【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

Silence

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それぞれの想い

それぞれの想い2

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いくら輝李きりがまだ体力の有り余る若さだと言っても、学生としての単位取得と8-エイトアンダーの業務、なみの看病をこなすというハードスケジュールは、徐々に輝李の体力を奪っていった。
ただでさえ看病とは、看病される側よりもする側の体力と精神力への消耗は激しい。
まして瀾は依存症のうえ、記憶喪失だ。
その看病は、輝李にとっても簡単な事ではなかった。

そんなある日、夏休みが近くなった頃それは突然やってきた。


学院に1人の訪問者が、きのとを訪ねてやってきたのだ。
たまたま呼び出しを託された生徒の近くを輝李きりが通りかかり、窓から外を見ると見知らぬ他校の青年が立っている。
どう見ても乙の知り合いとは思えなかった。
何故なら乙の知り合いならば、今まで絶えず一緒にいた輝李が知らないわけはなかったからだ。

『いやな予感がする…』

その輝李の読みは当たっていた。
学院の校門へ向うと、その青年の目付きは友好的でない事は見ればすぐに解る。
青年は、威嚇的に笑みを浮かべると口を開いた。

「…よう」
「……」

輝李は青年に向け、口を開いた。

「…何か用?」
「ああ、ちょっとアンタに聞きたい事があんだよ」

少し長めの髪に外へ流したカット、身長は輝李とさほど変わらず顔立ちの整った今どきの青年だが、素行は決して良くはなさそうだ。
このままここに居れば、騒ぎになるのも時間の問題だった。

「何の用があるかは知らないけど、ここじゃ目立ち過ぎる。
場所を変えよう」

そう言うと輝李は、校舎脇の人気の少ない所へ案内した。
青年も大人しく着いてくる。


「…それで?何の用なの?」

輝李きりが冷たく口を開くと、青年は輝李の顎に手を添え、鼻で笑う。

「フッ…、もっと骨のあるゴツイ奴を想像してたけど案外華奢なんだな。
まぁ、お嬢様が集まる女子校だしな。
案外、可愛い顔してんじゃん」

バシッ!!

不意に輝李は、青年の手を払いのけ威嚇的に口を開いた。

「…気やすく触るな。
僕に触れていいのは1人だけだ」
「へぇ…、気は強いみたいだな」
「…わざわざ、そんなくだらない事を伝えに来たわけ?
用がないなら僕はこれで」

苛々としながら、輝李が背を向け歩きだした時だった。

「バラされてもいいのか?
アンタの秘・密…」

青年のその言葉に足を止め、耳だけを微かに向けると静かに輝李は口を開いた。

「…何の事…?」

すると、青年は再び挑発的な笑みを浮かべ話し始めた。

「実は俺のダチの知り合いに【小野崎おのざき 鈴音りんね】って子がいるんだけどさぁ」
「……」

『…やっぱりか』

輝李は青年に背を向けたまま、その目付きは鋭くなる。

「…それがどうしたの?」
「ダチは小野崎 鈴音と手紙のやり取りをしていた。
海外留学した後もな。
そこに書いてあったんだよ。
『彼氏が出来た』ってな。
そいつの名前は月影つきかげ きのと
でも、ある日を境にプッツリ連絡が取れなくなった。
そしたらは日本に帰ってきてるって話じゃないか」

やはり青年は、乙の知り合いではなかった。
青年は、話している。
輝李は内心、好都合と心の中で笑みを浮かべた。

「留学には期間があるんだ。
1人で帰ってきても不思議じゃないだろう?」

そう言うと、やっと青年の方を威嚇的に微笑み向いた。
しかし、青年も意味ありげに微笑んで口を開く。

「でも、そのすぐ後だ。
噂で鈴音りんねって子が事故で死んじまったってダチが聞いたのは。
心配したダチは、病院を尋ねたが#《》と言われたそうだ。
ダチは、知り合いに頼んで小野崎ルビ 鈴音りんねの消息を調べてもらった。
そしたら、小野崎 鈴音の情報は何一つ手掛かりすら出て来ない。
挙げ句の果てには、戸籍からも小野崎 鈴音という人物はというじゃねぇか。
おかしいと思わねぇ?
……んだろ?」

そこまで言うとニヤリと青年は、笑みを見せた。

『…チッ、面倒なのに付き纏われたもんだね。
全く次から次へと…イライラする!』


輝李は静かに目を伏せると、諦めたようにフッと笑ってみせた。

「…そう…。
君は、鈴音の知り合いなの…。
それじゃ仕方ないね。
君には知る権利がある。
…だから教えてあげるよ…」
「へぇ…。キツいわりには案外優しいんだな、アンタ。
まぁ、弱味を俺に握られてんだ、当たり前か」

青年は、ニヤリとほくそ笑む。
輝李きりは、静かに語りだした。

「この世には、って言うのがあるんだって…」
「はぁあ?何いってんだ?
アンタどっかおかしくなったのか?」
「…つまり、こういう事だよ!!」

そこまで言い終えぬうちに輝李は、青年へ膝蹴りを繰り出したが、意外にも青年に見切られ停められてしまった。

「フッ…俺も舐められたもんだねぇ。
悪いけど修羅場の数は、それなりに潜り抜けてきてんだよ。
甘かったな、お・嬢・さ・ん」
「フッ、こっちも修羅場なら身に染みてるよ。
甘いのはそっちだ!!」

その途端に輝李は青年の顎に掌底を食らわし、ぐらついた相手の足を素早くしゃがみ、払うと青年の胴に馬乗りになった。
輝李きりの瞳には、悪魔の鈍い光が光っていた。

「世の中にはってのが有るんだよ。
あんまり首を突っ込むと…命がいくら有っても足りないよ?」

そこまで言うとニヤリと微笑み、制服のジャケットの内ポケットからナイフを取り出し、振り上げ続けた。

「…バイバイ…お馬鹿さん♪」

ギラリと光る先端は、青年へ向けて勢い良く下降する。
しかし青年は、この状況下の中で輝李から視線を外さなかった。

「チッ!!!」



パシッ!!


刃先が相手の体を貫く寸での所で、輝李きりの腕を掴む人物が居た。
それは他でもないきのとだった!!
乙は静かに口を開く。

「…止めておけ」
「乙!!」

突然現れた乙に驚く輝李は、仕方なく相手から降りるとナイフをしまった。
下になっていた青年は、ムクッと起き上がると、その場で座り込み鋭い眼光で睨むと言葉をついた。

「…月影つきかげ きのとか」
「ああ。…アンタは?」

乙が静かに口を開くと、その人物は答えた。

「…小田切ルビ 隼人はやと
「小田切…隼人、そうか。
…悪いが勝負はお預けだ。
コイツは俺が貰っていく」
「…逃げるのか?乙さんよぉ」

一瞬、乙の眉間が動いたが、すぐに冷静さを取り戻し答えた。

「…いずれ必ず、借りは返しに行く」

それだけ言うと輝李の手を引き、その場を立ち去った。

「…チッ。上手く逃げられたな」

隼人はそう零すと学院を後にした。
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