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絶体絶命!?
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「凛!早く登れ!」
衛兵が闇雲に突き刺す槍を躱し、燕尾服を翻す蓮が叫びます。手には武器ひとつなく、蓮の目的はただただ衛兵を足止めすることでした。
塔への出入り口はあっという間に衛兵たちが壁となり、蓮は必死にその道を開けようとしていました。
「蓮っ…れん!」
身を呈して逃してくれようとしている蓮の言う通りにしたほうがいいと、勿論凛も分かっています。しかし、怒り滾った大勢の衛兵の中に蓮ひとりを置き去りになどとてもできません。漸く開いた僅かな隙間から、凛ひとりならなんとか通れそうですが、その前にも後ろにも、恐ろしい槍を構えた衛兵たちが怒号を上げ、絶対に通すまいと怒り狂っています。ちらちらと槍が光り、時折ぶつかり合って高い金属音を放ちました。
荒れ狂う槍や剣を躱すだけで精一杯の蓮が、この場を上手く切り抜けられるとも思えませんでした。凛自身もそうです。上手く掻い潜ってあの小さな出入り口に身を滑らせることができる確率など、絶望的な数字に思えてなりません。
せめて自分も蓮と戦いたい。浅い呼吸を繰り返し、凛は足を叱咤しました。
しかし、そんなことはとてもできません。武器で戦うことなど、そんなものは本でしかみたことのない、ごく有りふれた普通の少女なのです。ただただ目の前の光景が恐ろしくて、凛は体が震えて上手く力が入りませんでした。
──いっそ今ここで自分も刺されたほうがずっと幸せかもしれない。そんな風にさえ思って、凛は足が竦んで動くことができませんでした。
「凛!なにしてるの!はやく!」
「だってっ…れん!」
泣き出しそうになる凛は、気が付けばあっと言う間に押し寄せる衛兵たちに抑え込まれ、アスファルトにうつ伏せにさせられてしまいました。
「きゃああっ!」
「おいっ捕まえたぞ!」
「ふへへ…こりゃとんでもねぇ"アリス"だ…」
下品な笑い声、涎を垂らして目を見開く衛兵たちは、凛を囲みます。向こうで必死に名前を呼ぶ声が聞こえますが、凛は屈強な男たちに押さえ付けられ、上手く返事も返せません。
ああ、もう終わりなんだ。
戦うことも逃げることも出来なかった凛は、ほとんどを諦めて目をぎゅっと閉じました。押し寄せるたくさんの衛兵を目にした時、無意識にこうなると予想していたのかもしれません。
「りっ…」
言いかけた蓮は、息を飲みました。そうしてそれから、笑いました。
「…遅かったね。お姫様は今、ものすごくピンチだよ」
「おい、何言って…」
槍を持った衛兵が、気でも触れたかと蓮に一歩近付くと、う、と呻いて倒れ込みました。
凛を押さえ付けていた衛兵たちは、何事かとそちらを振り返ります。
突然空気が変わり、凛も恐る恐る目を開き、そして、あ、と小さな声を出しました。
衛兵が闇雲に突き刺す槍を躱し、燕尾服を翻す蓮が叫びます。手には武器ひとつなく、蓮の目的はただただ衛兵を足止めすることでした。
塔への出入り口はあっという間に衛兵たちが壁となり、蓮は必死にその道を開けようとしていました。
「蓮っ…れん!」
身を呈して逃してくれようとしている蓮の言う通りにしたほうがいいと、勿論凛も分かっています。しかし、怒り滾った大勢の衛兵の中に蓮ひとりを置き去りになどとてもできません。漸く開いた僅かな隙間から、凛ひとりならなんとか通れそうですが、その前にも後ろにも、恐ろしい槍を構えた衛兵たちが怒号を上げ、絶対に通すまいと怒り狂っています。ちらちらと槍が光り、時折ぶつかり合って高い金属音を放ちました。
荒れ狂う槍や剣を躱すだけで精一杯の蓮が、この場を上手く切り抜けられるとも思えませんでした。凛自身もそうです。上手く掻い潜ってあの小さな出入り口に身を滑らせることができる確率など、絶望的な数字に思えてなりません。
せめて自分も蓮と戦いたい。浅い呼吸を繰り返し、凛は足を叱咤しました。
しかし、そんなことはとてもできません。武器で戦うことなど、そんなものは本でしかみたことのない、ごく有りふれた普通の少女なのです。ただただ目の前の光景が恐ろしくて、凛は体が震えて上手く力が入りませんでした。
──いっそ今ここで自分も刺されたほうがずっと幸せかもしれない。そんな風にさえ思って、凛は足が竦んで動くことができませんでした。
「凛!なにしてるの!はやく!」
「だってっ…れん!」
泣き出しそうになる凛は、気が付けばあっと言う間に押し寄せる衛兵たちに抑え込まれ、アスファルトにうつ伏せにさせられてしまいました。
「きゃああっ!」
「おいっ捕まえたぞ!」
「ふへへ…こりゃとんでもねぇ"アリス"だ…」
下品な笑い声、涎を垂らして目を見開く衛兵たちは、凛を囲みます。向こうで必死に名前を呼ぶ声が聞こえますが、凛は屈強な男たちに押さえ付けられ、上手く返事も返せません。
ああ、もう終わりなんだ。
戦うことも逃げることも出来なかった凛は、ほとんどを諦めて目をぎゅっと閉じました。押し寄せるたくさんの衛兵を目にした時、無意識にこうなると予想していたのかもしれません。
「りっ…」
言いかけた蓮は、息を飲みました。そうしてそれから、笑いました。
「…遅かったね。お姫様は今、ものすごくピンチだよ」
「おい、何言って…」
槍を持った衛兵が、気でも触れたかと蓮に一歩近付くと、う、と呻いて倒れ込みました。
凛を押さえ付けていた衛兵たちは、何事かとそちらを振り返ります。
突然空気が変わり、凛も恐る恐る目を開き、そして、あ、と小さな声を出しました。
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