【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

ターゲット

ターゲット１

久々の日本を見て歩く輝李きり。
途中、買い物をした後、自分の家に電話をかける。
勿論、執事の今井の部屋に直通するように。

｢はい、月影つきかげでございます｣
｢今井？僕だけど…｣
｢輝李様｣
｢今、日本に帰ってきているんだ。
そっちの屋敷には帰らないんだけど、別宅の方に由佳ゆかを呼んでもらえる？
身の回りの世話をさせたいんだ｣
｢佐伯さえき 由佳ゆか…ですか。
かしこまりました｣

電話を切ると足森に連絡し、車を迎えに来させ別宅の方へ向かった。
長い道のり、もうすぐ夕方だ。

今頃、リアレインは足森から説明を受けていることだろう。

｢あ、リンペ･ペール…。ちょっと止めて!!｣

輝李きりは車から降りるとケーキを買いに行った。
別宅へ着くと、メイドの佐伯さえき 由佳ゆかと執事の今井が出迎えた。

｢お帰りなさいませ、輝李様｣
｢今井…。久しぶりだね、由佳も｣

輝李の声に由佳は静かに一例をした。
今井は、まるで自分の孫でも見るように愛しむような眼差しで輝李を見つめる。

｢…ご立派に成長なされました｣
｢少しは身長も伸びたしね｣
｢さようでございますか…。
輝李様、今回の滞在はどうされますか？｣
｢まだ決めてない｣

輝李きりは、少し考えると今井に口を開く。

｢今井、学校の手配をしてもらえるかな。
まだちょっと単位が足りないんだ｣
｢かしこまりました｣

すると、輝李は少し真顔になり、こう告げた。

｢…乙きのとと同じ学院で｣
｢…はい。他にご用はございますか？｣
｢ん～、そうだなぁ…｣

するとポケットから一枚の紙切れを今井に渡す。

｢この薬の手配を｣

メモを受け取ると今井は少しだけ、ハッとした。
沢山の薬品のリストの中に、やはり入っていたのだ。
アメリカで輝李が飲んでいた強い睡眠薬が。

｢…輝李様、いつから御服用なされていますか｣
｢……｣

無言で目を伏せる輝李に、今井は胸を痛めた。
それは随分、前から飲んでいることを悟ったからだった。

｢ﾊｧ…やはり、あの日から…｣
｢…ｯ。ちょっと寝不足なだけだよ｣

輝李きりは、ニッコリと笑顔を見せたが、それは今井からは痛々しく儚げに映るだけだった。

『輝李様を護るためとはいえ、目の前で【あんなもの】を見せるべきではなかった…。
こんなに哀しげに笑うようになってしまわれた』

今井は静かに目を伏せると、一言だけ言葉にした。

｢…かしこまりました｣