った苔がワンピースをさわりと汚します。はっきり見ることはできませんが、苔はだんだん範囲を広げているのが分かりました。
凛は止まりませんでした。澄んだ水に跳ねるひとしずくを頼りに、ひたすら足を動かしました。
汗を拭って改めて上を向くと、明らかに何かが阻んでいました。
「…出口…?」
この場合、入口と言った方が正しいかもしれないね。そう笑う蓮を想像して、凛は口元に疲れた笑みを浮かべました。
同時に、凛は思いました。蓮はもしかしたら、そうだねと言うかもしれません。これは凛が元の世界に帰れる扉で、この世界の出口だよ、と少し憂いた顔をした蓮が、浮かんで消えました。
正解は分かりませんが、凛に今できることは、この扉を開けることです。
正面にあると思われる重厚で大きな扉を手で確かめて、一度おおきく深呼吸しました。
光の類は一切ありませんから、色や大きさなどは分かりません。材質は石か、それとも鉄のような金属なのか定かではありません。取っ手と思しき金属は錆び、一体どれだけの間、沈黙しつづけていたかを物語っています。
湿って冷たい苔を指の先で払い除けると、取っ手と思しきもの触れました。
他にも触ってみましたが、この取っ手の他にそれらしきものはありません。とにかく扉を開けようと、押したり引いたりしてみました。
ところが、中までしっかり錆び付いているのか、全く動きそうもありません。試しにスライドさせてみましたが、結果は同じでした。
「…嘘でしょ…」
みんなが命懸けで逃がしてくれたのに、蓮とも簡単なお別れしかできなかったのに、ここまで来て扉が開かない…なんてこと、そんなことがありましょうか。
戻る選択肢はありません。しかし、扉は開きそうもありません。
絶望と焦燥に暮れて立ちすくむ凛は、泣き出したい気持ちを堪え、怒り任せに扉に体当たりしました。
「っきゃああっ!」
ぎ、と重たい音を立て、凛が体当たりするより僅かに早く、扉は勝手に開いたのです。
どさりと倒れ込んだ先は、カビ臭くて闇の階段とは打って変わり、陽の光が燦燦と零れる暖かな部屋でした。
苔むした壁は時々結露が流れて、雫がぴちょんと跳ねました。
“大丈夫だよ”
澄んだ水の音は蓮の声を孕ませて、竦む凛の鼓膜をじんわりと響かせます。
不気味に反響する風鳴りに震える凛の背中を、そっと押してくれるようにも思いました。
何度も立ち止まりそうになり、何度も後ろを振り返りそうになりますが、その度にひとしずくは凛を励まし、上を向かせました。
もうあの不気味な声はありませんが、今度は闇が支配します。
随分登ったようにも思いますが、出口は一向に見えてきません。窓も通気口のようなものもなく、カビ臭さは増すばかりで、じっとりした嫌な重さを含む空気が纏わりつきました。
随分息が上がり、足も重たくなってきます。しかし、凛は黙ってただひたすら闇の階段を登り続けました。
出口は、まだ…?
喉がカラカラに乾く凛を嘲笑うかのように、やっぱり出口らしきものは見えません。時々足を滑らせたり、茂った苔がワンピースをさわりと汚します。はっきり見ることはできませんが、苔はだんだん範囲を広げているのが分かりました。
凛は止まりませんでした。澄んだ水に跳ねるひとしずくを頼りに、ひたすら足を動かしました。
汗を拭って改めて上を向くと、明らかに何かが阻んでいました。
「…出口…?」
この場合、入口と言った方が正しいかもしれないね。そう笑う蓮を想像して、凛は口元に疲れた笑みを浮かべました。
同時に、凛は思いました。蓮はもしかしたら、そうだねと言うかもしれません。これは凛が元の世界に帰れる扉で、この世界の出口だよ、と少し憂いた顔をした蓮が、浮かんで消えました。
正解は分かりませんが、凛に今できることは、この扉を開けることです。
正面にあると思われる重厚で大きな扉を手で確かめて、一度おおきく深呼吸しました。
光の類は一切ありませんから、色や大きさなどは分かりません。材質は石か、それとも鉄のような金属なのか定かではありません。取っ手と思しき金属は錆び、一体どれだけの間、沈黙しつづけていたかを物語っています。
湿って冷たい苔を指の先で払い除けると、取っ手と思しきもの触れました。
他にも触ってみましたが、この取っ手の他にそれらしきものはありません。とにかく扉を開けようと、押したり引いたりしてみました。
ところが、中までしっかり錆び付いているのか、全く動きそうもありません。試しにスライドさせてみましたが、結果は同じでした。
「…嘘でしょ…」
みんなが命懸けで逃がしてくれたのに、蓮とも簡単なお別れしかできなかったのに、ここまで来て扉が開かない…なんてこと、そんなことがありましょうか。
戻る選択肢はありません。しかし、扉は開きそうもありません。
絶望と焦燥に暮れて立ちすくむ凛は、泣き出したい気持ちを堪え、怒り任せに扉に体当たりしました。
「っきゃああっ!」
ぎ、と重たい音を立て、凛が体当たりするより僅かに早く、扉は勝手に開いたのです。
どさりと倒れ込んだ先は、カビ臭くて闇の階段とは打って変わり、陽の光が燦燦と零れる暖かな部屋でした。
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