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Deceive it.
Deceive it.1
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『アールグレイの昼下がり』章 Deceive itとリンク
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夜になると由佳がマンションに帰ってくる。
「お帰りなさい」
「ただいま」
瀾は元気がないなりにも極力、平然を装い夕食をキッチンテーブルに並べる。
「夕食用意しましたから…」
「ありがとう、瀾さん」
しかし、8-[エイトアンダー]の由佳がそれを見抜けないほど鈍感ではない。
多少でも変わった参考書のノートの位置、床に付いた微かな新しい傷…。
そして、合宿旅行帰りに車の中で見せた瀾の鈍く光る嫉妬の瞳。
由佳は表情を変えることなく、瀾に訪ねた。
「今日は早退したそうね?
体調が優れなかったの?」
「…はい、少し頭痛があったもので…」
「…そう」
「すみません、一言もなしに帰ってしまって…」
「いいのよ。でも、次は教えて頂戴ね」
穏やかに答えた由佳が、それ以上の事を瀾に聞くことはなかった。
夕食が終わり、由佳が残りの仕事を済ますためパソコンに向かう最中、瀾は先に輝李が与えてくれた部屋に入ったが眠ることはなかった。
あの写真のことが頭から離れることがなかったからだった。
休日を挟み、瀾が学院にいくと学院内はざわめいていた。
意外にもそれは瀾の事ではなかった。
合宿以来、輝李は学院から忽然と姿を消したという噂。
学院の掲示板には、新聞部が書いた記事が貼り出されていた。
≪学院プリンス 乙お姉様の隣に謎の美少女!!
新たな恋人か?二人の関係は?
合宿以来、学院のプリンスの1人でもある月影 輝李様の謎の失踪から数日…
いつからかプリンスの乙様の隣には謎の美少女が共に歩くようになった。
生徒の目撃証言によれば、どうやら二人は常に登下校を共にしているらしい。
突然、学院に現れた彼女は一体何者なのか?
恋人関係なのかは未だ謎である≫
そこには一面トップでクールな表情の乙と目線は伏せられているが髪の長い笑顔の女生徒が写し出されていた。
瀾は、少し目を伏せて教室へと向かっていく。
あれから輝李の情報は一切入ってこない。
由佳に聞いてもその答えは、
「輝李様は今、少し席をはずしているの。
やることがあるみたいね。
心配しなくても貴女が退学になることはないし必ず帰って来るわ」
と返って来るだけだった。
瀾が輝李に聞きたいことは山積みだった。
あの写真の事…
輝李が傍に居た理由…
自分の過去に何が あったのか。
教室に入り、しばらくすると貼られていた新聞部の記事が誤報で、合宿後も輝李が変わらず学院に来ているという朗報を運んできたクラスメイトがいた。
何でも、先程乙と輝李達を見て本人達から聞いたと言う。
(『アールグレイの昼下がり』参照)
クラスメイトといっても今の瀾が、親しくできる人間は一人もいない。
しかし、そんな情報ひとつで教室は大騒ぎだ。
何しろ輝李は、失踪したという噂が流れていた程だ。
それが姿を全く変え、登校していたことに誰も気がつかなかったからだ。
しかし、どうして誰も気がつかなかったのか?
教室に行けば席は決まっているのだから疑問に思う生徒がいてもいいはずとお思いだろう。
それは輝李が、入院中の瀾と夏休みを過ごす前に一年間の単位を習得していたからだ。
授業の時間は図書室や学院の特別室で、8-[エイトアンダー]の仕事をこなしていた。
輝李が姿を変えて一番最初に会いに行ったのは乙のもとだった。
その乙でさえ一瞬、自分の妹だと気がつかなかったくらいだ。
そのために誰にも気がつかれることがなかったのだ。
このニュースは号外として昼には学院中に配布され、あっという間に騒ぎになるほどだった。
放課後、図書室に用があり瀾が廊下を歩いている時だった。
ふと瀾が急に立ち止まる。
「あ…」
前方を見ると反対側から乙と輝李が歩いてくる。
乙と目が合うと気まずそうに目線を外す。
乙も立ち止まり、瀾を見て目を伏せると急に輝李の手を握り、歩き出した。
「行くぞ…」
「ちょっ、ちょっと、乙!!
