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トラップチャンス
トラップチャンス8
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瀾の姿を見て蒼白の乙の顔を見たあの日から、乙の様子は一変した。
神流が何を話し掛けても乙は、何か思い詰めた表情を浮かべたまま一言二言答えるだけ。
そんなある日、移動教室の最中だっただろうか。
相変わらず懸命に話し掛ける神流だったが、乙が不意に足を止めた事に気が付いた。
「乙?どうし…」
そこまで神流が口にすると、乙がジッと見つめる先にこの間、輝李と共にいた少女がいた。
少女は、沢山の書物を両手で抱え、閉まったドアと問答しているようだった。
「……」
小さなため息が神流の耳を通る。
見ると乙は物悲しい眼差しを向け、辛そうに目を伏せると少女の元へ歩きだし、無言のまま流れるようにドアを開けて通りすがったのだ。
「乙…」
神流は、ふと以前乙が言った言葉を思い出した。
《「帰る必要がなくなった…」》
痛々しい程の少女に向ける乙の眼差し…。
それは、ただの後輩に向けるものではなかった。
そして、輝李が編入してまだ僅かな月日に寮で見かけた輝李に食って掛かったていた乙。
「…まさか…!!」
神流は口元に手を添えて思考を巡らさずにはいられなかった。
神流は、少し目を細めると移動教室ではなく、輝李の教室へと足早に向かった。
廊下で輝李を見つけると呼び止め、人通りの少ない廊下の踊り場へと移動する。
「木田さんから僕に用事なんて珍しいね
また何かあったの?」
輝李の言葉に、神流は少し切り出しにくそうに口を開く。
「最近、乙が元気がないだ…」
「そう」
輝李は哀しげに答えるでもなく、意外にもアッサリと答えた。
あの夏の日には、あんなにも哀しげに笑っていたと言うのに。
神流は少し真顔に輝李に問い掛けた。
「随分アッサリしてるんだね。
まるでそうなる事を知っているような反応なんだな」
「…何が言いたいの?」
「乙があんな風になったのは、君といつも一緒にいる彼女に会ってからだ。
それに…編入当初は、毎週実家に帰っていた。
それなのに急に帰らなくなったと思ったら、次に君が編入して来て、輝李ちゃんと会った時だっておかしかった。
もしかして、あの子は乙の…」
そこまで言うと、輝李は目を伏せて鼻で笑った。
「フッ…木田さん
1番近いクラスメイトの貴女が乙の事を心配するのは解るけど、変な勘繰りは感心しないと思うけどなぁ」
素知らぬ輝李に、神流はつい感情的に両手で輝李の肩を掴み、詰め寄った。
「私は、君達の事を乙から聞いているんだ!!
あの時、乙はとても哀しそうな顔で君の話をしていた!!
『恨まれてるかもしれない』と!!
それでも君は『一番の理解者』だとも言っていたんだ!!
君達の中で他にも何かがある事くらい見ていれば解るよ!!」
「…だから?」
「…ッ!!…だからって…君は乙の事が心配じゃないのか!?
愛していたんだろう!!
それとも乙に対して、もう何も感じないのか!!
本当に恨んでるって言うのか!?」
その言葉に輝李は俯くと小さく口をついた。
「…木田さん…」
そう言うと右手で神流の腕を掴み、鋭く鈍い光を放ち、冷たい形相へと姿を変える。
「…これは僕と乙の問題だ。
乙が僕をどう思っていようが関係ないんだよ…」
「!!!!」
そのか細い腕からは想像できないような力で、ギリギリと神流の腕を絞めあげる。
そして輝李は続けた。
「僕は乙とは違う…
性格も愛し方もね…
悪い事は言わない…これ以上、この事に首を突っ込むな…
乙の事を思うなら尚更ね。
でないと…
君自身が乙に心配をかけてしまうよ…?
