3 / 149
蓮との再会
しおりを挟む
「ん…」
凛は目を覚ましました。
最初に目に入ったものは海でした。さざ波が白砂を砂を覆い、それから去っていく穏やかな景色です。水彩絵の具を思い切り水で伸ばしたみたいな空に、間違えて引っ掻いてしまったような白い雲。キラキラのおひさまが宝石みたいに海に反射して、凛は目を細めました。
「おはよう、凛」
うっとりするようなテノールが上から降ってきました。凛は泣き腫らして熱を持った瞼を無理に開けました。そういえば頬もひりひりしています。自分で思っているよりも、随分たくさんの涙を流したようです。
眩しい太陽と、熱を持つ瞼はなかなか焦点が合いません。目を細めると、薄い水色の空に目の覚めるような金色が飛び込んできました。
「え、…蓮?」
「ふふっ…随分声がかすれてしまったね。大丈夫?」
だんだんと焦点が合ってきて、やさしく目を細める蓮の姿がはっきりと映ります。大きな手で髪を梳き、ひりついた頬を指の背で撫でてくれました。
「…あれ… ?あたし…」
蓮の姿ははっきりと視認できたけれど、凛は状況が飲み込めません。ぼんやりした頭で一生懸命に、眠る前の出来事を思い返しました。
蓮があの小屋から飛び立って行く姿を目で追い、それから自分も小屋を後にして…南へ向かっていったはずだったわ。それから…おかしな帽子の男に会って、それで…
お腹の奥がずくりと疼きました。
見知らぬ男におっぱいを見られ、それだけでなくとろとろの果汁をたっぷりかけられて揉みしだかれ、白蛇にショーツの中を余すところなく舐め回され、熱い果汁をこれでもかとお腹の奥に注がれ、出すことしかなかった器官に固くてつめたい器具をずっぷりと突っ込まれ、そこにもどくどくと容赦なく熱い果汁が…
「…やっ…あたし…」
「思い出した?」
蓮は一層目をやさしくして、凛の柔らかな髪を梳いてやりました。凛は体が震えだし、息も上がっていきます。凛の頭の中は、おぞましい光景でいっぱいになっていました。
思い出せば出すほど、どくどくとお腹が疼きます。
それもそのはずです。凛の災難はそれだけで終わりませんでした。
自分でさえ知らなかった腹の奥を、凶器とも思われる熱い肉棒で狂ったようにゴンゴンと突かれ、何度も何度も射精され、まっさらだった体に絶頂のよろこびを強制的に刻みつけられてしまったのです。
おぞましい体験はそれだけではなかったと、凛の足の間がはっきりと覚えています。得体の知れないぬるぬるの蔦に捕まり、体内という体内に火傷しそうな熱い粘液を吐くほど注がれました。足の間をぼこぼこの蔦がごしゅごしゅと擦り上げられて何度も絶頂し、それから海老反りにされ……
凛は一瞬目の前に閃光が走り、くらりと目眩を覚えました。凛はその後の出来事を全く思い出せないのです。
しかし思い出せなくたって、凛の体にも心にも深く傷付いてしまったことは確かです。がくがくと体を震わせて、涙が勝手にボロボロと流れていきました。薔薇のように真っ赤なくちびるはしっとりと濡れ、半分開いて嗚咽を零しました。
蓮は愛おしそうにちいさな頭を撫でてやりました。ぬるい潮風がざっと吹き抜け、蓮の少し長い前髪に絡みました。彫りの深い顔に風と戯れる楽しげな影が落ち、歌うようなテノールが降りました。
「とっても可愛かったよ?」
「…ぇ、見て…?」
小動物を愛でる眼差しで、蓮は凛の涙を指で拭います。かたちのいい蓮のくちびるは綺麗な三日月を描き、涙で濡れた指は、今度は凛のちいさな耳たぶを擽りました。
「うん。僕が見つけたときは、凛は海老反りに吊られてたよ。太い蔦を喉の奥まで突っ込まれて苦しそうだったね。目を白黒させててとっても可愛かった。ちいさい膣にも最後は4本も銜えちゃってて、すっごく気持ちよさそうだったよ。おしりの穴からもあの粘液いっぱいいっぱい入れられてたみたい。凛のお腹がパンパンに膨らんでて、無様で可愛くて僕興奮しちゃったよ。でもあんまり苦しそうだったから、お尻に入ってた触手を力の限り一気に抜いてあげたんだよ。それはもうめちゃくちゃ可愛く鳴いてくれてさ。…あれ?覚えてないんだ?」
もう、穴があったらそこで一生暮らしたい。
一目で好きになった人に、そんなところを見られたなんて、もう、終わった。終わりだ。
凛の綺麗な目からは滝のような涙が溢れ出し、顔を覆いました。
蓮はそんな凛を心底愛おしそうに撫でてやり、それから笑いました。
「ふふ…泣かないで凛。とっても可愛かったんだよ。それから…そこで泣かれると僕のスラックスびしょびしょになっちゃう」
