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勿忘草
勿忘草2
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輝李が部屋を出て向かった先は、乙の部屋だった。
中に入ると乙がベッドに首をもたげ俯き加減に座っている。
「…乙」
輝李は静かな声で名を呼んだ。
いつものトーンより低めで、感情が読み取りづらい。
乙は、微かに顔をあげると口を開いた。
「……野中のことなら…」
そこまで言った時だった。
「クッ…」
輝李は拳を握り、怒りをあらわにし右手を挙げると思い切り振りかぶった。
───バシンッ!!!
輝李の平手が乙の頬を捕らえる。
それは、あまりに強い衝撃だった。
今までにない程に…。
乙は、切れた口元を左の手の甲で押さえ、目線をあげた。
「はぁはぁ…はぁはぁ…」
輝李は息を切らし、その最後のポーズのまま睨み付けていた。
次の瞬間、輝李が見せた顔は憎しみではなく、哀しみを必死で堪えた表情だった。
見ていて胸が苦しくなるほどの…
『こんな時でも乙は、僕を見ようとはしないんだ…。
ただ…野中の罪の意識だけ…』
何を言うわけでもなくジッと乙を見つめていたが、やがて言葉を詰まらせ何かを振りきるように、その場を後にした。
「ッ…」
「ッ!!!」
その瞳から数粒の小さな真珠が主を離れ、宙を舞った。
『何も変わらない…
あの頃と…乙の中には僕なんて居ないんだ…
僕の居場所なんか…』
しかし、部屋を出ようとドアに向かった輝李の腕を直ぐ様追いかけてきた乙の腕が掴んだ。
「輝李!!」
「放してよっ!!!」
強い口調は腕を払おうとしたが、乙はそれ以上の力で連結を留めた。
今にも泣いてしまいそうになるのを必死で耐えている輝李を乙は呼び止めた。
胸が苦しくなる。
乙は、いつも輝李が必要とした時、優しさを差し伸べる。
それは最も渇望している事…。
そして…輝李にとっては最も残酷で苦しくなる事。
輝李は下を俯いたまま此方を向くと抵抗しながら力いっぱい声を発した。
「放してったら!!」
「輝李!話を…」
「乙は、いつもそう!!
鈴音の時も…ッ、今も僕の事なんか見向きもしない!…ヒック
僕の事なんか…僕の事なんか!!
本当は何とも想ってないくせに!!
ウッ…都合の良い時だけ優しくしないで!!」
激しく抵抗しながら、乙にはその拳がパタパタと飛んで暴れている。しかし、その声は既に涙で震えていた。
そして輝李が顔を上げると、あの少女だった時と同じ弱々しく大粒の雨を降らせた瞳で叫んだ。
「乙なんか大っ嫌い!!」
「輝李!…ッ!!」
乙は埒の空かない輝李を痛む腕をも使い、引き寄せるとその唇を重ね、やがて唇が離れると少女を抱きしめた。
輝李は乙の胸の中で泣いた。
今まで流せなかったものを吐き出すように、それはいつまでも止まることはなかった。
中に入ると乙がベッドに首をもたげ俯き加減に座っている。
「…乙」
輝李は静かな声で名を呼んだ。
いつものトーンより低めで、感情が読み取りづらい。
乙は、微かに顔をあげると口を開いた。
「……野中のことなら…」
そこまで言った時だった。
「クッ…」
輝李は拳を握り、怒りをあらわにし右手を挙げると思い切り振りかぶった。
───バシンッ!!!
輝李の平手が乙の頬を捕らえる。
それは、あまりに強い衝撃だった。
今までにない程に…。
乙は、切れた口元を左の手の甲で押さえ、目線をあげた。
「はぁはぁ…はぁはぁ…」
輝李は息を切らし、その最後のポーズのまま睨み付けていた。
次の瞬間、輝李が見せた顔は憎しみではなく、哀しみを必死で堪えた表情だった。
見ていて胸が苦しくなるほどの…
『こんな時でも乙は、僕を見ようとはしないんだ…。
ただ…野中の罪の意識だけ…』
何を言うわけでもなくジッと乙を見つめていたが、やがて言葉を詰まらせ何かを振りきるように、その場を後にした。
「ッ…」
「ッ!!!」
その瞳から数粒の小さな真珠が主を離れ、宙を舞った。
『何も変わらない…
あの頃と…乙の中には僕なんて居ないんだ…
僕の居場所なんか…』
しかし、部屋を出ようとドアに向かった輝李の腕を直ぐ様追いかけてきた乙の腕が掴んだ。
「輝李!!」
「放してよっ!!!」
強い口調は腕を払おうとしたが、乙はそれ以上の力で連結を留めた。
今にも泣いてしまいそうになるのを必死で耐えている輝李を乙は呼び止めた。
胸が苦しくなる。
乙は、いつも輝李が必要とした時、優しさを差し伸べる。
それは最も渇望している事…。
そして…輝李にとっては最も残酷で苦しくなる事。
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「放してったら!!」
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