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その夜、別宅には由佳と輝李の二人きりが残されていた。
「輝李様、お食事の用意が出来ました。
こちらでお召し上がりになりますか?」
「いや、食堂に行くよ。
由佳も一緒に食べよう。
一人で食べても美味しくないから」
「お心遣いありがとうございます。
それでは遠慮なく、ご一緒させて頂きます」
静かな食堂の中、二人はあまり言葉を交わすことなく食事を終えた。
デザートには、輝李が買ってきたケーキが出される。
ナイトキャップティーの時間、由佳は水とティーセットを運んできた。
輝李に勧められ、ティータイムも共にする。
不意に由佳は口を開いた。
「…どうしてご自分のお付きのメイドではなく、私を呼んでくださったのですか…?」
「…メイド歴も長いし、一番気が付くからだよ。
それに由佳は、母様の専属メイドだった」
「そうですね。
いつの間にか時が過ぎてしまいました。
さ、お薬のお時間です」
そう言うと、水と睡眠薬を輝李に手渡した。
「…ありがとう。
由佳、僕が眠るまで傍にいてくれる?」
「ええ、構いません」
それを聞くと安心したのか、輝李は薬を飲み干す。
そう簡単に薬が効くわけもなく、眠くなるまで再び話をする。
「この鍵の好きな部屋を使うといいよ。
でも、※1 右奥側だけは行かないで。
あそこには…」
一瞬、目を伏せたに輝李に由佳は、了承しているような小さな微笑みを浮かべ、
「かしこまりました。
…お噂は、こちらの方にも届いております。
…8アンダーのトップになられたとか」
「…ああ、そうか。
由佳も8アンダーのエージェントだったね」
「はい。私が奥様専属のメイドになったのは、奥様をお守りするためです」
「そういえば子供の頃、乙が閉じ込められた懲罰房へ行こうとしていた僕を見つけて邪魔してたのは、いつも今井と由佳だったっけ…。
それが、今はこの有様だ」
由佳は輝李の言葉に胸を痛めた。
「…先代のトップのせいで、今井さんが築き上げてきた8アンダーは崩れかけました。
輝李様は、先代の闇商法を継いでいるとお聞きしました」
「…ッ。閉鎖する前に、やらなきゃいけない事があるんだ…」
「その為に、ご自分を傷付けてまで…」
「……」
輝李は、目を伏せ顔を下にそむけた。
由佳は、輝李の頬に手を添えると哀しそうに優しく微笑み、口を開いた。
「…お辛かったでしょう」
「ッ!!!」
その眼差しは亡き母に似ていた。
亡くなる寸前、自分達が宝ものだと笑った、あの母の笑顔に…。
途端に今まで、ずっと自分の中で押し殺していた何かが沸き上がってくる。
一筋の涙が輝李の頬を伝い、次々ととめどなく溢れて…。
「…ウッ…クッ…うわぁあぁあ…」
その日、輝李は由佳の胸にすがると、声をあげて泣いた。
ずっと、殺してきた感情…。
もう泣くことはないと。
泣いてはいけないのだと。
誰にも悟らせることなく、ずっと気を張り詰めて生きてきた毎日。
由佳のたった一言で、それは救われたのだ。
まるで母に言われたようだった。
「輝李…、よく頑張ったわね」
そんな風に輝李の頭の中で、母の声が響いた…。
※1)小説『アールグレイの昼下がり ー双子の姉・乙編ー』
〔スイートホーム14〕参照
「輝李様、お食事の用意が出来ました。
こちらでお召し上がりになりますか?」
「いや、食堂に行くよ。
由佳も一緒に食べよう。
一人で食べても美味しくないから」
「お心遣いありがとうございます。
それでは遠慮なく、ご一緒させて頂きます」
静かな食堂の中、二人はあまり言葉を交わすことなく食事を終えた。
デザートには、輝李が買ってきたケーキが出される。
ナイトキャップティーの時間、由佳は水とティーセットを運んできた。
輝李に勧められ、ティータイムも共にする。
不意に由佳は口を開いた。
「…どうしてご自分のお付きのメイドではなく、私を呼んでくださったのですか…?」
「…メイド歴も長いし、一番気が付くからだよ。
それに由佳は、母様の専属メイドだった」
「そうですね。
いつの間にか時が過ぎてしまいました。
さ、お薬のお時間です」
そう言うと、水と睡眠薬を輝李に手渡した。
「…ありがとう。
由佳、僕が眠るまで傍にいてくれる?」
「ええ、構いません」
それを聞くと安心したのか、輝李は薬を飲み干す。
そう簡単に薬が効くわけもなく、眠くなるまで再び話をする。
「この鍵の好きな部屋を使うといいよ。
でも、※1 右奥側だけは行かないで。
あそこには…」
一瞬、目を伏せたに輝李に由佳は、了承しているような小さな微笑みを浮かべ、
「かしこまりました。
…お噂は、こちらの方にも届いております。
…8アンダーのトップになられたとか」
「…ああ、そうか。
由佳も8アンダーのエージェントだったね」
「はい。私が奥様専属のメイドになったのは、奥様をお守りするためです」
「そういえば子供の頃、乙が閉じ込められた懲罰房へ行こうとしていた僕を見つけて邪魔してたのは、いつも今井と由佳だったっけ…。
それが、今はこの有様だ」
由佳は輝李の言葉に胸を痛めた。
「…先代のトップのせいで、今井さんが築き上げてきた8アンダーは崩れかけました。
輝李様は、先代の闇商法を継いでいるとお聞きしました」
「…ッ。閉鎖する前に、やらなきゃいけない事があるんだ…」
「その為に、ご自分を傷付けてまで…」
「……」
輝李は、目を伏せ顔を下にそむけた。
由佳は、輝李の頬に手を添えると哀しそうに優しく微笑み、口を開いた。
「…お辛かったでしょう」
「ッ!!!」
その眼差しは亡き母に似ていた。
亡くなる寸前、自分達が宝ものだと笑った、あの母の笑顔に…。
途端に今まで、ずっと自分の中で押し殺していた何かが沸き上がってくる。
一筋の涙が輝李の頬を伝い、次々ととめどなく溢れて…。
「…ウッ…クッ…うわぁあぁあ…」
その日、輝李は由佳の胸にすがると、声をあげて泣いた。
ずっと、殺してきた感情…。
もう泣くことはないと。
泣いてはいけないのだと。
誰にも悟らせることなく、ずっと気を張り詰めて生きてきた毎日。
由佳のたった一言で、それは救われたのだ。
まるで母に言われたようだった。
「輝李…、よく頑張ったわね」
そんな風に輝李の頭の中で、母の声が響いた…。
※1)小説『アールグレイの昼下がり ー双子の姉・乙編ー』
〔スイートホーム14〕参照
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小説が音声と映像で流れ出す!?
厳選されたCV達がお送りする臨場感!!
YouTubeにてボイスドラマ公開中!!
★アールグレイの月夜(YouTube版)
https://www.youtube.com/playlist?list=PL0mziGmecVSUVpSKdpmNMNom6F3FWffNL
★アールグレイの昼下がり(YouTube版)
https://www.youtube.com/playlist?list=PL0mziGmecVSXcYllzM7PGJbwUaHxBfz0L
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