凛はふと自分の状況を見ました。
海の方向を見ながら横になっていて…蓮の顔は上に…
「きゃああっごっごめんなさい!」
「あはっ。本当に…どこまでかわいいの?」
今ようやく自分が蓮に膝枕してもらっているという状況を確認して、飛び上がりました。身体中にぴりっとした痛みが走りましたが、そんなものに構っている暇などありません。もう穴なら何でもいいからそこに入り、一生出れないように鍵を掛けるか、蓮の頭を思いっきり殴ったら忘れてくれないだろうかと不穏なことまで思う次第だったのでした。
蓮から少し距離を置き、体を抱えて蹲る凛の体は、やっぱりピリピリと痛みます。気のせいではないようですが、それよりもはたと気が付きました。凛の肌を優しく纏っていた白いふわふわのワンピースが、どうにも見当たらないのです。はらりと白い砂浜に落ちた黒いジャケットに恐る恐る視線を移し、それから壊れたロボットみたいに自分のからだに向かって視線を向けました。
「ひゃぁあああ!!?」
慌てて細い腕で体を隠しますが、勿論凛の白くて細いからだは隠しきれません。その場に蹲って必死に隠しながら、黒いジャケットを手繰り寄せました。
「だって、洗ったって無駄なくらいぐっしょり濡れてたし」
両手を上げる蓮の顔をまともに見ることが出来なくて、拾ったジャケットを急いで肌に掛けました。ふわりと香った甘い香りに、凛は卒倒しかけました。確認せずとも、そのジャケットは蓮が羽織ってたもので間違いありません。凛の幼さが抜けない体に、蓮のおおきなジャケットはあまりにも不釣り合いです。凛は抗議の視線を向けましたが、蓮は仕方ないでしょ、なんて肩を上げるのでした。
「風邪でも引いたら大変」
「もぅ……恥ずかしすぎて死んじゃう…」
「それは困るなあ」
恥ずかしくて恥ずかしくて、凛は蹲ったままおおきなジャケットを頭ごとすっぽりと被り、今からこの砂浜に自分で穴を掘って一生そこで暮らそう、などと現実逃避まで図る次第です。蓮がくつくつと笑いました。
「拗ねないでよ。ほら、おいで」
ジャケットの隙間からちらと蓮を盗み見れば、和いだ波より穏やかな笑みを浮かべていました。温かくて大きな手を広げ、はやく、とかたちのいい唇が動きます。凛は薔薇色の唇をきゅっと結びました。
蓮は美しい人。一目で好きになった人。優しい人。悪いようにはしない人。知ってる。あの手のやさしさも、あたたかさも知ってる。細腕に見合わない力強さも知ってる。
凛の目が泳ぎます。
言われた通りに蓮の側へ行きたい気持ちはあります。しかし凛は今、蓮の黒いジャケットを羽織っただけの格好です。恋も知らなかった少女には、こんな格好のまま立ち上がって歩いて蓮の傍に行くことなどとても無理なのです。蓮のジャケットはタキシードなので、胸元が大きく開いたひとつボタンのものですから、いくら小柄な凛が男性用のジャケットを羽織ったとしても肝心なところがなにも隠せません。
頭からジャケットを被り、熟れた果実よりも真っ赤になった顔をちらと覗かせ、雪のように白い肌をうっすらとピンク色に染める凛の姿に、蓮は手の甲を口元に当ててやっぱり喉の奥で笑うのでした。
「わかったよ。じゃあ、僕がそっちへ行くことにするよ」
「えっ…ゃ…!」
さり、と砂を踏み、白砂を軽く手で払った蓮は手を腰にやって息を吐き、仕方ないとばかりに笑いました。白い砂浜の上に黒いジャケットを羽織ったふるふると震える子うさぎに、どうにも愛おしさが込み上げてきてしまうのです。
さり、と革靴で砂を踏む音は、凛の心臓を爆発させるには破壊力が強すぎました。
一歩一歩確実に近付く足音は、火傷しそうなほどに熱を持った凛の耳にも確実に届きます。
蓮と凛の間は、たったの数歩。2、3回の足音を鳴らせば、蓮は凛のすぐ目の前まで来てしまいます。
それでも尚、凛は身を隠すには心許ない黒いジャケットの下に隠れたままです。思わずふふ、と笑いが出てしまった蓮は、膝を着いてジャケットの中を覗きました。
「さあ、うさぎさん。かくれんぼは終わりにしよう」
「うぅ…れんっ…」
ジャケットの隙間から覗いた凛の目は羞恥と動揺で真っ赤になり、淵には今にも溢れんばかりの雫が浮かんでいました。一瞬、蓮の青い目が見開かれ、これまで三日月を崩さなかった唇が僅かに開かれました。
「… ?れん…?」
「…ああ、ごめん。なんでもないんだ」
幻だったかのように蓮はいつもの穏やかな笑みを貼り付け、そっと凛の頬に指を這わせました。
「さあ凛、そこから出てきて傷をよく見せて」
「えっ…?」
