【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

トラップチャンス

トラップチャンス4

｢…瀾ちゃん？｣

輝李が瀾の顔を心配そうに覗き込むと由佳が輝李の肩に手を置いた。

｢輝李様…｣

由佳は静かに目を閉じると小さく首を振った。
輝李はそんな由佳を見ると、瀾に話し掛ける。

｢…ごめん、何だか困らせちゃったみたいだね。
すぐに決めなくていいから考えておいてくれるかな？
無理強いするつもりはないだ｣

少し困った顔で輝李が弁解すると、瀾は俯いたまま小さく頷いた。
２人をソファーにすわらせ、輝李が紅茶を入れに行くと、由佳は優しく瀾に話し掛けた。

｢野中 瀾さん｣
｢は…はい…｣
｢私は、佐伯 由佳と言います。
突然で驚いたでしょう？｣
｢はい…｣

瀾は、俯き気味に不安そうに緊張気味に由佳を見た。
そんな瀾を由佳は優しく見つめる。

｢恐がらなくて良いわ。
事情は聞いて承知しているから。
突然、お勉強と言っても戸惑うでしょ？
まずはお互いの事を知って仲良くならなくちゃ｣
｢…ええ…｣
｢じゃあ、一番最初の授業はお話をしましょう。
私は、輝李様が小さな頃から、あの方の家に仕えてきた者です。
だから貴女の事も伺ってます。
貴女の事を話す輝李様は、とても楽しそうで…｣
｢え…？輝李さんが…｣

輝李が紅茶を運んでくる頃には、由佳と瀾はすっかり打ち解けていた。

｢ええ!!輝李さんが!!｣
｢ｸｽｸｽ、ええ
本当に天真爛漫で散々困らせられましたよ｣

さすがは由佳だ。
瀾がメイド時代、２人は新人とベテラン。
ほとんど接点は無かっただろう。
しかし、教育係で何度か仕事をした事があるのかもしれない。
瀾の性格を見事に捕らえ、話しやすい雰囲気に持っていく。
やはり年の功というやつだろうか。

輝李は、安堵の息をつき２人に割って入った。

｢由佳。何、瀾ちゃんに余計な事吹き込んでるのぉ？｣
｢輝李様。いいえ、別に余計な事など言っていませんよ。
ただ、よくお稽古から抜け出して私を困らせた話を｣
｢それが余計な事なの!!｣

そんな２人のやり取りに瀾はまたコロコロと楽しそうに笑顔になる。
日も傾くと、マンションの玄関先で、由佳は瀾に口を開いた。

｢それでは輝李様、瀾さん、
明日また参ります｣
｢はい、よろしくお願いします｣

瀾はお辞儀をして手を振ると、由佳もニッコリと上品に手を振り、マンションを後にした。