【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

悪魔の真珠

悪魔の真珠１

次の日、由佳ゆかは瀾なみの資料を持って輝李きりを起こしに来た。

｢輝李様、朝食の準備が整いましたよ｣

輝李が体を起こし、由佳と共に食堂へ向かう。
朝食を食べながら由佳は少し寂しいそうに、しかし穏やかに口を開いた。

｢明日から日本での学院生活が始まりますね｣
｢うん。寮生活かぁ…窮屈になっちゃうなぁ｣

何となく口を尖らせた輝李きりに由佳ゆかはクスリと微笑む。

｢ｸｽｸｽ。まぁ、輝李様ったら、お淋しいんですか？｣
｢それは由佳の方でしょう？｣
｢ｸｽｸｽ、そうですね。
でも休日には帰って来れるみたいですよ。
乙様は帰っていらしてますから｣
｢乙が？｣
｢ええ。明日は週末ですから、お会いになれるとよろしいですね｣
｢明日は編入先に行かなきゃいけないんだから、乙に会うのは学院の中になっちゃうなぁ｣
｢ああ、そうですね｣
｢もう!! さっき自分で言ったばかりじゃないかぁ｣

輝李きりと由佳ゆかは顔を合わせてクスクスと笑った。


由佳が買い物に出掛けるのを確認すると、輝李は屋敷へ向かった。
廊下を静かに歩く、もちろん屋敷を迷うことなく乙の部屋へ向かっていた。
一枚の少女の写真を手に、薄気味悪く口の端が上がる。※1

｢…ｸｽ…ショータイムだ…。
…ね？乙きのと…｣

乙きのとの部屋のドアが、ゆっくりと静かに口を開いた。
音もなく一歩ずつ、輝李きりが部屋のメインルームに入ってきたのだ。
輝李は不意に、部屋にいる人の気配に気が付く。
ベッドルームに視界を向けると、瀾なみを確認した。
ギラリと獲物を狙うフクロウのように妖しく笑みを浮かべ、小さく囁いた。

｢……見つけた…｣


｢はぁ、乙様…｣

ため息混じりに瀾なみはベッドのうえで黄昏ている。
輝李きりはベッドルームの縁に腕を組んで寄りかかり、瀾の様子を見ていた。
ふと乙の顔が脳裏に浮かぶ。
輝李の胸にチクリと痛みが走った。

『似ている…どことなく鈴音りんねに…。
乙…やっぱりまだ…。
また遊びなの？
それとも本気？…教えてよ…。
僕を見てくれない理由を…』


※１）小説『アールグレイの昼下がり ー双子の姉・乙編ー』
〔悪魔の真珠〕とリンク