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トラップチャンス
トラップチャンス7
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やがて春がくる頃…
輝李は最高学年になった。
輝李達の通う学院は四年制だ。
そして、その上には聖高学といういわば大学的なものが3年ある。
日本にとっては特殊なシステム故にそのまま別の大学を受ける生徒は少ない。
新一年生と同じく二年の編入生として瀾は、輝李と同じ学院に入った。
その日、瀾は初めて着る学生服に胸を躍らせて緊張ぎみに輝李と共に学院長のもとへ挨拶に行った。
やがて、入学式に出るため担当の講師がやってきて瀾を連れていくと輝李は学院長に静かに口を開く。
「学院長…、今回は無理を通して戴いて感謝します」
「…構いません。
貴女方のお母様の桜子さんには生前、多額の寄付金や他にも大変お世話になりましたから…」
「いえ、母もこの学院には大変お世話になったお礼だと言っておりました。
お気になさらないで下さい」
「貴女を見ていると学生時代の桜子さんを思い出すわ」
「母を…」
「ええ、優しい笑顔の中に何処か寂しそうな瞳がね。
ご事情があるのはすぐに解りました。
何か大変な事を抱えてらっしゃるの?
何かあるのならいつでも言いにいらしてね」
「いえ、問題ありません。
ご心配ありがとうございます」
それだけ言うと一礼して院長室を出た。
入学式が終わり、輝李が瀾の教室に向うと瀾は居なく、廊下を歩いていると瀾を見つけた。
「こんな所に居たんだ、探しちゃったよ♪」
瀾が振り返る。
目の前には瀾と乙がいた。
乙はやはり動揺を隠せない表情をしていた。
「輝李…」
そんな乙をよそに輝李は、瀾の手を取ると立ち上がらせ、にっこりと微笑むと瀾に優しく問い掛けた。
「どうしたの?」
「輝李さん、あの…私ぶつかってしまって…」
「そう、大丈夫だった?」
「はい♪」
「そうだ、ちょうど良いから紹介するね。
君がぶつかったのは月影 乙。
僕の双子の姉だ」
そこまで言うと、輝李は乙に視線を移し、鈍く光を放ちニヤリと笑うと口を開いた。
「乙…今日からこの学院に入った【野中 瀾】ちゃんだ…
仲良くしてあげてね」
途端に瀾が恐る恐る乙に話し掛けた。
「野中 瀾です…
あの…【はじめまして】…
さっきはご免なさい」
「…ああ…」
乙の拳に思わず力が入る。
乙は輝李を少し瀾から遠ざけると低い声でポツリと口を開く。
「どういうつもりだ…」
輝李も目を鋭く乙に答える。
「何の事…?」
途端に乙は声を少し荒げた。
「とぼけるな!!!
…これも、8-[エイトアンダー]の仕事なのか…」
乙の言葉に輝李は諦めたように鼻で笑うと問いに答えた。
「なんだ、知ってたの。
…そうだよ、これが僕の仕事だ」
「…ッ、お前、瀾に何をした。
何でお前が瀾と一緒にいる」
「回収しただけだ。
何をしたかなんて乙には関係ないだろ?クスクス」
「お前!!!」
乙の腕が輝李の襟元を掴むと、それまで妖しく頬笑んでいた輝李の顔がガラリと変り、鋭い眼差しを向けた。
「前、言ったはずだろ…
大切なものは手放すなと…
僕は約束は守ったよ」
「何だって…」
輝李は乙の肩にそっと、手を置くと耳元で悪魔のように甘美に囁いた。
「どうせ遊びだったんだろう…?
何故オークションに出したんだ?
壊れたと思ったからか?
もう守る価値が無いと…クスクス。
僕はちょっとした切っ掛けを作ったにすぎない…。
野中 瀾の運命を決めたのは乙…
乙は野中 瀾を捨てたんだ…クスクス」
その言葉に乙の胸はドクンと鳴り、目を見開いた。
輝李は乙から離れると去りぎわに言葉を捨てる。
「僕はその野中 瀾を拾ってきた。
僕がアイツをどうしようと僕の勝手だろう…?
