アリスと女王

ちな

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凛のせかい

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「そう。嬉しいな。じゃあ、ちょっと練習をしようかな」

練習、と言われて、凛はなんの事か分かりませんでした。蓮は真っ直ぐにぶつけてくる凛の目を優しく見送って、ちゅぶ、と音を立てて人差し指を引き抜きます。繋いだ橋が切れる直前、蓮は終ぞ凛の唇を塞ぎました。

「ん!んんんっ…!」

ちゅ、ちゅ、と啄むキスから、凛のふっくりした下唇を静かに舐め上げます。凛も蓮のキスに甘えて、熱くなった舌を差し出しました。粘膜を擦り合わせるキスの心地良さを知って、蓮に強請るのです。かわいらしいおねだりに、蓮もしっかり応えました。腕に閉じ込めた凛を逃すまいとしっかり抱き寄せ、ワンピースから露出した肩や細い首や、柔らかい腰をじっくりと撫でてやりました。絹のような髪を梳き、ふっくらした頬を撫でて耳を擽ります。

蓮の手のひらが肌を滑る度、凛は不安な気持ちが溶けていくような感覚を覚えました。そうして負けじと蓮の腰に腕を回します。蓮が何かを不安に思っているかは分かりませんが、この心地良さだけでも蓮にも伝えたかったのです。

凛の可愛らしい姿に、蓮はにこりと笑いかけました。肝心の凛は目をぎゅっと瞑っていたので、その表情を伝えることは出来ません。それでも蓮は満足でした。


降り注ぐスポットライトは、まるで悲恋の舞台でした。

まだ全てを知るには幼く、ここでは一切の常識や普通が通用しない世界とあっても、凛は薄々と、嫌な予感がしているのです。

蓮は一緒にいようと確かに言いました。蓮によれば、女王の鍵と鮮明な元の世界の記憶を条件に、元の世界に戻れるらしいのです。勿論凛は信じています。元の世界の記憶ははっきりとありました。女王の鍵さえ入手できれば、問題なく元の世界に帰れるでしょう。

でも。

凛は思うのです。元の世界に、蓮はいるの…?

凛の知る世界は、あの残忍な家庭教師と、ちいさな家。仕事が忙しくて家を空けることが多い両親と、みずみずしい草木がどこまでも続く、長閑な村です。友達だっています。しかしどの記憶を辿っても、蓮はいないのです。小さな村ですから、ほとんど全員の顔を知っていると言っても過言ではありませんが、似ている人すらいないのです。

凛は怖くてそのことを口にはできませんでした。凛の世界に蓮がいないことなど、とても考えられないのです。口にしてしまえば、蓮が煙のように消えてしまうような気さえするのでした。

「凛、こっちへおいで」

唇を啄んで、蓮が凛の手を取りました。向かう先は勿論、酒樽です。凛は思考を無理矢理遮断しました。

引かれるまま蓮の後を追い、使い方など全く未知数の“拷問用具”の前に立ちました。

目の前に立つと酒樽は思ったよりも大きくて、少し慄いてしまいます。凛はどくどく脈打つ胸が恐怖でないことをしっかり感じ取っていました。蓮は凛の腰に手を回し、安心させるように耳にキスをしてやりました。

「僕がだっこしてあげるからね。凛はこの酒樽に背中を全部付けるんだよ」

「…うん…?」

蓮は凛の脇腹に手を添えて、一気に抱えました。少し驚いて声を上げる凛ですが、酒樽におしりと乗せると、思いのほかしっかりしていて、安堵の息を吐きます。酒樽の上に座る形になった凛の足は、地面に届いていませんでした。
「さあ凛、仰向けになってごらん。転がることはないから、安心してね」

蓮は凛の頭側に回ると、酒樽を囲むようにして備え付けてあるハンドルのレバーを、凛の様子を伺いながら調整しました。

凛は恐る恐る、蓮に言われた通りに酒樽に仰向けになりました。
ゆっくりと頭が下になっていく感覚に恐怖を覚え、蓮の姿を探します。気が付いた蓮は、にこりと笑いかけてやりました。

「大丈夫だよ。そのまま頭を下げてごらん」

横に転がった酒樽はアーチを描き、仰向けになると当然頭が下がります。恐々と緊張しながらも、凛はゆっくり背中を付けました。

「いい子だね。手を伸ばしてハンドルに掴まって」

地面から縦にコの字型になったハンドルは、手で掴まるには最適な形をしています。

最も、恐らくはこれに縄でも付けて四肢を拘束し、拷問にかけるものなのですが…。今は見付かれば地獄という状況なので、まさか拘束はできません。蓮も考えた末の策でした。

凛は言われた通りに素直に両手を伸ばしますが、なかなかハンドルにまで手が届きません。蓮は敢えてそうしたのです。酒樽の上で緩いブリッヂの体勢をつくり、思い切り両腕を伸ばさないとハンドルに届かないようにしたのです。凛の手がハンドルに届いたころには、凛の腕が引き千切れんばかりに伸ばされていました。
それでも凛は、痛いとも辛いとも言いませんでした。

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