今度は凛が目を見開きました。蓮は穏やかな笑みを崩さず、頬に這わせた指をするりと首へ落とし、凛の髪を梳きました。
「たくさんついてるでしょ。粘液が絡みついてたとはいえ、蔦は硬いから」
そう言われて、今の今まで後回しにしていた凛のからだの傷がヒリヒリと痛み出してきました。
特に、重点的に甚振られた足の間のちいさな淫核は、なにもしてなくてもびりびりと痛むほどでした。
空気に触れたことなどほとんどなかった、ましてや人に見られたこともなければ、触られたこともないちいさな突起を乱暴に擦られ吸われて叩かれ、引っ張られて揺さぶられ、密やかにも明確に限界を訴えていたのです。
他にも慎ましい胸の周りにも先端にも、柔らかな腹や折れそうな腰、足にも細かな傷がたくさん付いていました。
確かに痛みます。傷薬が欲しいと思います。だけど場所が場所だけに、凛はジャケットの下で必死に首を振りました。
「いい!だいっ、じょうぶ…!」
「嘘を言いなさい。痛かったんでしょう」
咎めるようなことばにも、全く棘はありません。むしろ凛を安心させるような穏やかなテノールです。深く傷ついた心がじんわりと温まっていくような、それでいて心臓がどくどくと脈を打つような、大好きな声でした。
ちらと覗いた蓮の、おひさまの光をめいっぱい集めた金の髪が風戯れました。きらきらと煌めく水面よりもずっと美しく、柔らかな毛先が蓮の絹のような肌を擽ります。そんな些細なことですら、凛のふっくらした頬はりんごみたいに真っ赤になり、どくりと胸を打ちました。
「見せてごらん」
蓮の長い腕が凛の腰に巻き付きました。細腕に見えて案外がっちりした男の腕に、凛の心臓はばくばくと暴れ回って落ち着きません。潮風に乗って凛の鼻腔を擽る甘い匂いにも目眩を覚えるほどです。
ふわふわの白いキャミワンピは、もうどこにあるのかも分かりません。蓮が凛の腰を引き寄せたことで、最後の砦だったジャケットが凛のちいさな肩からするりと滑ってしまいました。
白砂が講義の声をあげましたが、構わず蓮は凛の細い腰を抱き寄せて、頬を指の背で撫でました。蓮のシワひとつない白いシャツが直接肌に触れる感触に、凛は最後の抵抗とばかりにぎゅっと目を瞑りました、
「怖がらなくても大丈夫だよ。ほら、ここへ座って。どこに傷が出来たかよく見せてごらん」
ぽんぼん、と叩く先は、まだ凛の涙が乾いていない蓮の膝。ただでさえりんごみたいに真っ赤になった頬がこれ以上ないほど熱を集めて沸騰してしまいそうです。
「だだだっ!大丈夫!ほんとうよ!」
「ああほら、こんなところにもいっぱい。浅いけど、痛むでしょ?」
「ひゃあ!!」
膝立ちになった凛のお腹に、赤い線が幾重にも重なっています。蓮の指が優しくなぞり、凛はびくりと腰を震わせました。
「まって見ないで…!」
「ああ、かわいそうに。思ったよりたくさん付いてる。痛むでしょ。…そうだ、いいものがあるよ」
必死に肌を隠す凛の細い腕を取って立ち上がらせると、蓮は砂浜に落ちたジャケットを拾い上げました。
「寒くない?」
「…うん」
「じゃあ、行こうね」
砂を払って凛の肩にジャケットを掛けると、肩を抱いて歩き出します。つられるように歩く凛はもう頭の中がぐしゃぐしゃでした。男性に、それもこんなにまで素敵な人に肩を抱かれたことなど今まで一度も経験したことがないこと、いくらジャケットを掛けてくれたとはいえ、その下は生まれたままの姿であること、しかもここは屋外であること……それから、一歩踏み出す度に足の間が擦れてピリピリと鋭い痛みが走ること…。ぐしゃぐしゃの感情を、ジャケットの前合わせをぎゅうっと握りしめることで誤魔化し、つま先ばかりを見て歩きました。
そんな凛の髪を、蓮は目を細めてやさしく撫でてやりました。
目的地は、海岸のすぐ側でした。雑草が生い茂る小路に凛を立たせ、汗ばむこめかみに小さなキスを落としました。
「へっ…?」
「凛の傷を癒してもらおうね。ここが一番いい場所だ」
何が起こったのか理解するよりはやく、蓮はやっぱり穏やかな顔でネコジャラシみたいな、猫の尻尾のような植物を手繰り寄せました。よくみるとそのネコジャラシは凛のまわりをぐるりと囲むようにして鬱蒼と茂っています。凛ははっとして目を見開き、辺りを見渡しました。雑草が生い茂る、というよりは、最早雑草のジャングルといったほうが正しいかもしれません。それに、このネコジャラシには見覚えがありました。そう、あのおかしな帽子の男の家までの道に、これが鬱蒼と茂っていたのです。長い被毛を纏った謎の植物は意思を持ったように凛の素肌へ伸びてきました。あの時のことがフラッシュバックして、凛は悲鳴を上げました。
