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子猫
子猫3
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中庭に向かうと、輝李はベンチにポツンと座り俯きながらヒクヒクと肩を揺らしていた。
どうやら泣いているらしい。
乙は、ゆっくり近づくと声をかけた。
「…輝李」
そっと輝李が顔を上げる。
膝の上にはタオルに包まれた小さな何かが、モソモソと動いている。
輝李は小さく口を開いた。
「今井も…メイド長もひどいんだ」
不意にタオルの中からフワフワな生き物が顔をのぞかせる。
「…猫…か」
乙はポツリと口にすると、使用人の困った顔をした理由をやっと理解した。
「…まだこんなに小さいのに、元の場所に置いてこいって言ったんだ…」
「輝李…お前の気持ちは解る」
輝李の顔に少しだけ光が射した。
乙は、静かに言葉を続ける。
「でもな…命があるものは、時に残酷なんだ」
「そんなの…解ってるよ…。
私は、ただ可愛いだけで飼いたいなんて思ってない…」
乙の言葉にシュンとしている輝李の隣に静かに腰を下ろす。
「何で今井達がダメだ、と言ったか輝李には解るか?
決して輝李が憎いからでも猫が嫌いだからでもない」
「……」
「今は…タイミングが悪いんだ…」
乙は目を伏せて静かに息を付く。
『また…あの眼だ。大人の眼…
この目をした時の乙は、まるで遠い手の届かない所に行ってしまいそうな気がする』
輝李は少し淋しそうに乙を見つめた。
乙が静かに口を開いた。
「母さんが今どんなになっているかは、輝李も知ってるだろう?」
「うん。母様のお腹の中には赤ちゃんがいるんでしょ?」
「ああ、そうだ。
母さんは体が弱いのは知っているよな?」
「…うん」
「母さんは今、物凄く刺激に敏感な時だ。
だから俺達ですら、なかなか母さんに会うこともままならないだろう?」
「…うん」
「それほど母さんの体は外の空気に敏感になっているんだ」
乙の言わんとしている事は、輝李にも充分よく解っていた。
しかし輝李にとっても、この小さな子猫は自分の子供のような感覚が通り抜けた。
只の小学生でしかない輝李には、どうしようもない。
でも…
「…そんな事は、解ってるよ…
でも!!
こんなに弱っているのに、このまま、この仔をあの元の場所に返したら、この子が死んじゃうよぉ!!!!」
輝李は涙目で乙に訴えた。
「輝李…」
輝李の必要なまでの弱りきった子猫へ執着は、乙の胸に刺さる。
確かに、この状態でこの子猫を置きに行けば間違いなく命を落とすことは明らかだった。
「乙、何とかならないの?」
輝李の言葉に乙は、手を顎に添え考え込んだ。
いくら乙が大人びていると言っても、しょせんは輝李と同じ歳である。
早々いい案が浮かぶわけがない。
どうやら泣いているらしい。
乙は、ゆっくり近づくと声をかけた。
「…輝李」
そっと輝李が顔を上げる。
膝の上にはタオルに包まれた小さな何かが、モソモソと動いている。
輝李は小さく口を開いた。
「今井も…メイド長もひどいんだ」
不意にタオルの中からフワフワな生き物が顔をのぞかせる。
「…猫…か」
乙はポツリと口にすると、使用人の困った顔をした理由をやっと理解した。
「…まだこんなに小さいのに、元の場所に置いてこいって言ったんだ…」
「輝李…お前の気持ちは解る」
輝李の顔に少しだけ光が射した。
乙は、静かに言葉を続ける。
「でもな…命があるものは、時に残酷なんだ」
「そんなの…解ってるよ…。
私は、ただ可愛いだけで飼いたいなんて思ってない…」
乙の言葉にシュンとしている輝李の隣に静かに腰を下ろす。
「何で今井達がダメだ、と言ったか輝李には解るか?
決して輝李が憎いからでも猫が嫌いだからでもない」
「……」
「今は…タイミングが悪いんだ…」
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「うん。母様のお腹の中には赤ちゃんがいるんでしょ?」
「ああ、そうだ。
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「…うん」
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だから俺達ですら、なかなか母さんに会うこともままならないだろう?」
「…うん」
「それほど母さんの体は外の空気に敏感になっているんだ」
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只の小学生でしかない輝李には、どうしようもない。
でも…
「…そんな事は、解ってるよ…
でも!!
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