アリスと女王

ちな

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かくれんぼ

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「……どこだ?」


甘い匂いが充満する狭い空間に顔を顰める衛兵は、一瞬目眩を覚えました。

強すぎるアリスの蜜の匂いに勝手に下半身が反応し、ぞくぞくと背中が粟立ちます。息も上がり、衛兵は一瞬にして汗びっしょりになりました。雄の部分がむくむくと立ち上がり、勝手に体液を零します。じわじわと軍服を濡らしていく感覚に気持ち悪さを覚えましたが、そんなことよりもこの甘い蜜を啜りたくて仕方がありません。
この衛兵は、これまでアリスの蜜で生きてきました。ただの食事でした。
しかし、こんなにも強く香る蜜など生まれて初めてです。
こっそり下半身に指を絡め、前屈みになって四角い部屋に体を滑らせました。

所々から漏れる太陽のひかりはハレーションを起こし、空っぽの空間を漂いました。

幻想的な空間と、否応なしに反応してしまう甘い匂いと、それをぶち壊す無骨なブーツの音。外からは広場で繰り広げられる食事の音。静まり返った四角い部屋は、それだけでした。

とんでもない極上の蜜にありつけるとばかり思っていた衛兵は、首を傾げました。
部屋は、何の気配もないのです。ただただ強烈な匂いを残しただけで、ものけのからなのです。がっかりと肩を落とした衛兵は、ため息までつく次第でした。
かたい革靴の音を鳴らして扉に戻り、最後にもう一度だけ部屋を見渡しました。朽ちた煉瓦には、何かを零したような形跡があるだけです。

「…気のせいか」

背中がぞくぞくと粟立ったまま、衛兵は頭を抑えました。強烈な匂いに刺激された陰茎はすっかり勃起し、指を絡めるだけで簡単に射精してしまったのです。軍服の中に出してしまった衛兵は、まるで子どものおもらしのような気分でした。しかも全く萎えることをしない陰茎は、まだまだ出し足りないと暴れ狂うのです。
異様に喉が乾いた衛兵は今度こそ扉から出ていきました。足音は広場へ向かっています。たった数秒間アリスの強いにおいを嗅いだだけで体も頭もおかしくなってしまいそうでした。
あの食事用アリスたちを餌に、鎮めよう。
そんなふうに思っていたのかもしれません。哀愁漂う、それでいて雄の獣みたいな目をした衛兵は階段を降りていきました。

やがて足音が聞こえなくなると、ため息がふたつ聞こえてきました。

「危なかった…」

心底安堵の息を吐いた蓮は、朽ちた煉瓦の隙間に無理矢理押し込んでいた凛を引っ張り出しました。

「大丈夫?」

「うん…なんとか」

元々正当なルートを辿って来なかったふたりは、元来た道を少し戻るようにして体を潜ませていたのです。今やっと呼吸ができたように、凛が大きく息を吐きました。

「見つかるかと思ってドキドキしちゃった…」

外からの食事の声は止みそうにありません。もし見つかっていれば、凛はあの仲間入りしていたかもしれないのです。

今更ながら震えてきた膝を撫で、暴れる心臓を落ち着かせるためにもう一度深呼吸しました。ついでに朽ちた煉瓦で汚れてしまった白いワンピースを手で払い、埃を落としました。

「ちょっと遊びすぎちゃったね。先を急ごうか」

蓮が肩を竦めます。元々長居をしようとは思っていませんでしたが、外の光景があまりにも刺激的だったために、つい雰囲気に流されてしまったのです。
凛に手を差し出すと、凛が強く頷いてその手を取ります。

まだ心臓がバクバクと落ち着きません。
どれだけ深呼吸しても全然落ち着かないまま、凛は蓮の背中を追いました。
つい先程衛兵が出ていった扉を慎重に開けて、蓮が先導しました。

扉の外は薄暗い階段でした。どうやら塔のほうへ向かっているようです。

狭い階段を登りながら、凛はさっき押し込められた空間を思い出しました。

凛を庇うように背中に隠し、ふわふわと漂う蓮の匂いにドキドキしたのです。広い背中が頼もしく、幼い心にあまい針を刺したのです。

未だ顔の熱が引かない凛は、手のひらを当てました。それから、目を伏せました。



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