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それぞれの想い
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※1)小説『アールグレイの昼下がり ー双子の姉・乙編ー』
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野中 瀾の昏睡状態は、しばらく続いた。
その間、授業は休むことなく出ていた輝李だったが、寮への長期外出届けを出し、事務所の近くにマンションを借り学院と病院、そして8-への往復が続いた。
由香のリハビリも順調に進んだ頃、野中 瀾の意識が戻ったとの連絡を受けた。
その頃には、2人が入院して既に半月が過ぎていた。
足森と共に瀾の病室に向うと、看護師に支えられながらも起き上がってはいたが、今まで点滴だけの栄養摂取だった瀾の身体は衰弱仕切っていて、げっそりとしている。
「これが…野中 瀾…」
今まで寝たきりの顔しか見ていなかった輝李は、折れそうな程の瀾の腕を見て、思わず言葉に詰まった。
力なく輝李を見つめる瀾の瞳には、不思議と怯えた色は伺えなかった。
輝李に出会った時の衝撃は、小さなものではなかったというのに…。
「意識が戻ったようだね…」
輝李が小さく尋ねると瀾は、弱々しく答えた。
「…あの…ここは…」
「…病院だよ。
運ばれてから半月、目を覚まさなかった」
静かに淡々と輝李が答えると瀾は、少し納得したように、また口を開いた。
「そう…ですか…。
私…病気なんですか…?
きっと何処かで倒れてしまった所を助けて頂いたんですね。
ありがとうございました…」
「…何を言ってるの…?」
「あの…貴方のお名前を…教えていただけませんか?」
その言葉に輝李と足森は、目を合わせ困惑の色を隠せなかった。
「… 野中 瀾、僕を…覚えていないの?」
「え…」
輝李が口を開くと瀾は、呆然としながら不安そうに顔を曇らせた。
「私の…お知り合いの方なん…ですか…?」
「!!!!」
その後、ドクターの診断結果を聴くために別室へと移動すると…
「記憶喪失!?」
「…はい。おそらく後遺症か、あるいは精神的なものかと…」
「…そう。喪失の状況は?」
「まだ、詳しい検査をしてみなくては断定は出来ませんが、ここ最近の1年程の軽いものだと思います」
「僕達の家に奉公していた時の記憶がスッポリ抜けているってワケね。
つまり月影の関わりが記憶には一切ない、と。
記憶が戻る見込みは?」
輝李の質問にドクターの顔は少し影をおとし曇りをみせた。
「今のところは何とも…。
一時的なものならば、そう時間はかからないと思いますが、精神的なものであるならば…」
「…思い出したくない記憶と言うわけね」
そこまで聞くと輝李は目を伏せて呟いた。
確かに今の記憶は、瀾にとって思い出したくないのは当然だろう。
輝李に強姦された挙げ句、最愛の人間にDollオークションに送られ、その後は、生き地獄を見たに違いない。
ドラッグ漬けにされて…。
ドクター室を出ると、輝李は小さく口をついた。
「今の野中 瀾には、思い出さない方が身のためなのかもしれないな…」
それから輝李は、授業が終わると闇の仕事をしながらも足繁く瀾の病室に通っては、出来る限りの看病の世話をするようになった。
勿論、過去の記憶には触れることなく。
しかし、ドラッグ中毒に蝕まれた身体は容易ではなかった。
依存への激しい欲求に暴れだす事もしばしばで、酷い時にはベッドへの拘束も余儀なくされた。
ワケも解らず襲い掛かる強い依存症は、瀾を混乱させ、錯乱させる。
その瀾の様子は、誰もが思わず目を背けたくなるような壮絶なものだった。
目の焦点は合っておらず、発狂しながら形相すら尋常なものではない。
しかし、その原因すら瀾には解らないのだ。
我に返ると原因不明の依存症と不安に恐怖すら覚え錯乱状態になる。
これが…現実である事を認めたくないくらいに瀾にとっては、地獄の日々が繰り返される。
その傍で目を背ける事なく、輝李はリハビリと看病に勤めた。
ある時、瀾は泣きながらも輝李に尋ねた。
「あの…どうして、こんなに一生懸命に私の傍に居てくれるんですか…?」
「……」
「私、どうなっちゃうんですか?
