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勿忘草
勿忘草6
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合宿が終わり、環境が変わったのは輝李だけではなかった。
野中 瀾…
勿論、この少女もその一人だ。
関係の修復が出来た輝李とは違い、失意に落とされた方だが。
その顔は絶望から既に表情はなく、悲しみという言葉さえ表現するには重く闇に飲み込まれてしまいそうな程に。
合宿の船から降りる際、偶然にも距離のある乙と目が合ったが、瀾は軽蔑した殺意にさえ近い眼差しを投げた。
乙はといえば、幼少より威圧の父親の眼差しを見てきた事もあり、特に動じるでもなく、ただ少し辛そうな眼差しを一瞬見せ、瀾から目を反らした。
瀾にとっては、それさえも許せないほどに荷物の持つ手に思わず力が入る。
『絶対に許さない!!』
瀾は、また無表情に戻り港に迎えに来ていた黒塗りの車に由佳と共に吸い込まれていく。
今の瀾を学院に返すわけにはいかなかった。
由佳は昨日、傷の薬を取りに来た乙の言葉を胸に刻んでいた。
≪「…瀾のこと…」≫
(『アールグレイの昼下がり』参照)
仮にも妹の様に可愛がっていた由佳にとって、辛そうにその言葉だけをついた乙の表情は見ている此方の胸が張り裂ける程だった。
「瀾さん、今日から輝李様が帰るまで、貴女を任されているから、暫く私が共に生活します。
宜しいわね?」
「…はい…」
そう答えた瀾の表情は勿論、希望もない無表情な状態だった。
由佳は冷静な顔をしていたが、その心中は、やはり胸を痛めずにはいられなかった。
一方、輝李と乙の二人は帰り際、特に会話もなく輝李の変わりようにチラチラと見ると輝李も同じだったらしく目が合う。
途端に乙は目をそらすと輝李は少し俯きながら口を開いた。
「やっぱり変…だよね」
「…そんな事ない、ただ…」
「ただ?」
輝李が不安そうに小首をかしげると乙は少し照れながら口をついた。
「長い髪の輝李は、子供の頃以来だなと思っただけで…」
「約束…したから…」
「え?」
「長い髪…好きでしょ?
乙が切るなって言ったのに〔私〕切っちゃったし…」
「…あんな約束、まだ覚えてたのか?」
「…うん、迷惑だった?」
「別に」
乙が目をそらすと輝李は少し俯いて乙のブレザーの裾をちょこんと掴み、小さな上目遣いに口を開いた。
「手…繋ぎたい…」
「な、何言ってんだよ。
姉妹なのに手なんか繋いだら変に思われるだろ」
「…そうだね…」
輝李が俯きシュンとすると、暫くして乙の手が差し出された。
「…ほら」
乙は少し照れながら目をそらし、手を差し出すと輝李の顔は、パァと明るくなり嬉しさのあまり乙の腕にしがみつく。
「お、おい!!誰が腕を組めと言ったんだよ!!」
「ダメとも言ってないもん♪」
「……」
一瞬慌てた乙だったが、輝李の笑顔はそれを否定させなかった。
こんな笑顔すら何年ぶりだったからだった。
野中 瀾…
勿論、この少女もその一人だ。
関係の修復が出来た輝李とは違い、失意に落とされた方だが。
その顔は絶望から既に表情はなく、悲しみという言葉さえ表現するには重く闇に飲み込まれてしまいそうな程に。
合宿の船から降りる際、偶然にも距離のある乙と目が合ったが、瀾は軽蔑した殺意にさえ近い眼差しを投げた。
乙はといえば、幼少より威圧の父親の眼差しを見てきた事もあり、特に動じるでもなく、ただ少し辛そうな眼差しを一瞬見せ、瀾から目を反らした。
瀾にとっては、それさえも許せないほどに荷物の持つ手に思わず力が入る。
『絶対に許さない!!』
瀾は、また無表情に戻り港に迎えに来ていた黒塗りの車に由佳と共に吸い込まれていく。
今の瀾を学院に返すわけにはいかなかった。
由佳は昨日、傷の薬を取りに来た乙の言葉を胸に刻んでいた。
≪「…瀾のこと…」≫
(『アールグレイの昼下がり』参照)
仮にも妹の様に可愛がっていた由佳にとって、辛そうにその言葉だけをついた乙の表情は見ている此方の胸が張り裂ける程だった。
「瀾さん、今日から輝李様が帰るまで、貴女を任されているから、暫く私が共に生活します。
宜しいわね?」
「…はい…」
そう答えた瀾の表情は勿論、希望もない無表情な状態だった。
由佳は冷静な顔をしていたが、その心中は、やはり胸を痛めずにはいられなかった。
一方、輝李と乙の二人は帰り際、特に会話もなく輝李の変わりようにチラチラと見ると輝李も同じだったらしく目が合う。
途端に乙は目をそらすと輝李は少し俯きながら口を開いた。
「やっぱり変…だよね」
「…そんな事ない、ただ…」
「ただ?」
輝李が不安そうに小首をかしげると乙は少し照れながら口をついた。
「長い髪の輝李は、子供の頃以来だなと思っただけで…」
「約束…したから…」
「え?」
「長い髪…好きでしょ?
乙が切るなって言ったのに〔私〕切っちゃったし…」
「…あんな約束、まだ覚えてたのか?」
「…うん、迷惑だった?」
「別に」
乙が目をそらすと輝李は少し俯いて乙のブレザーの裾をちょこんと掴み、小さな上目遣いに口を開いた。
「手…繋ぎたい…」
「な、何言ってんだよ。
姉妹なのに手なんか繋いだら変に思われるだろ」
「…そうだね…」
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「…ほら」
乙は少し照れながら目をそらし、手を差し出すと輝李の顔は、パァと明るくなり嬉しさのあまり乙の腕にしがみつく。
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「……」
一瞬慌てた乙だったが、輝李の笑顔はそれを否定させなかった。
こんな笑顔すら何年ぶりだったからだった。
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小説が音声と映像で流れ出す!?
厳選されたCV達がお送りする臨場感!!
YouTubeにてボイスドラマ公開中!!
★アールグレイの月夜(YouTube版)
https://www.youtube.com/playlist?list=PL0mziGmecVSUVpSKdpmNMNom6F3FWffNL
★アールグレイの昼下がり(YouTube版)
https://www.youtube.com/playlist?list=PL0mziGmecVSXcYllzM7PGJbwUaHxBfz0L
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