【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

狂愛の慈愛

狂愛の慈愛２

数日後、この間の事が嘘のように輝李きりは元気な普段と何ら変わらない笑顔を見せていた。
フォレストも、あの日の事には一切触れることが無かった。

｢フォル、今日は少し遅くなるから夕食はいらないよ｣
｢ああ、解った｣
｢ｸｽ、友達とショッピングに行くんだぁ♪｣
｢ｸｽ、あんまり遅くなるなよ？｣

フォレストは輝李の頭を撫でて、笑顔を送ると、輝李が答えた。

｢へへ、解ってるよぉ。
じゃあ、行ってきまーす｣
｢ああ。気を付けてな♪｣

手を振る輝李を乗せた車をフォレストは明るく見送り、大きく伸びをすると手を組み後頭部を支えながら屋敷の中へ歩いていった。

｢さぁて、面倒臭いけど、乙と一緒に免許の講習に行きますか♪｣

この時、乙きのととフォレストは車とバイクの免許を取るため教習所に通っていたのだった。



輝李きりは、目的地に着くと車を降りて建物を見上げた。
そう。輝李は数日前に来た、あのビルに来ていたのだ。
８エイトアンダーの本部に…。

輝李は一度、目を伏せるとギラリと眼光を鋭くさせ、静かに中に吸い込まれていった。
中に入ると、受付嬢が一礼をし挨拶をする。

｢月影 輝李様、お待ちしておりました…。
ただ今、案内の者が参ります｣

あの日、輝李きりを案内した者がまた迎えに来て部屋の一室へと案内する。
唯一、違っていた事といえば、あの８エイトアンダーのトップの男が居なかった事。
部屋の壁紙からソファー、ブラインド、床に至るまで全てが取り替えられて、あの部屋の存在すら無かったのではないかという程、違和感なく、そっくり摩り替えられていた事。
そして、黒服の男が部屋のドアの前で控えていた事だ。

案内人がドアの前で立ち止まり、輝李に一礼をすると黒服の男が部屋のドアを開ける。
輝李が部屋に入ると黒服の男も後に続き、入ってくる。

パタン…

一緒に入って来た男は、静かにドアを閉めると輝李はポケットに手を入れたまま警戒心を緩めず視線だけをそちらに向ける。
男は、そんな輝李に向けて静かに口を開いた。

｢月影つきかげ 輝李きり様…｣
｢…何？｣
｢先日、うちの社長が消息不明になりまして｣
｢ｯ…｣

ここに来た時から輝李は覚悟を決めていた。
もう一度、足を踏み入れれば、次こそ命はないかもしれないと…。
輝李は、静かに口を開いた。

｢…何が言いたいの？｣

ゆっくり男の方を振り向くと、ポケットに突っ込んだ方の腕の袖に隠した小さなナイフに手を掻ける。

『少しでも妙な気配を感じたら仕掛けないと、こっちが殺される』

男は、スーツの内ポケットに手を忍ばせた。
ジッと男から目を離すことなく、輝李のナイフを持つ手に力が入る。

『…ｯ!! 来る!!!』