【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

二恋［ﾌﾀｺｲ］

─ 私は『私』を捨てて『僕』になった ─

葬儀が終わってからというもの乙きのとは、休憩になると部屋にいない日が続いた。

気になって輝李きりが懲罰房へ行くと、ドアが解放され、
中には乙が手の中の母から貰った鍵を見つめ、ボーッと部屋にたたずんていた。
あの鍵にスペアはない。
つまり父の鍵を母が持ち出し、乙に預けたのだった。

『乙…』

輝李は、声をかけることも出来ずドアの前で、ただ乙を見つめることしか出来なかった。


｢母さん…｣

無気力に放たれる乙の言葉に輝李は胸が苦しくなる。

『私には…何も出来ないの？
乙がこんなに苦しんでいるのに
ねぇ…乙…』

輝李は、そっと懲罰房を後にした。



しばらくすると何もなかったかのように乙が部屋に戻ってくる。

｢輝李？どうしたんだ？｣
｢クッキー作ったから…
一緒に食べようと思って…
ティータイムまだなんでしょ？｣

にっこりと万遍の笑みを浮かべて輝李はお茶の用意をした。


『今の私が出来る事は、きっと笑顔でいることなんだ
乙が…悲しまないように…』