アリスと女王

ちな

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「ふっ…ぅ…」

噛んだ裾の隙間から、堪えた声が聞こえます。蓮の腕をしっかり掴み、凛は背の高い背もたれへと足を掛けました。蓮も勿論振り払ったりせず、一生懸命自分の言うことを聞こうとする健気な凛の手を支えてやりました。

背の高い、と言っても、膝を折らなければくい込むことはなさそうです。台座に両足をしっかり付けて膝を伸ばすと、凛は蓮を見下ろしました。

「よく出来たね。さ、座ってごらん」

指の先が白くなるほど蓮の腕を掴む凛は、潤んだ目を一度伏せました。

見下ろしているはずの凛ですが、射抜くような蓮の視線に逆らえそうにありません。最も、凛は逆らう気など毛頭ありませんでした。


視線を下げた先には、スポットライトのように照らされる金属の細い橋がありました。二脚分の背もたれは丸みを帯び、細い凛の腕くらいです。

一度深呼吸をした凛は、ゆっくりゆっくり膝を折りました。

恐る恐るそこへ腰を下ろした凛は、金属独特のひやりとした感覚に、一瞬息を詰めます。そうして眼下にいる蓮の目をしっかり見ながら、彼がYESと言うまで腰を落とそうと決めました。

誰に言われた訳ではありません。凛は自分の意思で、蓮の満足するように、彼が喜んでくれるようにと、腰を落としているのです。

ぞくぞくと背中を粟立たせ、蓮は目を細くしました。

「ああ、なんて可愛いんだろうね。ため息が出そうだよ」

うっとりと言う蓮に、凛は頬を上げました。蓮が喜んでくれていることを知り、嬉しくなったのです。

無機質な金属の橋は、終ぞ真っ赤になって濡れそぼる敏感で柔らかい肉の間に、ぎっちりとくい込みました。

「んっん!」

ぐちゅり、にちゅりと粘着質な音が鳴りましたが、煉瓦造りの四角い部屋は、その音を外へ逃がしませんでした。
今しがた蓮がYESと言うまでと決めたばかりですが、やっぱり辛くなってきてしまいました。敏感で体の一番弱い部分だけで体重を支えるのは、見た目よりもずっと辛いのです。
震える足は、ぴたりと止まってしまいました。

「凛。まだできるでしょ」

蓮は顔から表情を失くし、支えにしていた腕を離しました。支えを失った凛は、きゃ、と小さく悲鳴を上げ、咄嗟に金属の細い橋に掴まります。その事について、蓮は特に咎めませんでした。

その代わり、凛の震え切った太ももを平手でパシリと叩きました。

「ぃっ!」

「痛くしてるんだよ。ほらもっと腰を落として」

「うっ…ふっく…」

凛が腰を落とせば、当然細い橋はギチギチとくい込みます。冷たい金属は容赦なくきりきりとそこを冷やし、凛は家庭教師の顔を思い出してしまいました。

金属板の机の間に丸くて長い金属を渡し、跨るように指示をしたのです。逆らえば、長い丈定規で背中や腕をバシバシと容赦なく叩かれるのです。家庭教師はいつもニタニタと笑っていました。凛が泣き叫んでも、それは愉快に凛を叩くのです。あの丈定規が大嫌いでした。ニタニタ笑う家庭教師が大嫌いでした。恥ずかしくて惨めで、ただ痛いだけの攻め方が大嫌いでした。

「凛」

いつの間にか、凛はボロボロ泣いていました。自分が泣いていることにも気が付かず、きしきしと音を立てるほどにワンピースの裾を噛んでいたことに驚きを隠せません。
また怒らせてしまったのかと恐る恐る蓮を見ましたが、そうではありませんでした。
蓮は心配そうに、濡れた頬に指を伸ばします。いつもは指の先でそっと触れるだけですが、蓮は大きな手のひらで、濡れそぼった凛の頬をやさしく包み込みました。

「誰のことを考えているの?今凛の目の前にいるのは誰?」

く、と凛が喉を引き攣らせます。蓮のことばに恐怖を覚えたからではありません。

蓮がつらそうに、眉間に皺を寄せたからです。

れん。凛はワンピースを噛んだまま言いました。蓮はふっと力を抜き、強く頷いて見せます。

「そうだよね。僕が見ててあげる。さあ、腰を揺らしてごらん」

暖かい手のひらで涙を拭ってやり、蓮は丁度目の前にある、凛の腰を掴みました。

「っ!ひっぅ!」

凛の細い腰をがっちりと掴み、ぐっと奥へ追いやってやります。

むりむりと金属が擦れたそこは、キラキラ降り注ぐスポットライトに、ぬらぬらと反射しました。

「ふふっ。静電気責めをしたのが懐かしいくらいだよ」

ひくんと凛が反応しました。

辛いはずの攻めでした。

しかし、あの家庭教師と似たようなことをされているというのに、凛は胸が震えそうです。やさしく細められる蓮の目の奥に、つよく光る獰猛な色。目の前で余すところなく見られる、体の中で一番恥ずかしい部分。もう言い訳など出来ないくらいに濡れそぼっている金属。
そして、冷たいのに熱い、蓮の視線。
一番好きな人に、一番恥ずかしい姿を見られている──

凛の腹の奥がずくずくと疼き、歓喜の蜜をトロトロと零しました。
一度大きく息を吐き出し、凛は腰を落としたまま前傾になって金属を掴みました。そうして、蓮に喜んでほしい一心で、ゆるゆると腰を振り出しました。くちゅんくちゅんと粘り気のある水の音が、小さな部屋に木霊しました。

「ねぇ凛。僕は確かにイかせてあげる約束をしたよ。でも、覚えてるかな」

笑いだしそうになる顔を必死に閉じ込め、蓮は至極やさしい声で問いかけます。凛は今していることが精一杯で、蓮のことばの真意までは理解できませんでした。
丁度蓮の目の前では、かわいらしいダンスが繰り広げられています。腰使いはかわいらしく、しかしやっぱり拙い音を立てます。蓮は見え隠れする真っ赤なクリトリスに爪を立ててやりました。

「っくっう!」

「僕は、一度だけって言ったよね」

ひくひくと腹が痙攣しだし、凛は涙目で蓮を見下ろしました。

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