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8アンダー
8アンダー3
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瞬きすらしている暇はなかった。
上げられた手には少し刃先の長い手術メスが男の頸動脈を引き裂き、鮮血が飛んだ。
輝李の真横を通り抜けたはずの人影は吹き上げる鮮血を避け、輝李の目の前の位置に背を向け立っていたのだ。
既に口をきくことのない男に、目の前の人物は静かに口を開いた。
「ターゲットを指定しなかったのは、お前のミスだったな…。
それともう一つ…お前の敗因は、私の大切な方に目を付けた事だ」
聞き覚えのある声だった…。
しかし、輝李は目の前の光景に声すら出なかった。
「あ…ああ…」
目の前の人物は、持っていたメスを下に一振りする。
輝李の足元に赤い雫が飛んだ。
背を向けたまま、その人物は口を開く。
「8アンダーとは…こういう組織です。
軽はずみに足を踏み入れて良い場所ではないんですよ…輝李様…」
ゆっくりと振り向いた、その男の顔はいつも優しく輝李達の側を離れず、面倒をみてくれていた執事の今井だったのだ…!!
今井の顔には少量の血液が付着している。
普段はその痕跡すら見せない今井の眼光は、あの男と同じく鈍く光っていた。
今井はメスをしまうと、口を開きゆっくりと輝李に近付いてきた。
「輝李様が本当に8アンダーを動かしたいのであれば、その優しさを捨てる事です。
…命取りになりますよ。
技量・度胸も去る事ながら指揮するに価する器も養わなければならない」
「こ、来ないで!!!」
輝李は、今井が入ってくる前と同じ態勢のまま必死で叫んだ。
ガタガタと震えながらも、その緊張感から固まった輝李の手に今井はソッと触れた。
「私が、恐いですか…?」
「!!」
今井は、輝李の固まった指を一本一本丁寧に外し、その拳銃とを切り離した。
途端に輝李は膝の力が抜け、今井は輝李を支え、抱き締めると目を伏せポツリと呟いた。
「…間に合って良かった。あまり私の寿命を縮めないで下さい」
「…今井…」
「こんなに震えて、さぞ怖かったでしょう…」
そこにいたのは先ほどまでの今井ではなく、いつもの優しい今井だった。
今井の腕の中で、震えながら輝李は小さく言葉を発した。
「今井…」
「…はい」
「乙とフォルは、人を殺したの?」
「…乙様は、あの日…」
──―デスクに置かれた拳銃を取ると乙は、迷う事なく自分のこめかみに銃を当て引き金を引いた。
カチッ…
そして、一言こう言ったのだ。
「惜しかったな…、弾が入っていれば僕は死ねたのに…」
そういうと、銃を戻し黙って部屋を出ていった───
今井は続けて言った。
「輝李様も、もうご存じでしょう。
乙様ご自身の身に何が起こっていたか…」
「!!!」
「あの時の乙様は、ご自分の命すら惜しいと思っては居られなかった…。
また、フォレスト様は拳銃を取る瞬間、あの男の顔を切り付けました。
眉間に大きな傷があったでしょう。
そして、『次は外さない』と言い残したそうです」
「…そう。誰も殺してなかった…」
「…はい」
「…良かっ…た…」
そう言うと輝李の意識は、先ほどの衝撃的な事実を隠すかのように、その安堵と緊張の解放感から遠い所へと旅立った。
「輝李様…」
今井は輝李を抱き抱えると、この忌まわしい部屋からフォレストの屋敷へと輝李を運んだ。
上げられた手には少し刃先の長い手術メスが男の頸動脈を引き裂き、鮮血が飛んだ。
輝李の真横を通り抜けたはずの人影は吹き上げる鮮血を避け、輝李の目の前の位置に背を向け立っていたのだ。
既に口をきくことのない男に、目の前の人物は静かに口を開いた。
「ターゲットを指定しなかったのは、お前のミスだったな…。
それともう一つ…お前の敗因は、私の大切な方に目を付けた事だ」
聞き覚えのある声だった…。
しかし、輝李は目の前の光景に声すら出なかった。
「あ…ああ…」
目の前の人物は、持っていたメスを下に一振りする。
輝李の足元に赤い雫が飛んだ。
背を向けたまま、その人物は口を開く。
「8アンダーとは…こういう組織です。
軽はずみに足を踏み入れて良い場所ではないんですよ…輝李様…」
ゆっくりと振り向いた、その男の顔はいつも優しく輝李達の側を離れず、面倒をみてくれていた執事の今井だったのだ…!!
今井の顔には少量の血液が付着している。
普段はその痕跡すら見せない今井の眼光は、あの男と同じく鈍く光っていた。
今井はメスをしまうと、口を開きゆっくりと輝李に近付いてきた。
「輝李様が本当に8アンダーを動かしたいのであれば、その優しさを捨てる事です。
…命取りになりますよ。
技量・度胸も去る事ながら指揮するに価する器も養わなければならない」
「こ、来ないで!!!」
輝李は、今井が入ってくる前と同じ態勢のまま必死で叫んだ。
ガタガタと震えながらも、その緊張感から固まった輝李の手に今井はソッと触れた。
「私が、恐いですか…?」
「!!」
今井は、輝李の固まった指を一本一本丁寧に外し、その拳銃とを切り離した。
途端に輝李は膝の力が抜け、今井は輝李を支え、抱き締めると目を伏せポツリと呟いた。
「…間に合って良かった。あまり私の寿命を縮めないで下さい」
「…今井…」
「こんなに震えて、さぞ怖かったでしょう…」
そこにいたのは先ほどまでの今井ではなく、いつもの優しい今井だった。
今井の腕の中で、震えながら輝李は小さく言葉を発した。
「今井…」
「…はい」
「乙とフォルは、人を殺したの?」
「…乙様は、あの日…」
──―デスクに置かれた拳銃を取ると乙は、迷う事なく自分のこめかみに銃を当て引き金を引いた。
カチッ…
そして、一言こう言ったのだ。
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