【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

CHAIN GAME･再会

CHAIN GAME･再会３

カフェテリアに向かうとポツリポツリと生徒は居るものの、授業中と言う事もあり静まり返っていた。
輝李きりは、飲み物を頼むと少女に優しく話し掛けた。

｢…えっと、君の事は何て呼んだら良いのかな？｣
｢あ…、谷川たにかわ 早希さきと申します｣

少し緊張気味に早希は答えた。
やがて、紅茶が２人の前に届けられる。

｢早希ちゃん、ね｣
｢はい、輝李様｣
｢輝李で良いよ、僕そういうの気にしないから｣
｢あ…では、輝李…お姉様…///｣

早希のその解りやすい反応に輝李はクスリと微笑んだ。

｢それで、僕にどんな用事？｣
｢……｣

その言葉を聞くと早希は哀しげに顔を曇らせ小さく口を開いた。

｢…あの…｣
｢ん？｣
｢私…好きな人が居て…｣
｢うん｣
｢でも、その人は…｣
｢その人は？｣
｢……ｯ｣

そこまで言うと早希さきは俯き、その瞳から一粒の涙が紅茶の中に吸い込まれ、紅い波を立てて水面に映る主の顔を歪ませた。
輝李きりは紅茶を口にすると、静かに口を開いた。

｢…月影つきかげ 乙きのと
高校３年、性格は極めて冷静沈着…｣
｢…ｯ!!!｣

輝李の声に俯きながら、ハッとすると顔を上げた。
輝李は、手を組んで顎をそこに置きながら笑顔を見せた。
笑顔のまま輝李は、早希に続けた。

｢つい数ヶ月前までアメリカで留学生活を送り、転校して１ヶ月後には、その甘いマスクとクールな風貌から学院内プリンスのベスト４まで上り詰め、ファンクラブまで出来ている。
編入して間もないにも関わらず、今や生徒会長の次の木田きだ 神流かんなと並び、学院トップ２の人気を誇る。
しかし、月影 乙の過去・好み・趣味・日常的の事については、未だベールに包まれたまま。
ｸｽ…学院の噂としては、こんな所かな？｣

そこまで言うと輝李きりは、また紅茶を含んだ。
早希さきが小さく口を開く。

｢あの…｣
｢…早希ちゃんが知りたい事って、乙の事でしょ？｣
｢どうして…解ったんですか…｣
｢朝、乙と一緒に校門に居たのを見たんだ。
そして、君は僕の所に来た｣

輝李の言葉に早希は、また俯いてしまった。
輝李は、早紀に笑顔を向けたまま、言葉をついた。

｢それで？学院の王子様の何が知りたいのかな？
好きな食べ物？休日の過ごし方？
それとも好みタイプ？｣

ニッコリと笑う輝李に早希は、俯いたまま小さく口を開いた。

｢乙お姉様は、どうして哀しそうな瞳をしているんですか？｣
｢……｣
｢あの時…｣

早希は、乙と出会った時に助けてもらった事、朝の林の中の一件を輝李に話した。
(「アールグレイの昼下がり」参照)

｢そんな事があったの…｣
｢…はい｣

輝李は鈴音りんねの名前を伏せ、乙が大切な女性を失って以来、人を愛する事がなくなった事を告げた。

｢今の乙が本気で人を愛するのには、まだ時間が掛かるんだ。
…それに…純粋な早希ちゃんには、もっと幸せになってほしいんじゃないかなぁ？
遊びしか出来ない自分に関われば、もっと悲しませてしまう事が解っているから…｣

そこまで言うと輝李きりは、また紅茶を口に含んだ。
勿論、輝李にとって早希さきの事は、どうでも良い存在だった。
しかし学院の中で、輝李が普段の輝李を見せる事は無かった。


一通り話が済むと早希は、案外すっきりした顔で輝李に一礼をするとカフェテリアを後にした。
輝李は、そのままその場に残ると自分の携帯をチェックし、何もない事を確認すると窓辺から空を見上げた。

しばらくすると、輝李の携帯のバイブ音が鳴った。
着信相手は、足森からだった。

｢もしもし｣
｢失礼します。ミス・マリアが到着致しました｣
｢…解った｣

輝李は電話を切ると、教室に戻る事なく学院を出て、８－エイトアンダーの事務所へ向かった。