【R18】アールグレイの月夜 ー双子の妹・輝李編ー

双子の少女

双子の少女２

｢それでは、乙きのと様。
この問題は、午後の授業まで宿題といたしましょう。
それでは奥様、輝李きり様、失礼致します｣

教育係は一礼をして、そそくさと部屋を出ていった。
教育係が部屋を出るのを確認すると、母は優しく微笑み

｢それじゃあ、私はお茶の用意を頼んでくるわね。
後で部屋にいらっしゃい♪｣

と言うと静かに部屋を出ていった。
乙の部屋には小さな二人が残された。

｢輝李は…母さんと一緒に行かないのか？｣
｢う、うん…｣
｢そうか…、人一倍甘えん坊のお前が珍しいな…｣
｢うん…｣

つい勢いで来てしまったが、普段から教育方針がバラバラな為、あまり二人で遊ぶ事がない輝李と乙の間には微妙な距離感があった。

｢……｣
｢……｣

二人の間に小さな沈黙が流れる。
勿論、お互いが嫌いな訳ではないのだが、輝李は天真爛漫。
乙はその逆で冷静沈着。
お互いがお互いにどう接したら良いのか解らないのだった。

輝李は遠慮がちに最初に口を開く。

｢あ…あの、さ…乙｣
｢…あ、うん…｣

中々、言葉が出てこない。
輝李は後ろ手に隠した花束に力が入ってしまう。

輝李は、少し話しにくそうにモジモジとしながら上目遣いを送る。

｢あ…あのさ…、乙、お花好きでしょ…？｣
｢あ、うん…｣
｢だからさ…、乙、お勉強で中々お外に出れないし…あの…
お庭に咲いていたのなんだけど…こ、これ…!!｣

輝李は、目をギュッと閉じて花束を前に突き出した。

｢これを…僕に…？｣
｢う、うん…｣

乙は、椅子からスッと離れるとゆっくり輝李に近づいた。
輝李は時折、チラリと上目遣いに乙を見たが、また俯いてしまう。
乙は、ソッと輝李の持つ花束に手を伸ばし、受け取ると珍しくニッコリと笑顔を作り輝李に送る。

｢ありがとう、輝李｣

乙の笑顔に輝李もパァッと万遍の笑みを返した。
乙は、空いていた花瓶に花を生けると、優しく花を見つめポツリと呟いた。

｢…綺麗だな。
これ花壇に咲いていたのか…。
…知らなかった｣
｢乙…｣

『自分の家に咲いている花も知らないほど乙は、外に出る事がないのかぁ…』

輝李は少し淋しそうに思った。
不意に乙が輝李に話し掛ける。

｢これ…輝李が選んだのか？｣
｢う、うん♪｣
｢…そうか｣

優しく微笑む乙の顔は、まるで天使のように輝李には、ふんわりと映って輝李の時間を停めた。