何なら僕から野中 瀾を奪い返してみれば?
…楽しいゲームになると思うよ。
クスクス…僕に勝てるならだけど?
クスクス…クスクス」
輝李は目を伏せ、ポケットに手を突っ込むと乙から瀾の方に歩いて行く。
『乙…取り戻して…
僕の宝物を…僕が本当に欲しい
だった1つの…』
輝李は最高学年になった。
輝李達の通う学院は四年制だ。
そして、その上には聖高学といういわば大学的なものが3年ある。
日本にとっては特殊なシステム故にそのまま別の大学を受ける生徒は少ない。
新一年生と同じく二年の編入生として瀾は、輝李と同じ学院に入った。
その日、瀾は初めて着る学生服に胸を躍らせて緊張ぎみに輝李と共に学院長のもとへ挨拶に行った。
やがて、入学式に出るため担当の講師がやってきて瀾を連れていくと輝李は学院長に静かに口を開く。
「学院長…、今回は無理を通して戴いて感謝します」
「…構いません。
貴女方のお母様の桜子さんには生前、多額の寄付金や他にも大変お世話になりましたから…」
「いえ、母もこの学院には大変お世話になったお礼だと言っておりました。
お気になさらないで下さい」
「貴女を見ていると学生時代の桜子さんを思い出すわ」
「母を…」
「ええ、優しい笑顔の中に何処か寂しそうな瞳がね。
ご事情があるのはすぐに解りました。
何か大変な事を抱えてらっしゃるの?
何かあるのならいつでも言いにいらしてね」
「いえ、問題ありません。
ご心配ありがとうございます」
それだけ言うと一礼して院長室を出た。
入学式が終わり、輝李が瀾の教室に向うと瀾は居なく、廊下を歩いていると瀾を見つけた。
「こんな所に居たんだ、探しちゃったよ♪」
瀾が振り返る。
目の前には瀾と乙がいた。
乙はやはり動揺を隠せない表情をしていた。
「輝李…」
そんな乙をよそに輝李は、瀾の手を取ると立ち上がらせ、にっこりと微笑むと瀾に優しく問い掛けた。
「どうしたの?」
「輝李さん、あの…私ぶつかってしまって…」
「そう、大丈夫だった?」
「はい♪」
「そうだ、ちょうど良いから紹介するね。
君がぶつかったのは月影 乙。
僕の双子の姉だ」
そこまで言うと、輝李は乙に視線を移し、鈍く光を放ちニヤリと笑うと口を開いた。
「乙…今日からこの学院に入った【野中 瀾】ちゃんだ…
仲良くしてあげてね」
途端に瀾が恐る恐る乙に話し掛けた。
「野中 瀾です…
あの…【はじめまして】…
さっきはご免なさい」
「…ああ…」
乙の拳に思わず力が入る。
乙は輝李を少し瀾から遠ざけると低い声でポツリと口を開く。
「どういうつもりだ…」
輝李も目を鋭く乙に答える。
「何の事…?」
途端に乙は声を少し荒げた。
「とぼけるな!!!
…これも、8-[エイトアンダー]の仕事なのか…」
乙の言葉に輝李は諦めたように鼻で笑うと問いに答えた。
「なんだ、知ってたの。
…そうだよ、これが僕の仕事だ」
「…ッ、お前、瀾に何をした。
何でお前が瀾と一緒にいる」
「回収しただけだ。
何をしたかなんて乙には関係ないだろ?クスクス」
「お前!!!」
乙の腕が輝李の襟元を掴むと、それまで妖しく頬笑んでいた輝李の顔がガラリと変り、鋭い眼差しを向けた。
「前、言ったはずだろ…
大切なものは手放すなと…
僕は約束は守ったよ」
「何だって…」
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だった1つの…』
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小説が音声と映像で流れ出す!?
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