急にどうしたの?」
引っ張られるように輝李が、やっとの思いで引きずられながらも、瀾とすれ違う時に目があった。
まるでスローモーションのように感じるほどだった。
「あ…」
「……ッ」
微かな声をあげて漠然と目を合わせる輝李と辛そうな眼差しの瀾。
瀾の胸には痛みが走った。
それは乙への痛みなのか、輝李への痛みなのかすら解らない。
ただ、胸が締め付けられるのだった。
各々の想いが交差するように一瞬時が止まりそうな気がした。
二人を見送ると瀾は、目を伏せて図書室へ走った。
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夜になると由佳がマンションに帰ってくる。
「お帰りなさい」
「ただいま」
瀾は元気がないなりにも極力、平然を装い夕食をキッチンテーブルに並べる。
「夕食用意しましたから…」
「ありがとう、瀾さん」
しかし、8-[エイトアンダー]の由佳がそれを見抜けないほど鈍感ではない。
多少でも変わった参考書のノートの位置、床に付いた微かな新しい傷…。
そして、合宿旅行帰りに車の中で見せた瀾の鈍く光る嫉妬の瞳。
由佳は表情を変えることなく、瀾に訪ねた。
「今日は早退したそうね?
体調が優れなかったの?」
「…はい、少し頭痛があったもので…」
「…そう」
「すみません、一言もなしに帰ってしまって…」
「いいのよ。でも、次は教えて頂戴ね」
穏やかに答えた由佳が、それ以上の事を瀾に聞くことはなかった。
夕食が終わり、由佳が残りの仕事を済ますためパソコンに向かう最中、瀾は先に輝李が与えてくれた部屋に入ったが眠ることはなかった。
あの写真のことが頭から離れることがなかったからだった。
休日を挟み、瀾が学院にいくと学院内はざわめいていた。
意外にもそれは瀾の事ではなかった。
合宿以来、輝李は学院から忽然と姿を消したという噂。
学院の掲示板には、新聞部が書いた記事が貼り出されていた。
≪学院プリンス 乙お姉様の隣に謎の美少女!!
新たな恋人か?二人の関係は?
合宿以来、学院のプリンスの1人でもある月影 輝李様の謎の失踪から数日…
いつからかプリンスの乙様の隣には謎の美少女が共に歩くようになった。
生徒の目撃証言によれば、どうやら二人は常に登下校を共にしているらしい。
突然、学院に現れた彼女は一体何者なのか?
恋人関係なのかは未だ謎である≫
そこには一面トップでクールな表情の乙と目線は伏せられているが髪の長い笑顔の女生徒が写し出されていた。
瀾は、少し目を伏せて教室へと向かっていく。
あれから輝李の情報は一切入ってこない。
由佳に聞いてもその答えは、
「輝李様は今、少し席をはずしているの。
やることがあるみたいね。
心配しなくても貴女が退学になることはないし必ず帰って来るわ」
と返って来るだけだった。
瀾が輝李に聞きたいことは山積みだった。
あの写真の事…
輝李が傍に居た理由…
自分の過去に何が あったのか。
教室に入り、しばらくすると貼られていた新聞部の記事が誤報で、合宿後も輝李が変わらず学院に来ているという朗報を運んできたクラスメイトがいた。
何でも、先程乙と輝李達を見て本人達から聞いたと言う。
(『アールグレイの昼下がり』参照)
クラスメイトといっても今の瀾が、親しくできる人間は一人もいない。
しかし、そんな情報ひとつで教室は大騒ぎだ。
何しろ輝李は、失踪したという噂が流れていた程だ。
それが姿を全く変え、登校していたことに誰も気がつかなかったからだ。
しかし、どうして誰も気がつかなかったのか?
教室に行けば席は決まっているのだから疑問に思う生徒がいてもいいはずとお思いだろう。
それは輝李が、入院中の瀾と夏休みを過ごす前に一年間の単位を習得していたからだ。
授業の時間は図書室や学院の特別室で、8-[エイトアンダー]の仕事をこなしていた。
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その乙でさえ一瞬、自分の妹だと気がつかなかったくらいだ。
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「あ…」
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小説が音声と映像で流れ出す!?
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