「大丈夫だよ凛、落ち着いて。これはあの蔦みたいに凛を酷い目に合わせたりしないから。これはね、こうやって使うんだよ」
身を固くして震える凛の腰を抱き寄せ、耳に直接暖かなテノールを響かせます。蓮はそのまま片手でネコジャラシを手繰り寄せると、柔らかな被毛の部分を手のひらで握りつぶしました。
「…え、…?」
訳が分からない凛は、大きな目を更に大きく開いて蓮の動向を見つめます。蓮は一度凛に目配せした後、静かに手を開きました。
手の中で握り潰されたネコジャラシは、形はそのままにびっしょりと濡れそぼっていました。猫の尻尾が水浸しになったような見た目に、凛は喉の奥で言葉を飲み込みました。
「見て。すっごくとろとろでしょ。ちょっと甘いんだよ。これはね、この森で一番効く傷薬なんだ」
ネコジャラシから手を離した蓮は、ぐっしょりと濡れた手を開いて見せました。無色透明のトロトロの粘液は、大きくて骨ばった蓮の指を滑って、名残惜しそうに糸を伸ばしながら足元へ垂れていきました。
「舐めても体に影響はないし、この植物は本当に優しいんだよ。ああほら、言ってる傍から」
「やっ…!ぇ、…」
さわさわと茎を伸ばしたネコジャラシは、様子をうかがうように凛の肌を長い被毛の毛先で撫でました。くすぐったさに少し身を捩った凛でしたが、蓮のいう通りに柔らかなタッチで心地良いとさえ感じます。蓮のからだに思い切りしがみ付いたままの凛は、息を殺してネコジャラシの行く手を追いました。
被毛の色は様々で、真っ白から茶色から、黒、マーブル模様とたくさんの種類があります。これだけ見ると、本当に猫の尻尾みたいです。被毛の長さもそれぞれでした。
一番被毛の長い植物は、恐る恐る凛の腹のあたりをゆっくり撫でました。
「っ…ん、」
びく、と凛の肩が震えます。蓮は一層優しく凛の肩を抱き寄せ、このネコジャラシみたいに指で頬を撫でました。ネコジャラシは凛の柔らかな腹に付いた赤い線を、労わるように一撫でしました。
「見つけたみたい。見ててね」
そろりそろりと凛の腹の赤い線を撫でるネコジャラシを、蓮の大きな手が包みます。それから力いっぱいぎゅっと握ると、被毛の奥からみるみる粘液が溢れ出し、糸を引いて地面に垂れました。意思を持ったようなネコジャラシは、そのまま凛の腹を優しく撫でました。
「ひゃあっ!?」
「あは。ちょっと冷たいかな。でも傷なんてすぐに治るから、ちょっとだけ我慢してね」
くつくつと笑う蓮は、泣きそうになる凛の目元もやさしく撫でてやります。
ネコジャラシは無色透明の粘液を、赤い線に塗り込むように撫でていきます。風に晒されて粘液がより冷え、少し身震いした凛は、次の瞬間ひ、と息を飲みました。
粘液が付着した赤い線が、一瞬だけ火傷したように熱くなったのです。でもそれは本当に一瞬だけで、あとはすっと冷えていきました。
「ほら見て、凛。さっきより明らかに傷が薄くなったでしょ」
「…あ、ほんとだ…」
粘液が付着した部分の赤い線は、目を凝らさなければ傷があったことも分からないほどです。じっと見つめていると、ネコジャラシがまた同じところを撫でました。また一瞬だけ火傷した時のような熱を感じましたが、それが冷える頃には、傷など最初からなかったかのように綺麗に消えていました。
まるで魔法でも見てしまったかのように口を開けて呆然と傷の後を見る凛に、蓮はおかしそうにジャケットに手を掛けました。
「さ、傷だらけの可哀想なからだを癒してもらおうね」
「あ、蓮まってジャケット…!」
「ごめんね。でも、これが濡れると僕の服までなくなっちゃう」
近くの木の枝にジャケットを引っ掛けた蓮は、背中を向けて必死でからだを隠す凛の腕をやんわりと解きました。
後ろから万歳のように腕を取られた凛は、植物が鬱蒼と茂る森の中で、生まれたままの姿を曝け出されたのです。やわらかな風が脇や腹を撫でる感覚など、生まれて初めてでした。恥ずかしくて泣きそうな凛の耳に、やさしいテノールが響きます。
「ふふっ。恥ずかしがる顔も見てみたかったけど…あんまり可哀想だから、僕は見ないよ。このまま後ろから凛をだっこしててあげるね」
万歳されたまま大きな指を絡め、凛の手の甲を蓮の親指がやさしく撫でました。その間にもたくさんのネコジャラシがふよふよと風に靡き、そろそろと凛のからだ目掛けて茎を伸ばしてきました。
凛は目を覚ましました。
