【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

トラップチャンス

トラップチャンス6

瀾を寝かし付けると、輝李は自室のベッドの上でシャンパンを見つめていた。

その夜の月は、まるで深いルビーのような紅色を放っていた。
青黒い空を紅く染まる月は、まるでこれからの出来事を予知するように、その存在感をあらわにしていた。

輝李はシャンパンを月に翳すと、それはまるで血が滲んだように悲しく威圧感のある色に染まり溶けていく。

｢乾杯、乙…
僕が欲しいたった一つのものだけは…誰にも譲らない。
例え、どんな償いが待っていようと…｣

そう言うとシャンパンを一気に飲み干した。


カチ…カチ…カチ…カチ…

時計の音が生々しく響く中、輝李はチラリとその針を見ると目を伏せる。

｢…そろそろか。
５…４…３…２…１…｣


カチャ…

０のカウントダウンと同時に、輝李の部屋のドアが静かに開いた。

『…来た!!』

ユラリユラリと輝李のベッドに人影が近づいてくる。
輝李は瞳に鈍い光を帯びさせ、悪魔の笑みを浮かべるとサディスティックに口を開いた。

｢いつものように可愛がって欲しいのか？
…野中 瀾…｣


輝李の首を締めたあの日から、瀾は夜中になるとフラフラと輝李の部屋にやってくる。
その瞳には光はなく、まるで壊れかけた人形のように輝李に縋ってくる。

｢ご主人…さ…ま…｣
｢気やすく触るな…｣

昼間の温かさを一変するように冷たく言葉を放つと、瀾は再び輝李の首筋へ縋る。

｢ご主人…さま…欲しい…｣
｢…見て解らないのか？
僕は今、シャンパンを楽しんでいるんだ、邪魔するな。
ヤりたきゃ勝手に１人でヤッてればいいだろ｣

腕で瀾を払うとベッドに横たわり瞬きすらする事なく、ひたすら同じ言葉を繰り返す。

依存は薬だけではなかった。
瀾の体には、しっかりと調教された傷跡が今も依存という形で刻まれていたのだ。
そして、その原因は輝李にも責任がないわけでもなかった。
あの時、瀾に使った１つの薬は一時的に身体を過敏にして意識を飛ばす媚薬だった。
そのトランス状態で、ある仕掛けを施したのだ。
それがまさかトランス中にDollオークションに送られてしまうとは計算外の事態だった。

輝李の計画は小野崎 宗一の関与により余計な要素が入ってしまい、思っていたより重症になってしまった。

｢ﾊｧ…解ったよ!!
見ててやる。
しっかり身体の準備しておけ…｣

シャンパンを口にしながら肩肘をつき、何度も自分で身体を諫めている瀾を輝李はため息混じりに見つめていた。

やがて瀾が再び縋ってくると、仕方なく瀾を抱く。
もう、何度抱いたか解らない。
毎日毎日、夜中にやってきては何度も繰り返される遊戯。
それは瀾が失神するまで絶える事なく続くのだ。
翌日、夜中の出来事は、瀾の記憶には一切残っていない。

首を締めあげられたあの日、瀾の瞳には自分はどんな風に映っていたのだろうか…。

双子の姉の乙の面影…
小野崎 宗一の冷徹な瞳…

殺意と愛慕(ｱｲﾎﾞ)の混ざったその愛撫のキスは、棘の中に咲く小さなピンクローズを思わせるようだった…。

そんな瀾の快楽に疲れた寝顔を見つめると、輝李は微かな気紛れを起さずには居られなかった。
輝李は目を伏せると低い声で、瀾の耳元に囁いた。

｢瀾…せめて夢の中で〔俺〕を捕まえてくれ…｣

その記憶にはない懐かしい声に瀾は、眠りながら一粒の真珠を閉じた瞼に浮かべて、また夜の記憶を鎖すのだった。