アリスと女王

ちな

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憩いの広場

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蓮と凛が狭い通用口を進む度、外の声が大きくなっていきました。窓がなく湿気っぽい通用口で、凛はそっと外の声に耳を傾けました。一体何に騒いでいるのかは分かりませんが、悲鳴や絶叫などいう声ではなさそうです。どちらかといえば明るい声で、歓声に近いかもしれません。

目が慣れてきて、すぐ側にいる蓮の顔くらいなら視認できますが、凛は蓮の顔をまじまじみることはしませんでした。

先程の会話を最後に、蓮はじっと押し黙ったままなのです。暗いので明確ではありませんが、眉間に皺を刻んでいると容易く想像できるような、肩がきゅーっと締まるような雰囲気なのです。ですから、これはなんの声?と聞くことができませんでした。

湿気っぽい通用口のかび臭い空気をただ吸って吐く作業を繰り返しながら、凛は蓮にならって、黙って足を進めました。


やがてうっすらと光が差し込み、凛はほっと息を吐きます。出口が見えたと思ったのです。

同時に、たった今吐いたばかりの息をひゅっと吸い込みました。出口が近いということは、女王がいると言うあの塔へ近付いたということなのです。

女王という人は一体どんなことをされているのでしょう。きっとあの“アリスたち”よりも酷であることは間違いなさそうですが、凛には想像もできません。窓もない高い塔に閉じ込められた女王は、ひとりぼっち?それとも衛兵に囲まれて、酷いことをされている?もしかしてあの歯車を延々と動かされているのかしら…。

身震いしそうになる凛は、光の方を見遣りました。外の声はすぐそこに聞こえてきて、通用口は城の真ん中を走っていないことを示しています。わっと歓声が上がり、凛は心臓が口から出そうなほど驚きました。口の中に閉じ込めた悲鳴を手のひらで隠し、外の声を窺います。声は、例えるなら嬉しいとか素晴らしいとか、明るい種類のものでした。

「凛、おいで」

これまでずっと黙ったままだった蓮が、凛の細い肩を抱きます。湿度の高い通用口にふっと落ちた、お日様の温もりみたいな体温でした。

「蓮…」

凛は蓮の胸に体を預け、温もりを吸い込みます。それだけで肩に乗っかった大きな鉛が煙のように消えていくようでした。


凛が見たうっすらとした光は、崩れた壁の、煉瓦の隙間から漏れたものでした。凛の手のひら半分ほど崩れた煉瓦からは、外の様子を見ることが出来ました。

見てもいいの?凛が視線で蓮に問います。少し躊躇った蓮は、小さく頷きました。

そっと背中を押され、凛はその隙間を覗くと、口の中で噛んだ悲鳴が暴れだしました。

「しっ。静かに」

蓮は凛の肩をぎゅっと抱き寄せて囁きます。凛は両手で自分の口を塞ぎ、まるで信じられないと、大きな目を瞬かせました。

煉瓦の隙間から見えたものは、広場のような、中庭のような場所でした。

たくさんの衛兵たちが寛ぐ緑豊かな広場の真ん中に、噴水が見えました。元気な太陽を力いっぱい浴びた噴水はきらきらと煌めき、宝石みたいな飛沫が散りばめられる美しい広場です。あちこちにベンチが置かれ、それだけ見れば衛兵たちの憩いの場です。

しかし、ここは女王の城。平和な広場ではありませんでした。

「おいさっさと歩け!」

「ひぃんっ!」

パシン、と乾いた音を立てて、鞭が振り下ろされます。ジャラジャラと悲しい音を立てる鎖は、たくさんの“アリスたち”を無情に繋いでいました。ベンチからニヤニヤと衛兵たちが指を指し、ぞろぞろとアリスたちのほうへ歩み寄って行くのが見えます。アリスたちは勿論、布の1枚も纏っていませんでした。

首と両手を木の板一枚で拘束された四人のアリスたちが隊列のように並べられていました。木の板は前後のアリスたちと鎖で繋がれています。彼女たちはただひたすら噴水の周りを歩かされ、衛兵たちの視線をその身いっぱいに浴びています。

よく見ると、一番前にいるアリスの首の下へ鎖が繋がれていました。その鎖は胸の真ん中を真っ直ぐに這い、可哀想なことに足の真ん中を通っています。ぎっちりとくい込んだ鎖は後ろを歩く三人のアリスの足の間を通り、一番後ろのアリスの、首の後ろへ繋がれていました。

じゃらんじゃらんと立てる音は、まるで音楽です。彼女たちが一歩踏み出す度に、きらきらと降り注ぐ陽の光が、ピカピカに磨かれた鎖をチカチカと反射しました。

「ぅっ…んんっ…」

「見ないで…見ないでよぉ…」

「待って!待って止まって!」

四人のアリスたちはみな顔を真っ赤にし、囲んだ衛兵たちから好き勝手に鞭を当てられます。中にはもう諦めきったような顔をするアリスさえいました。

そんなアリスたちのぎちぎちとくい込む鎖の間からは、次第に蜜が滴り始めました。

「止まれ!」

恐ろしい一本鞭が地面を叩き、アリスたちはすすり泣きながらぴたりと足を止めました。

「足を開け」

地を這うような声とは裏腹に、指示を出す衛兵はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべます。アリスたちはそれぞれ、ゆっくりと足を開き始めました。

「やだぁっ…やっ…」

「もぅお家に帰して!」

泣き叫ぶアリスたちを、凛は1階分高い場所からそっと見守っていました。凛の湿った唇がきゅっと引き結ばれます。

凛は知っていました。

ぎっちりとくい込んだあれは、足を開くことで余計にくい込みが増すことを…。

ギリギリと締められる鎖はきっと、凛が経験したことなどないほどつらいものでしょう。凛のそこをぎっちり締めていたものは、森にある自然由来のものでした。金属製の鎖は一切の弛みを許さないことは、知識が浅い凛でも分かります。

凛はこっそり膝を擦り合わせました。

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