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逃亡者
逃亡者1
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「乙…愛してる」
「俺もだ…」
二人が身体を重ねるようになり、弟の聖慈が2歳になる頃だった。
その日、執事の今井と輝李達は父親に呼び出され家族会議が行われた。
家族会議と言っても名ばかりで、決定した事を父が報告するという殺風的なものだ。
「そろそろ聖慈も物心がつき始める頃だ。
聖慈には、月影の次期当主として将来を担ってもらわねばならなくなるだろう」
母が亡くなってからというもの、乙の父親に対する嫌悪感・敵対心は消えることなく、相変わらず無機質な目付きで父の話を聞いていたが、父の言葉に不意に口を開いた。
「…まだ早いのではないですか?聖慈はまだ2歳です。
父さんのサポート位なら俺でも出来ると思いますが」
「そうだよ、父様」
「乙には、これから先やってもらうことがある。
どんなに教育を受けたといえどもお前が女であることは曲げられない事実だ」
その後の父の放った言葉を聞いて乙は愕然とした。
「聖慈が生まれた今、お前が息子として振る舞う必要性もなくなった。
《これからは本来の性の通り、女として振る舞い、この月影に恥じぬよう支えていけ》」
「…な…に…!!」
「ッ!!!」
二人は父の言葉に言葉を失っていると、父親は乙にもう一度静かに残酷な言葉を繰り返した。
「聞こえなかったのか?
これからは女として振る舞えと言ったんだ…」
今まで十数年、息子として育て英才教育を植え付け、男として夜の営みまで教育してきた乙に対し、息子が生まれた途端に本来の女の性を全うしろと言い放ったのだ。
いつもは冷静沈着な乙だが、この時ばかりは頭が真っ白になった。
実の父親とは思えない程、残酷で信じられない言葉が乙の思考回路すらストップさせてしまったのだ。
そんな時、月影の当主に怒りを爆発させた人物が一人いた。
──ガタン!!!
「父様!!今、何を言っているのか解って言ってるの!!」
当主に牙を剥いたのは他でもない輝李だった。
普段は父親にたてつくような事はせず、父親にも可愛がられていたあの輝李が席を立ち、もの凄い剣幕で怒りをあらわにした。
「父様はいつも勝手だよ!!
勝手に息子として育ててきたくせに!
そのせいで今まで乙が、どれだけ我慢して辛い思いをしてきたと思ってるのさ!
…父様は、それでも乙の事を愛しているんだと思ってた…。
でも違う!!父様は、乙の事をただ家名を守るだけの道具としか思ってないだっ!!」
「…輝李」
突然の輝李の爆発に乙は、驚きを隠せなかった。
「乙、行こう!
こんな冷徹人間の家にいつまでも居ることないよ!!
父様…、乙にこんなひどい仕打ちをするアンタなんか大嫌いだ!」
「おい、輝李」
乙が事態を整理しきれない内に輝李は乙の手を取ると、部屋から出ていった。
あとに残された今井は、静かに主人を促した。
「…旦那様。お二人供、今は冷静ではないご様子。
…しばらく私に任せていただけませんか?」
「…仕方あるまい」
──輝李は廊下を歩き、自分の部屋に着くとバックにガサツに衣類を入れていく。
「乙、何してるの!早く乙も支度して」
「…本当に出ていく気なのか?」
「当たり前だよ!乙はこのままで良いの!!」
「……」
乙は、目を伏せると黙って部屋を出ていってしまった。
「乙!」
輝李は、力なくソファーに座ると体育座りに俯いた。
『乙…』
しばらくするとドアが開き、コンコンとノックが聞こえた。
見ると乙がドアに寄り掛かっていた。
「クス…行くんだろ?」
「!!」
「俺もだ…」
二人が身体を重ねるようになり、弟の聖慈が2歳になる頃だった。
その日、執事の今井と輝李達は父親に呼び出され家族会議が行われた。
家族会議と言っても名ばかりで、決定した事を父が報告するという殺風的なものだ。
「そろそろ聖慈も物心がつき始める頃だ。
聖慈には、月影の次期当主として将来を担ってもらわねばならなくなるだろう」
母が亡くなってからというもの、乙の父親に対する嫌悪感・敵対心は消えることなく、相変わらず無機質な目付きで父の話を聞いていたが、父の言葉に不意に口を開いた。
「…まだ早いのではないですか?聖慈はまだ2歳です。
父さんのサポート位なら俺でも出来ると思いますが」
「そうだよ、父様」
「乙には、これから先やってもらうことがある。
どんなに教育を受けたといえどもお前が女であることは曲げられない事実だ」
その後の父の放った言葉を聞いて乙は愕然とした。
「聖慈が生まれた今、お前が息子として振る舞う必要性もなくなった。
《これからは本来の性の通り、女として振る舞い、この月影に恥じぬよう支えていけ》」
「…な…に…!!」
「ッ!!!」
二人は父の言葉に言葉を失っていると、父親は乙にもう一度静かに残酷な言葉を繰り返した。
「聞こえなかったのか?
これからは女として振る舞えと言ったんだ…」
今まで十数年、息子として育て英才教育を植え付け、男として夜の営みまで教育してきた乙に対し、息子が生まれた途端に本来の女の性を全うしろと言い放ったのだ。
いつもは冷静沈着な乙だが、この時ばかりは頭が真っ白になった。
実の父親とは思えない程、残酷で信じられない言葉が乙の思考回路すらストップさせてしまったのだ。
そんな時、月影の当主に怒りを爆発させた人物が一人いた。
──ガタン!!!
「父様!!今、何を言っているのか解って言ってるの!!」
当主に牙を剥いたのは他でもない輝李だった。
普段は父親にたてつくような事はせず、父親にも可愛がられていたあの輝李が席を立ち、もの凄い剣幕で怒りをあらわにした。
「父様はいつも勝手だよ!!
勝手に息子として育ててきたくせに!
そのせいで今まで乙が、どれだけ我慢して辛い思いをしてきたと思ってるのさ!
…父様は、それでも乙の事を愛しているんだと思ってた…。
でも違う!!父様は、乙の事をただ家名を守るだけの道具としか思ってないだっ!!」
「…輝李」
突然の輝李の爆発に乙は、驚きを隠せなかった。
「乙、行こう!
こんな冷徹人間の家にいつまでも居ることないよ!!
父様…、乙にこんなひどい仕打ちをするアンタなんか大嫌いだ!」
「おい、輝李」
乙が事態を整理しきれない内に輝李は乙の手を取ると、部屋から出ていった。
あとに残された今井は、静かに主人を促した。
「…旦那様。お二人供、今は冷静ではないご様子。
…しばらく私に任せていただけませんか?」
「…仕方あるまい」
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「…本当に出ていく気なのか?」
「当たり前だよ!乙はこのままで良いの!!」
「……」
乙は、目を伏せると黙って部屋を出ていってしまった。
「乙!」
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しばらくするとドアが開き、コンコンとノックが聞こえた。
見ると乙がドアに寄り掛かっていた。
「クス…行くんだろ?」
「!!」
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