【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

砂時計

砂時計１

あの子猫事件から、しばらく経った。
結局、母の体が落ち着くまで子猫はメイド長の家で飼われる事になった。
父は相変わらず家に帰ることは、ほとんどない。
あの懲罰房に入れられた時から、輝李きりは乙きのとの部屋に眠りに来るようになった。

｢乙…｣

時折、輝李は乙の名を呼び、うなされる時があった。
そのたびに乙は輝李の手を握り抱き締めたまま眠るのだった。
乙の温もりを感じると輝李は、安心したように、また落ち着いて安らかに眠った。
目が覚めるたびに輝李は、まず乙の存在を確認する。
目を開ける寸前までドキドキと鼓動が鳴る。

『目を開けて、隣に居なかったらどうしよう。
また、あの部屋に行っていたら…』

そんな事を想いながら、恐る恐る目を開けると目の前に乙の寝顔がある。
ホッとして窓の外を見ると、まだ薄明るい。
朝というには少し早い時間だ。
輝李は乙に寄り添い、また微睡みながら眠りにつく。


そんな毎日が続く中、温もりの違和感に輝李が目を覚ますと乙が隣に居なかった。
乙が寝ていたであろう場所は、ひんやりとして、たった今出ていったとは考えにくい。
輝李は慌ててベッドから起きると部屋中を探した。

『まさか…！』

勢いよくドアを開けると、今まさに部屋に入ろうとしていた乙とぶつかる。


｢!!!｣
｢輝李、どうしたんだ？｣

ビックリしながら輝李を抱き支え乙が問う。
輝李は不安と安堵が入り交じり、思わず声を荒げた。

｢どこに行ってたの!!｣
｢…トイレだけど、起こすと悪いと思って｣
｢…あ…ごめん…｣
｢まだ夜中だ、寝ようぜ｣

笑顔で輝李の手を引く乙の髪から一瞬、微かにタバコの匂いがした気がした。