【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

CHAIN GAME･再会

CHAIN GAME･再会１

一日の授業を終えて、寮の廊下を歩いていると向こう側から乙きのとが歩いて来た。
乙は、考え事をしているらしく輝李きりに気が付く様子もない。

『乙…何故、 野中なのか 瀾なみをDOLLオークションに出したの？
…教えてよ…
乙の本当の気持ちを…』

輝李は、擦れ違いざまに口を開いた。

｢久しぶりだね、乙｣
｢!!!｣

聞き覚えのある声に目線をあげ輝李と目が合うと乙の目付きは鋭くなった。

｢…輝李…｣

瞳の奥に鈍く光る妖艶さを放ち輝李は微かに笑う。

｢…ｸｽ…プレゼントは気に入ってもらえた…？｣
｢─ｯ!!!!!｣

ガタン!!!

乙は輝李の襟元を掴み、壁ぎわに思い切り叩きつける。

｢ｳｯ!!｣
｢お前、瀾なみに何をした…!!｣
｢…別に…ちょっと遊んでもらっただけだよ…｣
｢昔から言ってるだろ、俺のものには手を付けるな。
お前の遊びはシャレにならないんだよ｣
｢…フン…｣
｢何でお前は、いつも俺に突っ掛かってくるんだよ!!｣
｢…決まってるでしょ…。｣

輝李は、目を伏せて小さな声をついた。


｢おい!!
お前等、何してるんだよ!!｣

その時、廊下の向こう側から、たまたま通りかかり、二人の光景を目撃した神流かんなの声が聞こえた。

『ねぇ、乙…教えてよ…。
乙がまた、心から笑ってくれる方法を…』

心とは裏腹に輝李は、小馬鹿にしたような表情を見せた。

｢…ﾌﾝ!!ムキになっちゃってさ｣
『どうしたら…笑ってくれるの？
僕に見せてよ…乙』

輝李は、哀しげに思うと表情をガラリと悲痛そうに変え乙に言葉を投げた。

｢昔みたいに僕を抱いてよ。
たかがペット一匹じゃないか!!
…どうせ…
本気じゃないくせに…｣
｢…!!｣

ふいに悲しそうに訴えた輝李きりの言葉が乙きのとに重く、のしかかる。
明らかに乙の表情を変えさせた。

『ビンゴ!!』

輝李は乙の目の色を確認すると、

｢…放してよ!!｣

乙の手を振り払い、輝李は廊下を走り去っていった。


──パタン。
寮の自分の部屋に着き、ドアを静かに閉めると俯きなから口元が上がった。

｢…ｸｽ…フフフ…やっぱりね…。
あの反応、ただ事じゃない…。
まだ気が付いていないんだ、乙。
ｸｽｸｽｸｽ…｣

顔を上げた輝李の笑顔には一筋の涙が伝った…。

｢…解ってたよ…
もう…僕じゃダメだって事くらい…
だから…｣

ズルズルと腰を落すと体育座りにｸｽｸｽと笑いながら輝李は…
泣いた…。


──その夜、
輝李きりは窓の縁に腰掛け、月夜の風と月光を浴びていた。

｢HALF MOON…か。
僕達が初めて愛し合った、あの夜もHALF MOONだった。
乙…僕達は変わってしまったね…｣

月を見上げたまま、輝李はメイドの 由佳ゆかに電話をかけた。

｢…由佳…｣
｢輝李様？どうされましたか？
お声が優れないようですが、どこかお加減でも…｣
｢…由佳に頼みたい事があるんだ。
しばらく休みをとってくれないかなぁ…｣
｢…休みですか？構いませんが。
私に、ご要件とは珍しいですね｣
｢… 野中のなか 瀾なみの事だ｣
｢!!!｣
｢詳しい内容は追って連絡するけど、DOLLオークションに出された事は由佳なら知ってるよね？
ある屋敷に落札されてしまって、回収しなきゃいけないんだ。
手伝ってくれる？ミス･マリア…｣

その呼ばれたコードネームの声と共に由佳は、目を鈍く光らせ静かにこう答えた。

｢かしこまりました、輝李様…
いえ、マスター…｣

電話を切ると輝李は夜明けまで、その月の光を、哀しげな寂しげな表情で浴びていた。