【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

Deceive it.

Deceive it.3

「…ごめんなさい…」
「……ｯ」

乙の剣幕に瀾は、俯き小さく言葉をつくと乙は我に返り、言葉を詰まらせた。
顔は見えなくとも瀾から小さな雫が落ちるのが見えた。

何故だろうか…
それは怒られたからではない。
瀾の胸には何故かチクリと胸の痛みが走った。

乙は、小さく溜め息をつくとポツリと言葉をついた。

「野中、この間お前は俺に自分の目の前に現れるなと言った…。
でも、今日ばかりは断られても送っていく…」
「……」

瀾は、俯いたまま断るわけでもなく何も言わなかった。



歩き始めた二人の並んだ距離は、微かに空いて会話はなかった。


『合宿の時、あんなに優しかったのは私を知っていたから？
…じゃあ、何で支えだった輝李さんを私から引き離したの？
私達はどんな関係だったの？
ねぇ…先輩…今、私が聞いたら、貴女は答えてくれますか？』

そんなとき瀾が小さく口を開いた。

「先輩…」
「…なんだ？」
「…ｯ…ぃぇ…」

しかし、瀾はそれ以上を聞くことは出来なかった。


『聞けない…
あの時、私から先輩を拒絶した…
貴方の真実が知りたいなんて…』


瀾の住んでいるマンションは、輝李が用意したもの。
勿論、ここは月影家が所有しているものだ。


「ここに住んでいたのか…」
「…はい」


微かの沈黙が二人を包んでいく。

「送ってくださってありがとうございました…」
「…野中」


気まずい沈黙…。
今、あの写真の事を聞くことが出来たら…
乙の本当の気持ちを聞くことが出来たら、どんなに良いことだろうか…。

しかし、それは今の瀾には出来ないことだった。
記憶もない錯乱が続く中、自分を救ったのは、乙ではなく皮肉にも事を仕掛けた輝李だ。
輝李が仕掛人だとは、瀾には知るよしもないことだが。

瀾は一礼をしてマンションに入ろうとした時だった。

ふわりと吹いた風に乗り、まるで乙に伝えるかのように何かが舞い降りた。

不思議そうに乙が、それを拾い瞳に入れると一瞬、目を見開き心臓が握り潰されそうになった。

「ｯ!!!!」

それは…あのジュエリーケースに入っていた写真だった!!


「…ｯ…瀾───ｯ!!!!」

乙が、思わず叫ぶと入り口に入りかけた瀾が振り向いた。
瀾の顔は、胸が詰まる程に辛く、哀しそうな顔をしていたのだ。
そして、乙も叶わぬ想いに同じような顔をしていたのだった。