最初に目に入ったものは海でした。さざ波が白砂を砂を覆い、それから去っていく穏やかな景色です。水彩絵の具を思い切り水で伸ばしたみたいな空に、間違えて引っ掻いてしまったような白い雲。キラキラのおひさまが宝石みたいに海に反射して、凛は目を細めました。
「おはよう、凛」
うっとりするようなテノールが上から降ってきました。凛は泣き腫らして熱を持った瞼を無理に開けました。そういえば頬もひりひりしています。自分で思っているよりも、随分たくさんの涙を流したようです。
眩しい太陽と、熱を持つ瞼はなかなか焦点が合いません。目を細めると、薄い水色の空に目の覚めるような金色が飛び込んできました。
「え、…蓮?」
「ふふっ…随分声がかすれてしまったね。大丈夫?」
だんだんと焦点が合ってきて、やさしく目を細める蓮の姿がはっきりと映ります。大きな手で髪を梳き、ひりついた頬を指の背で撫でてくれました。
「…あれ… ?あたし…」
蓮の姿ははっきりと視認できたけれど、凛は状況が飲み込めません。ぼんやりした頭で一生懸命に、眠る前の出来事を思い返しました。
蓮があの小屋から飛び立って行く姿を目で追い、それから自分も小屋を後にして…南へ向かっていったはずだったわ。それから…おかしな帽子の男に会って、それで…
お腹の奥がずくりと疼きました。
見知らぬ男におっぱいを見られ、それだけでなくとろとろの果汁をたっぷりかけられて揉みしだかれ、白蛇にショーツの中を余すところなく舐め回され、熱い果汁をこれでもかとお腹の奥に注がれ、出すことしかなかった器官に固くてつめたい器具をずっぷりと突っ込まれ、そこにもどくどくと容赦なく熱い果汁が…
「…やっ…あたし…」
「思い出した?」
蓮は一層目をやさしくして、凛の柔らかな髪を梳いてやりました。凛は体が震えだし、息も上がっていきます。凛の頭の中は、おぞましい光景でいっぱいになっていました。
思い出せば出すほど、どくどくとお腹が疼きます。
それもそのはずです。凛の災難はそれだけで終わりませんでした。
自分でさえ知らなかった腹の奥を、凶器とも思われる熱い肉棒で狂ったようにゴンゴンと突かれ、何度も何度も射精され、まっさらだった体に絶頂のよろこびを強制的に刻みつけられてしまったのです。
おぞましい体験はそれだけではなかったと、凛の足の間がはっきりと覚えています。得体の知れないぬるぬるの蔦に捕まり、体内という体内に火傷しそうな熱い粘液を吐くほど注がれました。足の間をぼこぼこの蔦がごしゅごしゅと擦り上げられて何度も絶頂し、それから海老反りにされ……
凛は一瞬目の前に閃光が走り、くらりと目眩を覚えました。凛はその後の出来事を全く思い出せないのです。
しかし思い出せなくたって、凛の体にも心にも深く傷付いてしまったことは確かです。がくがくと体を震わせて、涙が勝手にボロボロと流れていきました。薔薇のように真っ赤なくちびるはしっとりと濡れ、半分開いて嗚咽を零しました。
蓮は愛おしそうにちいさな頭を撫でてやりました。ぬるい潮風がざっと吹き抜け、蓮の少し長い前髪に絡みました。彫りの深い顔に風と戯れる楽しげな影が落ち、歌うようなテノールが降りました。
「とっても可愛かったよ?」
「…ぇ、見て…?」
小動物を愛でる眼差しで、蓮は凛の涙を指で拭います。かたちのいい蓮のくちびるは綺麗な三日月を描き、涙で濡れた指は、今度は凛のちいさな耳たぶを擽りました。
「うん。僕が見つけたときは、凛は海老反りに吊られてたよ。太い蔦を喉の奥まで突っ込まれて苦しそうだったね。目を白黒させててとっても可愛かった。ちいさい膣にも最後は4本も銜えちゃってて、すっごく気持ちよさそうだったよ。おしりの穴からもあの粘液いっぱいいっぱい入れられてたみたい。凛のお腹がパンパンに膨らんでて、無様で可愛くて僕興奮しちゃったよ。でもあんまり苦しそうだったから、お尻に入ってた触手を力の限り一気に抜いてあげたんだよ。それはもうめちゃくちゃ可愛く鳴いてくれてさ。…あれ?覚えてないんだ?」
もう、穴があったらそこで一生暮らしたい。
一目で好きになった人に、そんなところを見られたなんて、もう、終わった。終わりだ。
凛の綺麗な目からは滝のような涙が溢れ出し、顔を覆いました。
蓮はそんな凛を心底愛おしそうに撫でてやり、それから笑いました。
「ふふ…泣かないで凛。とっても可愛かったんだよ。それから…そこで泣かれると僕のスラックスびしょびしょになっちゃう」
凛はふと自分の状況を見ました。
海の方向を見ながら横になっていて…蓮の顔は上に…
「きゃああっごっごめんなさい!」
