【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

狂愛の慈愛

狂愛の慈愛１

ザアァ…ザァ…
外は生憎のどしゃ降りだ。
ベッドで眠る輝李きりをフォレストは、ずっと見つめていた。


── 昼過ぎから雨が降り始め、広間の窓を見つめ、出かけた輝李をずっと待っていたフォレストが夕方、チャイムの音に出迎えると、そこには輝李を抱えた今井が立っていた。

｢輝李!!…今井さん、輝李は!!｣
｢ご心配なく、意識を失っているだけですので｣
｢輝李に一体何が…。ｯ!!｣

輝李を受け抱え、フォレストがそこまで言うと、今井の襟元に気づかない程の微かだが赤いシミが付いているのが解った。

｢今井さん…、アンタまさか…｣
｢…輝李様の事、よろしくお願いします｣

今井は、それだけ言うと屋敷を去っていった ───


その後、輝李きりをベッドに運んだが、乙きのとが居なかったのは幸いだっただろう。
輝李のこんな姿を乙に見せるわけにはいかなかったからだ。
ましてや乙の為にこんな風になって帰ってきたなどと知れたら…。

パチパチと窓に当たる雨音にフォレストは輝李を見つめ、一つの仮説をめぐらせていた。


輝李きりは、８エイトアンダー本部に向かったのに違いない。
今井が輝李を連れて帰って来たのが何よりの証拠だろう。
そして、自分達と同じように試された。
だが輝李がもし、それに失敗したとしたら命すら奪われる事態になったのかもしれない…。
そして今井の襟元のシミは、多分【返り血】だ…。

今井は、輝李を護る為に人を殺している。
あの、《輝李を頼む》と言った時の今井の眼は、執事としての眼ではなかった。
自分達を試した男と同じ、鈍く光を帯びていた。

いくら現役を退いたとはいえ今井は、そのトップに君臨していた人間だ。
何かを護るためならば、冷酷になる事も容易たやすいだろう。

だとするならば、輝李は…
それを目の当たりにしたかもしれない。
人が死ぬ瞬間を…
いや、人が殺される瞬間を…!!

目の前で人が殺されたら、まず正常の人間ならば耐えられる状況ではないだろう。
そして、その手を下した人間が自分達の身近な人物なら尚更だ。

｢輝李…｣

フォレストは静かに眠る輝李の唇に自分の唇を重ねると、辛そうに目を伏せ部屋を後にした。