【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

８アンダー

８アンダー１

輝李きりは、数日前にフォレストから聞いた８エイトアンダーの本部へと足をのばした。
車から降りると大きなビルを見上げる。

｢ここが…｣

その威圧感に息を飲むと、意を決して中に入る。
パッと見は何処かの大きな企業にしか見えないが、受付に行くと受付嬢が爽やかに口を開いた。

｢月影つきかげ 輝李きり様ですね。承っております。
只今、案内の者が参りますのでしばらくお待ち下さい｣
｢!!｣

何故、自分が月影 輝李と解ったのか、そして連絡などしていないにも関わらず承っていると答えた受付嬢にピクリと眉間が動いた。
間もなくして、一人の女性が輝李を最上階の一室へと案内する。
案内のままに中に入ると一人の中年の男がデスクに座り、手を組みそこに顎を乗せている。

｢よく参られましたな。月影 輝李様とおっしゃったか…。
何でも、私わたくしどもにご用があるとか｣

ゾクリとするほどの威圧感…
父の比ではない事が肌を通して明確に伝わってきた。

これが、８エイトアンダーのトップに君臨しているものの貫禄なのか、と輝李は恐怖すら感じた。
部屋の中には、この男と輝李の二人きり…。
実際、こんな所にいつまでもいたら輝李自身が保たないだろう。

『早く、要件を言わなきゃ…。
こんな所にいつまでも居たくない』

これが今の輝李の正直な気持ちだった。

｢あの…!!｣

輝李が意を決して口を開くと、目の前の男も静かに口を開いた。

｢小野崎おのざき 鈴音りんね…｣
｢!!!!｣

何ということだ。
こちらが要件を言う前に向うには、全てお見通しだったと言うのだろうか？
これが、８エイトアンダーの情報収集の能力なのか…。

男は微かにニヤリとし、口を開くと輝李きりの体には全身に鳥肌が立った。

｢貴女は実に素直な方だ…。
顔色が変わった所を見ると要件はこの事のようですな…｣
｢そ、そうだよ…｣

身体が震えそうになるのを必死で堪え、そう答えるのがやっとだった。

｢思い出しますなぁ…
貴女のお姉様の月影つきかげ 乙きのと様と従姉妹のフォレスト･鮎川あゆかわ様がいらした時を…｣
｢!!! 乙とフォルも来たの!!｣
｢ええ、幼少の頃に…。最も、貴女様よりも冷静でしたがね…｣
｢ｯ…!!｣

輝李の眉間に皺が寄る。
こんな所に乙とフォレストが来ていたと言うのか…。
そして、この男に会っていたと。
こんな威圧感のある男に。
しかも、幼少の頃に顔色一つ変えなかったと言うのか…。
男は静かに輝李に続けた。

｢貴女の技量を見たい…。
依頼を受けるに相応しい人間かどうかを…｣
｢僕を試すって言うの…？
…いいよ。一体、何をすれば良いのさ｣

輝李は、男を睨み付け必死に冷静を装い答えながら考えた。

『多分、乙もフォルもこうして試されたんだ。
僕だって月影の人間だ!! どんな試練だって乗り越えてみせる!!』

輝李の言葉に男は静かにニヤリと笑みを浮かべ、口を開いた。

その瞬間、輝李は目を見開くと自分の耳を疑い、目の前が真っ暗になった。
男はこう言ったのだ…。


｢人を一人、殺してきて欲しい…｣