言っておくけど、僕は忠告はした。
次は優しくするわけにはいかなくなるよ…
…木田 神流さん…」
血の気が引くほどの冷徹な瞳。
初めて見る輝李の表情に神流は、去りゆくソレに口を開く事すらなく見送ると静かに教室に戻っていった。
神流の側から離れポケットに手を突っ込んだまま輝李は目を伏せた。
あの時の今井の言葉が頭に響く。
《「輝李様が本当に8-[エイトアンダー]を動かしたいのであれば、その優しさを捨てる事です。
…命取りになりますよ。
技量・度胸も去る事ながら、指揮するに価する器も養わなければならない」》
『これ以上、誰かを巻き込むわけにはいかない…。
そのために…僕は優しさを捨ててみせるよ。
僕に関われば木田さんだって小野崎に目を付けられるかもしれない。
それに…僕には守らなきゃいけないものがあるんだ。
母様との約束…。
母様が僕に託したものを、絶対になくすわけには行かないんだ。
例え、乙や他の人間に恨まれたとしても…』
輝李は誰もいない静かな廊下に佇み、空を見上げた。
「母様…僕は、間違っているのかもしれない。
でも…僕には僕のやり方がある。
きっと取り戻してみせるよ…
貴女の一番望んでいた宝物を…ね」
神流が何を話し掛けても乙は、何か思い詰めた表情を浮かべたまま一言二言答えるだけ。
そんなある日、移動教室の最中だっただろうか。
相変わらず懸命に話し掛ける神流だったが、乙が不意に足を止めた事に気が付いた。
「乙?どうし…」
そこまで神流が口にすると、乙がジッと見つめる先にこの間、輝李と共にいた少女がいた。
少女は、沢山の書物を両手で抱え、閉まったドアと問答しているようだった。
「……」
小さなため息が神流の耳を通る。
見ると乙は物悲しい眼差しを向け、辛そうに目を伏せると少女の元へ歩きだし、無言のまま流れるようにドアを開けて通りすがったのだ。
「乙…」
神流は、ふと以前乙が言った言葉を思い出した。
《「帰る必要がなくなった…」》
痛々しい程の少女に向ける乙の眼差し…。
それは、ただの後輩に向けるものではなかった。
そして、輝李が編入してまだ僅かな月日に寮で見かけた輝李に食って掛かったていた乙。
「…まさか…!!」
神流は口元に手を添えて思考を巡らさずにはいられなかった。
神流は、少し目を細めると移動教室ではなく、輝李の教室へと足早に向かった。
廊下で輝李を見つけると呼び止め、人通りの少ない廊下の踊り場へと移動する。
「木田さんから僕に用事なんて珍しいね
また何かあったの?」
輝李の言葉に、神流は少し切り出しにくそうに口を開く。
「最近、乙が元気がないだ…」
「そう」
輝李は哀しげに答えるでもなく、意外にもアッサリと答えた。
あの夏の日には、あんなにも哀しげに笑っていたと言うのに。
神流は少し真顔に輝李に問い掛けた。
「随分アッサリしてるんだね。
まるでそうなる事を知っているような反応なんだな」
「…何が言いたいの?」
「乙があんな風になったのは、君といつも一緒にいる彼女に会ってからだ。
それに…編入当初は、毎週実家に帰っていた。
それなのに急に帰らなくなったと思ったら、次に君が編入して来て、輝李ちゃんと会った時だっておかしかった。
もしかして、あの子は乙の…」
そこまで言うと、輝李は目を伏せて鼻で笑った。
「フッ…木田さん
1番近いクラスメイトの貴女が乙の事を心配するのは解るけど、変な勘繰りは感心しないと思うけどなぁ」
素知らぬ輝李に、神流はつい感情的に両手で輝李の肩を掴み、詰め寄った。
「私は、君達の事を乙から聞いているんだ!!
あの時、乙はとても哀しそうな顔で君の話をしていた!!
『恨まれてるかもしれない』と!!
それでも君は『一番の理解者』だとも言っていたんだ!!
君達の中で他にも何かがある事くらい見ていれば解るよ!!」
「…だから?」
「…ッ!!…だからって…君は乙の事が心配じゃないのか!?
愛していたんだろう!!
それとも乙に対して、もう何も感じないのか!!
本当に恨んでるって言うのか!?」
その言葉に輝李は俯くと小さく口をついた。
「…木田さん…」
そう言うと右手で神流の腕を掴み、鋭く鈍い光を放ち、冷たい形相へと姿を変える。
「…これは僕と乙の問題だ。
乙が僕をどう思っていようが関係ないんだよ…」
「!!!!」
そのか細い腕からは想像できないような力で、ギリギリと神流の腕を絞めあげる。
そして輝李は続けた。
「僕は乙とは違う…
性格も愛し方もね…
悪い事は言わない…これ以上、この事に首を突っ込むな…
乙の事を思うなら尚更ね。
でないと…
君自身が乙に心配をかけてしまうよ…?
言っておくけど、僕は忠告はした。
次は優しくするわけにはいかなくなるよ…
…木田 神流さん…」
血の気が引くほどの冷徹な瞳。
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それに…僕には守らなきゃいけないものがあるんだ。
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