【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

トラップチャンス

トラップチャンス10

コンコン…


ドアが開くとそこに居たのは乙とソファーに横たわる瀾が飛び込んできた。
輝李は、部屋の中の瀾をチラリと見ると静かに口を開いた。

｢…見たんだね…
野中 瀾のあの姿を…｣
｢………｣

瀾を連れ帰るため、輝李が部屋に入ってくると乙も静かに口を開く。

｢…お前、一体何が目的なんだ
何でこんな事になってる
一体、瀾に何をしたんだ!!｣

声を荒げた乙に、輝李は鋭い視線を向け、その手を乙の頬に飛ばした。

｢ﾂ!!!｣
｢…言ったでしょ…。
僕は野中 瀾を回収しただけ…。
野中 瀾を回収した時には、こうなっていた。
記憶もない、夜には発作を起こす…
これが乙が野中 瀾に下し、DOLLオークションでボロボロにされた女の現実だよｯ!!!｣
｢!!!｣
｢…もっと苦しめばいい…
乙が捨てた僕と同じように…
乙の大切な物は全て奪ってやる!!
僕以上に苦しめばいいんだ!!｣

輝李は、瀾を抱え部屋を出ていく寸前に静かに言葉をはき捨てた。


｢これ以上…
野中 瀾に近づくな…｣

瀾を抱き抱え、廊下を歩きながら気を失っている瀾に口をついた。


｢…外には出るなと言っただろう。
傷付くのはお前だ…｣


自室に戻り、瀾をベッドに寝かせると暗い部屋の中、輝李は壁にもたれ腰を落とした。
乙を打った手がジンジンと痛む。

そして、その心も引き裂かれるような痛みと苦しみが胸を掴み、輝李は顔を歪め、胸の衣類を掴んだ。


｢…ｯ!!｣

あんな事を言うつもりではなかった…。

《[これが乙が野中 瀾に下しDOLLオークションでボロボロにされた女の現実だよｯ!!!]》

自分で言った言葉が胸を突き、心臓と肺を圧迫する。


｢…ｯ…痛い…痛いよ…乙｣

顔を仰ぎ、呼吸さえ苦しく胸を掴む輝李の頬を苦い雨が伝う。
そんな時、柔かな手が輝李の頬をそっと添えた。

｢…怖く…ない…｣

それはいつの間にか起きていた瀾自身だった。
目は虚ろなまま言葉を繰り返す。

｢…怖く…ない…
大丈夫…怖くナい…
傷ツケル…ココニ…イナイ
…言ッテ…タ…私ノナマエ…
大丈夫…コワク…ナイ…｣

その言葉は乙が瀾に言った言葉だった。
瀾は輝李を人形的に抱き締めると繰り返した。


｢コワクナイ…大丈夫…
コワクナイ…コワク…ナイ｣


その言葉に輝李は更に胸が締め付けられたが、目の前の人形を強く抱き締めた。

｢…馬鹿…お前が言うな…｣

瀾の声は朝靄の中、その言葉を溶かすように奏でていた。


｢大丈夫…コワクナイ…
傷ツケル…此処ニ居ナイ…｣