「あはっ。本当に…どこまでかわいいの?」
今ようやく自分が蓮に膝枕してもらっているという状況を確認して、飛び上がりました。身体中にぴりっとした痛みが走りましたが、そんなものに構っている暇などありません。もう穴なら何でもいいからそこに入り、一生出れないように鍵を掛けるか、蓮の頭を思いっきり殴ったら忘れてくれないだろうかと不穏なことまで思う次第だったのでした。
蓮から少し距離を置き、体を抱えて蹲る凛の体は、やっぱりピリピリと痛みます。気のせいではないようですが、それよりもはたと気が付きました。凛の肌を優しく纏っていた白いふわふわのワンピースが、どうにも見当たらないのです。はらりと白い砂浜に落ちた黒いジャケットに恐る恐る視線を移し、それから壊れたロボットみたいに自分のからだに向かって視線を向けました。
「ひゃぁあああ!!?」
慌てて細い腕で体を隠しますが、勿論凛の白くて細いからだは隠しきれません。その場に蹲って必死に隠しながら、黒いジャケットを手繰り寄せました。
「だって、洗ったって無駄なくらいぐっしょり濡れてたし」
両手を上げる蓮の顔をまともに見ることが出来なくて、拾ったジャケットを急いで肌に掛けました。ふわりと香った甘い香りに、凛は卒倒しかけました。確認せずとも、そのジャケットは蓮が羽織ってたもので間違いありません。凛の幼さが抜けない体に、蓮のおおきなジャケットはあまりにも不釣り合いです。凛は抗議の視線を向けましたが、蓮は仕方ないでしょ、なんて肩を上げるのでした。
「風邪でも引いたら大変」
「もぅ……恥ずかしすぎて死んじゃう…」
「それは困るなあ」
恥ずかしくて恥ずかしくて、凛は蹲ったままおおきなジャケットを頭ごとすっぽりと被り、今からこの砂浜に自分で穴を掘って一生そこで暮らそう、などと現実逃避まで図る次第です。蓮がくつくつと笑いました。
「拗ねないでよ。ほら、おいで」
ジャケットの隙間からちらと蓮を盗み見れば、和いだ波より穏やかな笑みを浮かべていました。温かくて大きな手を広げ、はやく、とかたちのいい唇が動きます。凛は薔薇色の唇をきゅっと結びました。
蓮は美しい人。一目で好きになった人。優しい人。悪いようにはしない人。知ってる。あの手のやさしさも、あたたかさも知ってる。細腕に見合わない力強さも知ってる。
凛の目が泳ぎます。
言われた通りに蓮の側へ行きたい気持ちはあります。しかし凛は今、蓮の黒いジャケットを羽織っただけの格好です。恋も知らなかった少女には、こんな格好のまま立ち上がって歩いて蓮の傍に行くことなどとても無理なのです。蓮のジャケットはタキシードなので、胸元が大きく開いたひとつボタンのものですから、いくら小柄な凛が男性用のジャケットを羽織ったとしても肝心なところがなにも隠せません。
頭からジャケットを被り、熟れた果実よりも真っ赤になった顔をちらと覗かせ、雪のように白い肌をうっすらとピンク色に染める凛の姿に、蓮は手の甲を口元に当ててやっぱり喉の奥で笑うのでした。
「わかったよ。じゃあ、僕がそっちへ行くことにするよ」
「えっ…ゃ…!」
さり、と砂を踏み、白砂を軽く手で払った蓮は手を腰にやって息を吐き、仕方ないとばかりに笑いました。白い砂浜の上に黒いジャケットを羽織ったふるふると震える子うさぎに、どうにも愛おしさが込み上げてきてしまうのです。
さり、と革靴で砂を踏む音は、凛の心臓を爆発させるには破壊力が強すぎました。
一歩一歩確実に近付く足音は、火傷しそうなほどに熱を持った凛の耳にも確実に届きます。
蓮と凛の間は、たったの数歩。2、3回の足音を鳴らせば、蓮は凛のすぐ目の前まで来てしまいます。
それでも尚、凛は身を隠すには心許ない黒いジャケットの下に隠れたままです。思わずふふ、と笑いが出てしまった蓮は、膝を着いてジャケットの中を覗きました。
「さあ、うさぎさん。かくれんぼは終わりにしよう」
「うぅ…れんっ…」
ジャケットの隙間から覗いた凛の目は羞恥と動揺で真っ赤になり、淵には今にも溢れんばかりの雫が浮かんでいました。一瞬、蓮の青い目が見開かれ、これまで三日月を崩さなかった唇が僅かに開かれました。
「… ?れん…?」
「…ああ、ごめん。なんでもないんだ」
幻だったかのように蓮はいつもの穏やかな笑みを貼り付け、そっと凛の頬に指を這わせました。
「さあ凛、そこから出てきて傷をよく見せて」
「えっ…?」
今度は凛が目を見開きました。蓮は穏やかな笑みを崩さず、頬に這わせた指をするりと首へ落とし、凛の髪を梳きました。
