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囚人と看守
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蓮はその瞬間、目をふっと優しくさせました。
「耐えられて偉かったね。さあ、拷問は終わりにしよう」
待ちに待った言葉が凛の鼓膜を響かせました。蓮は汗で張り付く凛の前髪を梳いてやり、努めて“いつも見せる穏やかな笑顔”を作ります。刹那、凛は幼い子どものようにわんわん泣き出しました。
「うん、つらかったね。でも偉かったよ」
降り注ぐスポットライトは、悲劇の終焉を報せます。泣きじゃくる凛の髪をひと房掬い、唇を寄せて幕を下ろしました。
蓮はまず、関節の力の抜き方を忘れてしまった凛の足を優しく持ち上げ、ハンドルから爪先を放してやりました。手の指も同じく、変に力が入ってしまっているせいで痙攣しています。
あくまで優しく、蓮はハンドルから手を抜いてやりました。ガチガチに固まってしまった関節を解すようにそっと撫で、回してやりました。ゆっくり力を抜いていく凛に、微笑みかけてやります。
「そうそう。上手。もう終わったから、力を抜いていいんだよ」
凛を甘やかすように、凪いだ湖面の声で囁きます。それから今度は乳首の糸を丁寧に外し、ずっぷりと突き刺さっている歯車も丁寧に抜いてやりました。にゅるりと音を立てて全貌を現した歯車と凛の蜜壷の間には、ねっとりと糸が繋ぎます。きらきら降り注ぐ緩やかな光が、エンドロールの感動的な場面を映し出しました。
蓮は泣きじゃくる凛を樽からそっと下ろし、ぎゅっと抱いてやりました。頭を撫でてやることも忘れません。
咽び泣くみたいにわあわあと泣く凛を咎めることはしません。汗びっしょりになった米神にキスをし、自分の胸に頭を押し付けます。
「怖かったね。凛、こっちを見て」
ひくひくとしゃくり上げる凛の頬を手のひらで包み、しっかりと目を合わせました。
一刻も早く、凛を"囚人"と"看守"の幻覚から開放してやるためです。すっかりとらわれてしまった凛の目を覚まさせる必要がありました。それは蓮の、義務と責任と考えているのです。
震える唇にキスをして、いつもの声色で、愛してるよと囁いてやりました。
まるで催眠術でした。
もっと凛を虐める方法も、拷問する時間もありました。でも蓮は、これ以上は危険と判断したのです。"囚人"と"看守"に囚われ、戻って来られない可能性があったのでした。そうするつもりは毛頭なく、蓮は凛に「NO」と言わせる練習をさせたのです。
「凛。僕の名前を言ってみて」
降り注ぐ光が、蓮の目を強くします。ボロボロと泣きじゃくる凛の唇は、れん、と動きました。蓮は目を合わせたまま力強く頷きます。
「じゃあ、僕は凛のなに?」
蓮の質問に、凛は戸惑いを見せました。歪む視界の奥で微笑む蓮の顔をまじまじ見詰め、働かない頭を必死に動かしました。
看守、主、鞭を持って叩く人。恥ずかしい格好をさせて一番敏感な所に針を突き立てる人。体の中に普通は有り得ないものを容赦なく注ぎ入れる人……褒めて、くれる人。微笑んで、かわいいねといってくれる人。キスをしてくれる人。それから……
凛の頭の中にいる「穏やかな笑みを浮かべる人」と、目の前にいる蓮の姿がピッタリとリンクしました。
「だい、すきなひとっ…!」
「うん。そうだね」
ふっと笑った蓮の胸に勢いよく飛び込んできた凛を、ぎゅっと受け止めてやります。しがみついて泣く凛に、僕も凛が大好きだよと囁きました。
四角い舞台は、誰の目に止まることなく完全に幕を下ろしました。
「耐えられて偉かったね。さあ、拷問は終わりにしよう」
待ちに待った言葉が凛の鼓膜を響かせました。蓮は汗で張り付く凛の前髪を梳いてやり、努めて“いつも見せる穏やかな笑顔”を作ります。刹那、凛は幼い子どものようにわんわん泣き出しました。
「うん、つらかったね。でも偉かったよ」
降り注ぐスポットライトは、悲劇の終焉を報せます。泣きじゃくる凛の髪をひと房掬い、唇を寄せて幕を下ろしました。
蓮はまず、関節の力の抜き方を忘れてしまった凛の足を優しく持ち上げ、ハンドルから爪先を放してやりました。手の指も同じく、変に力が入ってしまっているせいで痙攣しています。
あくまで優しく、蓮はハンドルから手を抜いてやりました。ガチガチに固まってしまった関節を解すようにそっと撫で、回してやりました。ゆっくり力を抜いていく凛に、微笑みかけてやります。
「そうそう。上手。もう終わったから、力を抜いていいんだよ」
凛を甘やかすように、凪いだ湖面の声で囁きます。それから今度は乳首の糸を丁寧に外し、ずっぷりと突き刺さっている歯車も丁寧に抜いてやりました。にゅるりと音を立てて全貌を現した歯車と凛の蜜壷の間には、ねっとりと糸が繋ぎます。きらきら降り注ぐ緩やかな光が、エンドロールの感動的な場面を映し出しました。
蓮は泣きじゃくる凛を樽からそっと下ろし、ぎゅっと抱いてやりました。頭を撫でてやることも忘れません。
咽び泣くみたいにわあわあと泣く凛を咎めることはしません。汗びっしょりになった米神にキスをし、自分の胸に頭を押し付けます。
「怖かったね。凛、こっちを見て」
ひくひくとしゃくり上げる凛の頬を手のひらで包み、しっかりと目を合わせました。
一刻も早く、凛を"囚人"と"看守"の幻覚から開放してやるためです。すっかりとらわれてしまった凛の目を覚まさせる必要がありました。それは蓮の、義務と責任と考えているのです。
震える唇にキスをして、いつもの声色で、愛してるよと囁いてやりました。
まるで催眠術でした。
もっと凛を虐める方法も、拷問する時間もありました。でも蓮は、これ以上は危険と判断したのです。"囚人"と"看守"に囚われ、戻って来られない可能性があったのでした。そうするつもりは毛頭なく、蓮は凛に「NO」と言わせる練習をさせたのです。
「凛。僕の名前を言ってみて」
降り注ぐ光が、蓮の目を強くします。ボロボロと泣きじゃくる凛の唇は、れん、と動きました。蓮は目を合わせたまま力強く頷きます。
「じゃあ、僕は凛のなに?」
蓮の質問に、凛は戸惑いを見せました。歪む視界の奥で微笑む蓮の顔をまじまじ見詰め、働かない頭を必死に動かしました。
看守、主、鞭を持って叩く人。恥ずかしい格好をさせて一番敏感な所に針を突き立てる人。体の中に普通は有り得ないものを容赦なく注ぎ入れる人……褒めて、くれる人。微笑んで、かわいいねといってくれる人。キスをしてくれる人。それから……
凛の頭の中にいる「穏やかな笑みを浮かべる人」と、目の前にいる蓮の姿がピッタリとリンクしました。
「だい、すきなひとっ…!」
「うん。そうだね」
ふっと笑った蓮の胸に勢いよく飛び込んできた凛を、ぎゅっと受け止めてやります。しがみついて泣く凛に、僕も凛が大好きだよと囁きました。
四角い舞台は、誰の目に止まることなく完全に幕を下ろしました。
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