こんなに毎日わけも解らない何かの依存に襲われて、何も思い出す事すら出来ない!!
こんなに苦しいなら、いっそ死んでしまいたい!!!!
うわぁあぁん、苦しいの!!
もう、何もかも苦しい!!」
輝李は、一瞬目を伏せると激しく泣く瀾の頬に手を添えて顔を上げさせると言葉をついた。
「僕を信じろ…きっと治るから」
「ウッ…ヒック…月…影さん…」
「…輝李でいい…」
「うわぁあぁん」
その言葉を聞くと瀾は、輝李の胸で激しく泣いた。
輝李は、そんな瀾を優しく抱き締め、頭を撫でたのだった。
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野中 瀾の昏睡状態は、しばらく続いた。
その間、授業は休むことなく出ていた輝李だったが、寮への長期外出届けを出し、事務所の近くにマンションを借り学院と病院、そして8-への往復が続いた。
由香のリハビリも順調に進んだ頃、野中 瀾の意識が戻ったとの連絡を受けた。
その頃には、2人が入院して既に半月が過ぎていた。
足森と共に瀾の病室に向うと、看護師に支えられながらも起き上がってはいたが、今まで点滴だけの栄養摂取だった瀾の身体は衰弱仕切っていて、げっそりとしている。
「これが…野中 瀾…」
今まで寝たきりの顔しか見ていなかった輝李は、折れそうな程の瀾の腕を見て、思わず言葉に詰まった。
力なく輝李を見つめる瀾の瞳には、不思議と怯えた色は伺えなかった。
輝李に出会った時の衝撃は、小さなものではなかったというのに…。
「意識が戻ったようだね…」
輝李が小さく尋ねると瀾は、弱々しく答えた。
「…あの…ここは…」
「…病院だよ。
運ばれてから半月、目を覚まさなかった」
静かに淡々と輝李が答えると瀾は、少し納得したように、また口を開いた。
「そう…ですか…。
私…病気なんですか…?
きっと何処かで倒れてしまった所を助けて頂いたんですね。
ありがとうございました…」
「…何を言ってるの…?」
「あの…貴方のお名前を…教えていただけませんか?」
その言葉に輝李と足森は、目を合わせ困惑の色を隠せなかった。
「… 野中 瀾、僕を…覚えていないの?」
「え…」
輝李が口を開くと瀾は、呆然としながら不安そうに顔を曇らせた。
「私の…お知り合いの方なん…ですか…?」
「!!!!」
その後、ドクターの診断結果を聴くために別室へと移動すると…
「記憶喪失!?」
「…はい。おそらく後遺症か、あるいは精神的なものかと…」
「…そう。喪失の状況は?」
「まだ、詳しい検査をしてみなくては断定は出来ませんが、ここ最近の1年程の軽いものだと思います」
「僕達の家に奉公していた時の記憶がスッポリ抜けているってワケね。
つまり月影の関わりが記憶には一切ない、と。
記憶が戻る見込みは?」
輝李の質問にドクターの顔は少し影をおとし曇りをみせた。
「今のところは何とも…。
一時的なものならば、そう時間はかからないと思いますが、精神的なものであるならば…」
「…思い出したくない記憶と言うわけね」
そこまで聞くと輝李は目を伏せて呟いた。
確かに今の記憶は、瀾にとって思い出したくないのは当然だろう。
輝李に強姦された挙げ句、最愛の人間にDollオークションに送られ、その後は、生き地獄を見たに違いない。
ドラッグ漬けにされて…。
ドクター室を出ると、輝李は小さく口をついた。
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それから輝李は、授業が終わると闇の仕事をしながらも足繁く瀾の病室に通っては、出来る限りの看病の世話をするようになった。
勿論、過去の記憶には触れることなく。
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その瀾の様子は、誰もが思わず目を背けたくなるような壮絶なものだった。
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小説が音声と映像で流れ出す!?
厳選されたCV達がお送りする臨場感!!
YouTubeにてボイスドラマ公開中!!
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https://www.youtube.com/playlist?list=PL0mziGmecVSUVpSKdpmNMNom6F3FWffNL
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