「たくさんついてるでしょ。粘液が絡みついてたとはいえ、蔦は硬いから」
そう言われて、今の今まで後回しにしていた凛のからだの傷がヒリヒリと痛み出してきました。
特に、重点的に甚振られた足の間のちいさな淫核は、なにもしてなくてもびりびりと痛むほどでした。
空気に触れたことなどほとんどなかった、ましてや人に見られたこともなければ、触られたこともないちいさな突起を乱暴に擦られ吸われて叩かれ、引っ張られて揺さぶられ、密やかにも明確に限界を訴えていたのです。
他にも慎ましい胸の周りにも先端にも、柔らかな腹や折れそうな腰、足にも細かな傷がたくさん付いていました。
確かに痛みます。傷薬が欲しいと思います。だけど場所が場所だけに、凛はジャケットの下で必死に首を振りました。
「いい!だいっ、じょうぶ…!」
「嘘を言いなさい。痛かったんでしょう」
咎めるようなことばにも、全く棘はありません。むしろ凛を安心させるような穏やかなテノールです。深く傷ついた心がじんわりと温まっていくような、それでいて心臓がどくどくと脈を打つような、大好きな声でした。
ちらと覗いた蓮の、おひさまの光をめいっぱい集めた金の髪が風戯れました。きらきらと煌めく水面よりもずっと美しく、柔らかな毛先が蓮の絹のような肌を擽ります。そんな些細なことですら、凛のふっくらした頬はりんごみたいに真っ赤になり、どくりと胸を打ちました。
「見せてごらん」
蓮の長い腕が凛の腰に巻き付きました。細腕に見えて案外がっちりした男の腕に、凛の心臓はばくばくと暴れ回って落ち着きません。潮風に乗って凛の鼻腔を擽る甘い匂いにも目眩を覚えるほどです。
ふわふわの白いキャミワンピは、もうどこにあるのかも分かりません。蓮が凛の腰を引き寄せたことで、最後の砦だったジャケットが凛のちいさな肩からするりと滑ってしまいました。
白砂が講義の声をあげましたが、構わず蓮は凛の細い腰を抱き寄せて、頬を指の背で撫でました。蓮のシワひとつない白いシャツが直接肌に触れる感触に、凛は最後の抵抗とばかりにぎゅっと目を瞑りました、
「怖がらなくても大丈夫だよ。ほら、ここへ座って。どこに傷が出来たかよく見せてごらん」
ぽんぼん、と叩く先は、まだ凛の涙が乾いていない蓮の膝。ただでさえりんごみたいに真っ赤になった頬がこれ以上ないほど熱を集めて沸騰してしまいそうです。
「だだだっ!大丈夫!ほんとうよ!」
「ああほら、こんなところにもいっぱい。浅いけど、痛むでしょ?」
「ひゃあ!!」
膝立ちになった凛のお腹に、赤い線が幾重にも重なっています。蓮の指が優しくなぞり、凛はびくりと腰を震わせました。
「まって見ないで…!」
「ああ、かわいそうに。思ったよりたくさん付いてる。痛むでしょ。…そうだ、いいものがあるよ」
必死に肌を隠す凛の細い腕を取って立ち上がらせると、蓮は砂浜に落ちたジャケットを拾い上げました。
「寒くない?」
「…うん」
「じゃあ、行こうね」
砂を払って凛の肩にジャケットを掛けると、肩を抱いて歩き出します。つられるように歩く凛はもう頭の中がぐしゃぐしゃでした。男性に、それもこんなにまで素敵な人に肩を抱かれたことなど今まで一度も経験したことがないこと、いくらジャケットを掛けてくれたとはいえ、その下は生まれたままの姿であること、しかもここは屋外であること……それから、一歩踏み出す度に足の間が擦れてピリピリと鋭い痛みが走ること…。ぐしゃぐしゃの感情を、ジャケットの前合わせをぎゅうっと握りしめることで誤魔化し、つま先ばかりを見て歩きました。
そんな凛の髪を、蓮は目を細めてやさしく撫でてやりました。
目的地は、海岸のすぐ側でした。雑草が生い茂る小路に凛を立たせ、汗ばむこめかみに小さなキスを落としました。
「へっ…?」
「凛の傷を癒してもらおうね。ここが一番いい場所だ」
何が起こったのか理解するよりはやく、蓮はやっぱり穏やかな顔でネコジャラシみたいな、猫の尻尾のような植物を手繰り寄せました。よくみるとそのネコジャラシは凛のまわりをぐるりと囲むようにして鬱蒼と茂っています。凛ははっとして目を見開き、辺りを見渡しました。雑草が生い茂る、というよりは、最早雑草のジャングルといったほうが正しいかもしれません。それに、このネコジャラシには見覚えがありました。そう、あのおかしな帽子の男の家までの道に、これが鬱蒼と茂っていたのです。長い被毛を纏った謎の植物は意思を持ったように凛の素肌へ伸びてきました。あの時のことがフラッシュバックして、凛は悲鳴を上げました。
「大丈夫だよ凛、落ち着いて。これはあの蔦みたいに凛を酷い目に合わせたりしないから。これはね、こうやって使うんだよ」
身を固くして震える凛の腰を抱き寄せ、耳に直接暖かなテノールを響かせます。蓮はそのまま片手でネコジャラシを手繰り寄せると、柔らかな被毛の部分を手のひらで握りつぶしました。
「…え、…?」
訳が分からない凛は、大きな目を更に大きく開いて蓮の動向を見つめます。蓮は一度凛に目配せした後、静かに手を開きました。
手の中で握り潰されたネコジャラシは、形はそのままにびっしょりと濡れそぼっていました。猫の尻尾が水浸しになったような見た目に、凛は喉の奥で言葉を飲み込みました。
「見て。すっごくとろとろでしょ。ちょっと甘いんだよ。これはね、この森で一番効く傷薬なんだ」
ネコジャラシから手を離した蓮は、ぐっしょりと濡れた手を開いて見せました。無色透明のトロトロの粘液は、大きくて骨ばった蓮の指を滑って、名残惜しそうに糸を伸ばしながら足元へ垂れていきました。
「舐めても体に影響はないし、この植物は本当に優しいんだよ。ああほら、言ってる傍から」
「やっ…!ぇ、…」
さわさわと茎を伸ばしたネコジャラシは、様子をうかがうように凛の肌を長い被毛の毛先で撫でました。くすぐったさに少し身を捩った凛でしたが、蓮のいう通りに柔らかなタッチで心地良いとさえ感じます。蓮のからだに思い切りしがみ付いたままの凛は、息を殺してネコジャラシの行く手を追いました。
被毛の色は様々で、真っ白から茶色から、黒、マーブル模様とたくさんの種類があります。これだけ見ると、本当に猫の尻尾みたいです。被毛の長さもそれぞれでした。
一番被毛の長い植物は、恐る恐る凛の腹のあたりをゆっくり撫でました。
「っ…ん、」
びく、と凛の肩が震えます。蓮は一層優しく凛の肩を抱き寄せ、このネコジャラシみたいに指で頬を撫でました。ネコジャラシは凛の柔らかな腹に付いた赤い線を、労わるように一撫でしました。
「見つけたみたい。見ててね」
そろりそろりと凛の腹の赤い線を撫でるネコジャラシを、蓮の大きな手が包みます。それから力いっぱいぎゅっと握ると、被毛の奥からみるみる粘液が溢れ出し、糸を引いて地面に垂れました。意思を持ったようなネコジャラシは、そのまま凛の腹を優しく撫でました。
「ひゃあっ!?」
「あは。ちょっと冷たいかな。でも傷なんてすぐに治るから、ちょっとだけ我慢してね」
くつくつと笑う蓮は、泣きそうになる凛の目元もやさしく撫でてやります。
ネコジャラシは無色透明の粘液を、赤い線に塗り込むように撫でていきます。風に晒されて粘液がより冷え、少し身震いした凛は、次の瞬間ひ、と息を飲みました。
粘液が付着した赤い線が、一瞬だけ火傷したように熱くなったのです。でもそれは本当に一瞬だけで、あとはすっと冷えていきました。
「ほら見て、凛。さっきより明らかに傷が薄くなったでしょ」
「…あ、ほんとだ…」
粘液が付着した部分の赤い線は、目を凝らさなければ傷があったことも分からないほどです。じっと見つめていると、ネコジャラシがまた同じところを撫でました。また一瞬だけ火傷した時のような熱を感じましたが、それが冷える頃には、傷など最初からなかったかのように綺麗に消えていました。
まるで魔法でも見てしまったかのように口を開けて呆然と傷の後を見る凛に、蓮はおかしそうにジャケットに手を掛けました。
「さ、傷だらけの可哀想なからだを癒してもらおうね」
「あ、蓮まってジャケット…!」
「ごめんね。でも、これが濡れると僕の服までなくなっちゃう」
近くの木の枝にジャケットを引っ掛けた蓮は、背中を向けて必死でからだを隠す凛の腕をやんわりと解きました。
後ろから万歳のように腕を取られた凛は、植物が鬱蒼と茂る森の中で、生まれたままの姿を曝け出されたのです。やわらかな風が脇や腹を撫でる感覚など、生まれて初めてでした。恥ずかしくて泣きそうな凛の耳に、やさしいテノールが響きます。
「ふふっ。恥ずかしがる顔も見てみたかったけど…あんまり可哀想だから、僕は見ないよ。このまま後ろから凛をだっこしててあげるね」
万歳されたまま大きな指を絡め、凛の手の甲を蓮の親指がやさしく撫でました。その間にもたくさんのネコジャラシがふよふよと風に靡き、そろそろと凛のからだ目掛けて茎を伸ばしてきました。
0
お気に入りに追加
942
あなたにおすすめの小説




どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる